第20話 お留守番組 (ゲイル視点)
「私も付いて行って、リリア様のデートのご様子を見てみたかったです」
「まぁ気持ちは分かるけど、僕達まで一緒に行ったら注目が分散されちゃうからね」
キャンベル公爵家で昼食まで頂いて一息ついた後、しょんぼりと項垂れるアイリス嬢にそう言って慰める。
確かに友達のデートってどんなのか見てみたいけど、コソコソと尾行能力が低い僕達が付いて行って悪目立ちして、計画を破綻させる訳にはいかないから今回は我慢してもらうしかない。
「リリア嬢が帰還したら、どんなデートをしたのか聞いてみては?」
「ジェニー様、リリア様は少し恥ずかしがりやな所があるのでそれは難しそうです」
「ではリリアさんに付けた護衛達に、後からどんな感じだったのか聞いてみるわね」
「本当ですか!? エリザベート様ありがとうございます!」
(それにしてもアイリス嬢って豪胆だねぇ)
ここはキャンベル公爵邸で、周りには公爵家や侯爵家の人間が揃っているのに臆さないで話してるって中々だよ。
(そう言えば出会ってからも、衝撃的な事があったよね)
――リリア嬢が『薬学クラス』で加護持ちではないかと噂された時に、ヴィルから『リリアを守るのを手伝って欲しい』とお願いされ、それならリリア嬢と友達のアイリス嬢にも協力してもらおうと声をかけた。
「リリア様の為なら何だって致します!ご協力させて下さい!」
休日の食堂で食事をしていたアイリス嬢に声をかけて、協力を取り付けてると勢いの良い返事が返って来て、リリア嬢の移動に合わせて誰かが付き添う形になった。
しかし僕とヴィルは家の力や噂で近付けさせないでいるけど、アイリス嬢では抑止力が足りずに突破されてしまい『私に!私にもっと力があれば!!』とご令嬢らしからぬ魂の叫びを上げて、驚かされたのは記憶に新しい。
――ふっとまた思い出し笑いをしそうになるのを堪えて隣にいるアイリス嬢を見ると、今は二人がどんな装飾品を贈り合うのかを女子三人で予想していた。
(……心地良いんだよねぇ)
ウォーレン侯爵家の跡取りだけど婚約者がまだ居ない僕は、今でこそリリア嬢の噂が勝って落ち着いてはいるけどご令嬢から声をかけられる事も少なくなかった。
(皆、僕に自分を売り込むのに必死で、話しているだけで疲れるけどアイリス嬢は全然そんな感じがしないよね)
まぁ今の彼女はリリア嬢を守って、ヴィルとの恋の行方を見守るのに全力だからそうなんだけれど、一緒に居て気疲れしなくて良いのは純粋に嬉しい。
「ゲイル様はどのような装飾品だと思いますか?」
パッとこちらに話しを向けたアイリス嬢に少し驚いたけど、話しの内容は聞いていたのでちょっと考えてみる。
「そうだねぇ、ヴィルが以前リリア嬢に『瞳の色の事を銀細工みたいで綺麗だと言ってくれた』って話してたから、銀細工で選ぶと思うよ?」
「えぇっ!? 何ですかその素敵なお話し!?」
初耳ですと興奮するアイリス嬢にふと、思った事を聞いてみる。
「ねぇアイリス嬢」
「はい?」
「アイリス嬢が貰うなら、どんな物が良い?」
「私がですか?」
ちょっと興味があるんだ、いつもリリア嬢の事を一番に考えている彼女が何を欲しがるのか。
「そうですねぇ……『剣術クラス』でよく剣を振るいますから、手に着ける装飾品は無理ですし…髪飾りも落としてしまいそうだから首飾りが良いですね、実習の時は服の中に入れたら良いですし」
アイリス嬢らしい答えに「成る程ねぇ」と納得していると、エリザベート様とジェニー嬢がこちらを意味深に見ているのに気付いた。
「……え〜っと…どうされました?」
「…どうしてアイリスさんにその質問したのかしら?」
「それは…話しの流れで聞いてみただけですよ」
そう答えても、ジッと探るような視線に居心地が悪くなる。
「あの…どうかされましたか?」
「いえ何でもないわ、そろそろ帰って来る頃じゃないかしら?」
「本当ですね、もう15時を過ぎてます」
僕達の様子に戸惑うアイリス嬢に、エリザベート様が微笑みながら話しを切り替えてくれたのでホッとする。
そこへ馬車が近付く音が聞こえて来たので、出迎える為に部屋を出ようと皆で扉に向かうと、後ろにいたジェニー嬢に呼び止められた。
「何かなジェニー嬢?」
「……私に君を止める権利はないけれど、同じ侯爵家として忠告はしておく、興味本位で深入りはするな、するならあの父君を納得させる材料をかき集める事だな、じゃないと傷付くのは彼女だ」
「…何か勘違いしてるみたいだね? 彼女はそんなんじゃないよ」
僕のその言葉に納得しきれてないジェニー嬢だが、先に行っている二人に呼ばれた為、この話しは切り上げる事となった。
(分かってるよ、自分の立場ぐらい…)
ヴィルには話した事はないけど、侯爵家の跡取りとしてウォーレン家に『有益な』相手と結婚する事。
貴族らしいと言えば貴族らしい、権力に固執する父親に幼い頃から言われ続けたその言葉。
(今はまだ相手は決まってないけど、将来的には父親が選んだ人と結婚するんだろうな)
自由に恋愛なんて出来ないから、せめて友達には好きな人と一緒になって貰いたいとお節介をかけて、楽しんでいるんだけどね。
『もしゲイルにも良い出会いがあったら教えて欲しい、俺でも力になれるかも知れないから』
ふとその友達が言ってくれた言葉を思い出す。
(ごめんねヴィル、僕には難しいよ)
前を行く赤紫色の髪を見つめる。
(彼女は、友達の恋路を共に見守る仲間、それだけなんだから)
そう自分を納得させて前を向く、今からその友達を迎えに行くんだから暗い顔なんてしてられない。
果たしてリリア嬢に贈った装飾品は自分の予想通りなのか、そしてそれを見たアイリス嬢のリアクションはどんなものなのか、少し沈んでしまった気持ちを切り替えて、皆の様子を楽しむ為に玄関ホールへと向かった。
いつも読んで頂きありがとうございます!
今回はゲイル視点を書きましたが、ちょっと最後が重たくなってしまいましたね。
次回は翌日の学園からスタートする予定です。




