第18話 期間限定の婚約者
「リリア嬢、君の席はこちらだ」
「えっ?」
話しがあるからと呼ばれた公爵家、着席を促されたのでアイリスの隣に行こうとするとジェニーに反対側に連れて来られ、何故かヴィルティスの隣に座らされた。
そしてアイリスの隣にはゲイルが座り、短辺の席にエリザベート、その後ろにジェニーが控えている状態だ。
(え〜何この席順?これもエリザベートの指示なのか?)
そこへ先にお茶をどうぞと、公爵家のメイドさんがお茶を運んで来てくれた。
(すげぇ香りからして高級品なのが分かる、流石は公爵家)
全員にお茶を配り終えたのを見計らって、エリザベートが話し始める。
「どうか落ち着いて聞いて欲しいの、これからリリアさんは厄介な事に巻き込まれてしまうわ」
「それは、私が加護持ちだからですか?」
(もう疑惑の時点で結構絡まれてて、確定されたのなら更に増えそうだけど厄介な事って?)
エリザベートが俺の質問に頷きながら続ける。
「それは大きく分けて三つあるわ、一つ目は加護持ちと繋がりを持ちたい人達、数百年に一人の存在である加護持ちと懇意な関係を持てれば、その家に箔が付くから」
成る程、つまり『我が家は加護持ちと仲が良いんだぞ』って言うマウントを取りたいんだな。
「二つ目はより深い関係を望む人達、つまりリリアさんと婚姻を結んで加護持ちを身内にするの」
エリザベートのその言葉にゾッとする。
(うわぁ、マジかマジか!でもそうだよな、貴族の中でも一番強い契約って婚姻だもんな、嫌だな俺との結婚を迫って来る奴等が出てくるのか!)
「大丈夫、恐らくそれを回避する為にエリザベート様は俺達をお呼びしたんだと思う」
ぶるりと身震いする俺に、隣のヴィルティスがそう耳打ちしてくれる。
(そっ、そうだよな!わざわざ公爵家に呼ぶぐらいだから、何か打開策がある筈だもんな!)
落ち着け、取り敢えずエリザベートの話しを最後まで聞こう。
「そして三つ目は、加護持ちを教会側に引き入れて力を付けたいティアメル教会よ」
ここで出て来ちゃったよティアメル教会!
うわぁってなっていると、ゲイルが手を挙げる。
「エリザベート様、貴族側が加護持ちと関係を持ちたいのは分かりますが、教会側が力を得ようとしているのは確かなのでしょうか?」
その質問に、エリザベートの後ろで控えていたジェニーが答える。
「まだ情報は少ないがここ最近、神官が代わったタイミングでお布施の額が上がったり、自由である筈の信仰を強要するような話しがあったり、きな臭くなって来ているんだ、ここで加護持ちが現れたとなったらリリア嬢を引き入れて更なる問題を起こす可能性がある」
……うん、思ってたよりヤバいなティアメル教会。
(でも神官が代わったタイミングなら、元々はちゃんとした教会だったのかね?)
想像より重たい内容にちょっと空気が沈んで居た堪れない。
そんな空気を取り払うかのようにパンッとエリザベートが手を叩いた。
「でも、そんな人達を追い払う方法が二つあるわ!
一つはキャンベル公爵家がリリアさんの後ろ盾になる事、そうすれば他の貴族達はおいそれと近付けないでしょう」
成る程!その手があったか!
貴族の中でもトップクラスのキャンベル公爵家、これ以上にない強力な味方じゃんか!
「しかしエリザベート様、宜しいんでしょうか?」
「言ったでしょう?友人を助けて貰ったお礼がしたいって、我が公爵家の名前でリリアさんを守れるなら遠慮なく使ってちょうだい」
その力強い返答に礼を言って頭を下げる。
流石はエリザベート、何て格好良いんだ!!
「でも婚姻を望む人達は出て来ると思うの、王家は『加護持ちと婚姻を結ばない』って決まりがあるし、第一王子のサイラス様は私の婚約者だから心配はないのだけれど」
ああ、そっかエリザベートにはサイラス王子って言う『クズ王子』の婚約者がいるんだったな。
本人は『公務で忙しいから』と生徒会をエリザベートに押し付け、忙しいと言っているのに他の女生徒にちょっかいをかけてエリザベートが指摘すると『側室候補を選んでいるんだ』と言い訳するクズっぷりだ。
それ以外にも色々やらかして最終的には王位継承権を剥奪されるんだけど、主人公が主体となって証拠を突き付ける事でエリザベートを攻略出来るんだよな。
(まぁ放っといても勝手に自滅してくれるから、今は置いておこう)
「王家にそのような決まりがあるのですね」
「王家は国のトップだから、加護持ちを身内に加えると他の国々との間に亀裂が生じてしまう可能性があるの、だからこの決まりはフォマーレ王国以外の国も共通であるのよ」
アイリスとエリザベートの会話に(成る程、良く考えられてるなぁ)と納得している間に、エリザベートが会話を続ける。
「王家は問題ないとして、リリアさんと婚姻を望む貴族が出て来た時に、私でも止められない可能性が出てくるわ」
いくらキャンベル公爵家の後ろ盾があるとは言え、その目を掻い潜って接触する人達も居るだろうし、同等の公爵家や他国の貴族達だって立候補する可能性だってある。
その場合は流石のエリザベートでも止められない。
「では、どうすれば良いのでしょうか?」
「先程『二つある』と言ったでしょう?もう一つはリリアさんが言い寄られる前に婚約する事、もう既に相手が決まっているとなったら殆どの人が手を引く筈だし、教会もお相手が居るご令嬢を無理に引き込んだり出来ないから抑止力になるわ」
ふんふん成る程ねぇ〜………えっ?
「えぇっ!? ここっ婚約ですか!?」
「落ち着いてリリアさん、期間限定の婚約者でも良いのよ?」
「期間限定…ですか?」
「そう、せめて学園に在学している間だけでも守ってくれる人よ」
いや解決策が予想外過ぎるって、確かに効果はてきめんだろうけど、そんな都合の良い相手なんて……待てよ!?
バッとヴィルティスの方を見ると、俺以外の全員もヴィルティスに視線を送る。
「……俺、ですか?」
「頼めるかしら?ヴィルティス・バールナー」
やっぱりヴィルティスかぁ!!
待ってくれ!まだ彼に対する自分の気持ちが分からないのに!
「成る程!お二人は恋仲の噂があるから疑われる事もなさそうですね!」
「しかも通常クラスと選択クラスも一緒だから、これ以上の適任者は居ないよ」
待て待て!アイリス、ゲイル、話しを進めるんじゃない!
まさか恋仲の噂がこんな事で活きるなんて思わないって!
「でもっそんなヴィル様にご迷惑が…」
「…迷惑じゃないよ」
「えっ?」
(何て…?何て言った?)
戸惑う俺にヴィルティスが向き直って、真っ直ぐ見つめてくる。
「ヴィル様?」
「前に言ったよね?『君の力になりたい』って、俺はリリアに救われたんだ、だから今度は俺に君を守らせて欲しい」
「でもっ期間限定とは言え婚約者になるのですよ?
その間にヴィル様に好きな人が出来たら……」
ヴィルティスの言葉にどぎまぎしながらも、義理人情でなるもんじゃないと訴える。
ヴィルティスがちょっと残念そうな顔をするけど、そんなに恩を返したいのか?
「え〜っと…じゃあ!婚約の期間は学園を卒業するまでか、ヴィルかリリア嬢に好きな人が出来るまでって事にしよう!」
「その場合はリリア嬢には新しい婚約者が必要になるが、それはその時になったら考えれば良い」
ゲイルとジェニーが提案するけど、本当にそれで良いのだろうか?
でもそれ以外の打開策があるのかと聞かれても、良い案なんて浮かばないし…。
「ヴィル様…本当に良いのですか?」
「君を守れるなら本望だよ、リリアはもう少し人に甘える事を覚えた方が良いね」
茶化すようなヴィルティスの様子に少しホッとする。
(婚約者になったとは言え、本物の恋人になる訳じゃないもんな、友達の延長線だと考えれば良いのかな?)
「…あれ?私とヴィル様が呼ばれた理由は分かりましたけど、アイリスとゲイル様は?」
「アイリスさんとゲイルは二人の友人だから、この話しを聞いてもらって口裏を合わせて欲しかったの、昨日の今日で婚約したとなったら驚くでしょう?」
成る程、確かに知らせておかないとボロが出ちゃうかもだもんな。
「これで私の話しておきたい事は話し終えたけど、二人にはまだやってもらいたい事があるの」
「なんでしょうか?」
「この後デートして来てちょうだい」
「デート!?」
(何でいきなり!?)
「今日は臨時休校だから、寮生も家から通っている人も街に出てる筈よ、そこで二人の仲の良さを見せ付けておくのと同時に買って欲しい物があるのよ」
「なっ…なんでしょうか?」
「お互いの瞳の色の装飾品よ」
(あぁ~!! アレか!!)
この世界では恋人や婚約者に自分の瞳の色の装飾品を贈り合う風習があって、それを着けていると『恋人が居ます』と意思表示になるから、他の異性を寄せ付けないお守りにもなる。
『恋ハピ』でも街歩きデートの時に贈り合うイベントがあったなぁ。
(…もしかして、あの具体的な服装の指示ってデートの為!?)
数時間前に思った疑念が解決した瞬間だった。
いつも読んで頂きありがとうございます!
ブクマやリアクションも凄く嬉しいです!
人数が多いと会話のシーンが難しくなっちゃいますね。
次回、デート回です!




