第16話 緊急事態発生!
※今回は少しだけですが怪我や流血表現があります。
「ごきげんよう!リリア嬢!」
「ごっごきげんようゲイル様」
休日が明けてからヴィルティス、アイリス、そしてゲイルの3人が、俺が1人になって質問攻めに合わないように、付き添ってくれるようになっていた。
(いやヴィルティスとアイリスは友達だから分かるけど、なぜゲイルまで…しかも3人で話し合ってたりしてるし、俺が部屋に引きこもってる間に何があったんだ!?)
何か、今度は俺が疎外感を感じてしまうんですけど!?
(でも流石は侯爵家、誰も近づいて来ないな)
不特定多数に絡まれないのは純粋にありがたい。
ヴィルティスも辺境伯家で、しかも今は俺と恋仲の噂があるから近付く人は少ない。
だけどアイリスは男爵家で抑止力がほぼないらしくスルーされてしまっていて『私に!私にもっと力があれば!!』と闇堕ちしてしまいそうなセリフを叫んでたのは衝撃だった。
(でも、一人で居るより心強いからとフォローを入れたら落ち着きを取り戻してくれたけど)
「この状況、いつまで続くんでしょうか?」
「う〜ん、確定してないとは言え一生に一度、会えるかも分からない加護持ちだからねぇ、暫くは続くかも」
(マジかぁ…皆にも迷惑かけ続けちゃうよな)
「ゲイル様達にも、ご迷惑をおかけしてますよね…」
「えっ?僕達なら大丈夫だよ?移動のついでとかだし、それに…ふふっ」
「?どうされました?」
「いや、アイリス嬢の『私にもっと力があれば!!』って、ご令嬢から中々聞かないセリフだと思って」
その時を思い出したのか、ゲイルが必死に笑いを堪えている。
(まぁ気持ちは分かるけど)
「……彼女は真剣に言ってくれてますので、あまり笑わないであげて下さいね」
「大丈夫分かってるよ、あっヴィルだ」
ゲイルの声に前を向くと、ヴィルティスがこっちに向かってやって来た。
「お帰り〜用事は終わった?」
「あぁ終わったよ、そういう二人は何の話しをしてたんだい?」
「ゲイル様がアイリスのあのセリフを、思い出し笑いしてたんです」
俺が説明すると、ヴィルティスも「あ〜…」と苦笑いを浮かべた。
(やっぱりヴィルティスも衝撃的だったんだな)
「そう言えば、そのアイリス嬢を見かけないね」
「彼女は今日の午後から実戦練習だろ?」
「あっそうか、今日か」
そう、週の半ばを過ぎた今日の午後から、アイリス達『剣術クラス』は王都から馬車で少し行った先にある森で実戦練習をする事になっている。
「私は午前の授業の後に見送りに行きましたが、心配です」
「実戦練習って言っても1年生は前に出ず、2年生の実戦を見学する感じみたいだから、そんな危険はないと思うけど」
ゲイルがそう返してくれるけど、実際に魔物を間近で見るって結構怖いと思うんだよ。
う〜んと唸っていると、ヴィルティスに背中をポンポンと軽く叩かれる。
「心配なのは分かるけど、アイリス嬢を信じて俺達は自分がするべき事をしよう」
「そうだね、じゃあ僕は『魔法具クラス』に行くから」
またねと、ひらひら手を振りながらゲイルが去っていったので、俺達も『薬学クラス』へと向かった。
「そうですね、あまり心配し過ぎてもアイリスに失礼ですよね」
先生も付いてるんだし、ヴィルティスの言う通り俺は自分の授業に集中しないとな。
「――なんだか騒がしくないですか?」
午後の授業も終わり、もしかしたらアイリス達が帰ってきてるかもと、ヴィルティスと正門の方へ行ってみるとザワザワと生徒達が集まっている。
(皆『剣術クラス』の友達を迎えに来た?けど雰囲気が物々しくないか?)
もっと近くで確かめようと人集りの方へ向かうと、ツンっと錆びた鉄のような臭いが鼻を突いた。
(この臭いってまさか!!)
「リリア!?」
「すみません!通して下さい!」
ヴィルティスの制止を振り切って前に出ると、大勢の生徒が血を流しながら倒れている姿が飛び込んできた。
「!?……これって…!!」
アイリスも着ていた『剣術クラス』の実戦用の制服が、あっちこっち切り裂かれている。
(そんな…アイリスは!?)
キョロキョロとアイリスを探していると、「はい!どいてどいて!!」と保健医のキャサリン先生と『薬学クラス』のアンジー先生がポーションを抱えて走ってきた。
「キャサリン先生足りますか!?」
「駄目!足りない!『剣術クラス』に持たせていたポーションは!?」
「それが、森で使い果たしてしまって……」
「そんな…怪我ならともかく、毒はそのままにしておけないわ!」
(えっ?毒?今、毒って言った?)
「アンジー先生、今直ぐ王都病院に連絡!ありったけのポーションを手配して!ここに居る生徒達の中に水魔法を使える子は居る!?」
俺を含めてた生徒達にキャサリン先生が叫ぶ。
「居るなら、この子達の傷口を洗い流して!付着している毒を洗い流せば少しはマシになる筈よ!」
その言葉にバッと前に出る。
「キャシー先生!私水魔法が使えます」
「リリアちゃん!助かるわ、傷口には触れないように注意してね」
「はい!」
他の生徒達は水魔法が使えないのか、それともこの凄惨な状況に固まってしまっているのか動かない。
(そりゃあここに居る大勢が貴族だし子供だもんな、でも俺は見かけは美少女でも中身は成人男性なんだ!)
謎持論を心の中で叫びながら怪我をしている生徒達に近付くと、見慣れた赤紫色のポニーテールが見えた。
「アイリス!」
「リリア様!?」
驚いたアイリスも右腕部分の制服が切り裂かれていて、そこから血が滲んでいている上に、毒を受けたのか傷口の周りの皮膚が紫色に変色している。
(酷い…アイリスも毒の影響なのか苦しそうだ)
ハァハァと浅く息をするアイリスに、少しでも楽になれるようにと杖を向ける。
「アイリス、今から傷口を洗うけど染みたらごめんなさいね」
「だっ大丈夫ですリリア様、よろしくお願いします」
なるべく緩やかな水流を作って傷口を洗うと、キラキラと輝いた後「えっ!?」とアイリスの驚いた声が聞こえた。
「大丈夫!? 痛かった?」
「いえ、あの、リリア様……治りました」
………治りました?
「治った!?」
アイリスの右腕を見てみると、破れた制服はそのままだけど、傷口も変色した皮膚も綺麗に治っていた。
(どう言う事だ!? この世界には治癒魔法なんてないのに!)
だからこそ治癒や回復にはポーションが欠かせないのに。
(まさか、まさか…)
アイリスの横にいた生徒にも「傷口を洗うから」と水魔法をかけると、キラキラした後やっぱり治っている。
(これが本来の加護の力なのか!?)
この世界には存在してなかった治癒の魔法。
しかも毒も同時に治せるなんて、とんでもない力だ。
「リリア!? その力は一体…?」
俺を追いかけて来たヴィルティスも、近くにいた生徒達も、傷口が治癒されたのを見たのか目を見開いて驚いていた。
(怪我や毒で苦しんでいる人達が居て、俺がそれを治せるなら隠してなんかいられない!)
アンジー先生が病院からポーションを手配するのにも時間がかかるだろう…それなら!
「ヴィル様、どうやら私の加護は解毒と治癒を同時にできるみたいです
ここに居る人達を治しますので、魔力回復ポーションをお願い出来ますか?」
「……良いのかい?」
加護持ちだと確定すれば、今まで以上に注目を集めるだろうと心配してくれてるけど、迷わずに頷く。
「…分かった、でも無理はしないでね」
「リリア様、私も動けますのでお手伝い致します!」
ポーションを取りに行ったヴィルティスに代わり、アイリスが手を挙げてくれた。
「ありがとうアイリス、ではまずキャシー先生にこの事を伝えてくれる?」
「はい!」
そうして俺はポーションが行き届いていない生徒達の治癒に取りかかった。
「凄い…」
「まさに奇跡だ」
水魔法をかけるとキラキラ輝いた後、綺麗に治っていく傷口に皆が感嘆の声を上げる。
(今何人目だ?流石にしんどくなってきたぞ…)
ポーションを渡し終えたキャシー先生とアイリス、そして騒ぎを聞き付けて来たゲイルが、治癒し終わった生徒達を誘導して、俺の周りに人集りが出来ないようにしてくれているけど、まだまだ怪我人が残っている。
「リリア!魔力回復ポーションを受け取ってきた!」
そこへ俺の頼みで魔力回復ポーションを取りに行ってくれていたヴィルティスが、戻ってきてくれた。
「ありがとうございます!」
受け取ってグイッと一気に飲むと、ふわ~と魔力が湧き上がって来るのを感じる。
(よしっこれなら行ける!)
それから俺は、魔力が不足したらポーションを飲んで治癒を再開する流れを繰り返し、漸く最後の一人を治癒し終えた。
(終わったぁ!良かった、全員治せたぁ!)
ふぅと息をついて立ち上がろうとすると、膝からカクンと力が抜けて座り込んでしまった。
「あれ?」
「リリア!?」
慌てたヴィルティスが支えてくれたけど、なぜだか力が入らない。
「すみません、力が入らないて…」
「これは……疲労ね、魔力はポーションで補えたけど、ずっと魔法を使っていたから疲れが出たのね」
本当にお疲れ様と、頭を撫でてくれたキャシー先生が俺を診断してくれる。
(マジかぁ…つまりはスタミナ不足って事か、じゃあスタミナを回復するポーションとか作ったらどうだろう?前世で言う栄養ドリンクとかのイメージで)
今までなかったのかな?ちょっと後でアンジー先生に聞いてみようかと思っていると、座り込んでいる下半身にバサッと何かが掛けられた。
(ん?何だ?制服のブレザー?)
「えっ?何…?」
「リリア、ちょっとごめんね」
「えっと…?キャッ」
ちょっとヴィルティス近くない?と思った瞬間、ふわっと身体が浮く感覚に小さく悲鳴を上げてしまう。
(何だよ『キャッ』って乙女か!って言うかこれって)
所謂お姫様抱っこってやつか!?
ブレザーはアレか!スカートの中が見えないよにしてくれてんのか!!
「ヴィヴィっヴィル様!?」
「ごめん、でもずっと地べたに君を座らせる訳にはいかないし、日も暮れてきたから中に入ろう」
取り敢えず保健室までは我慢してって言われたけど…。
(ちっ近い!顔も近ければ声も近い!しかもこんなに密着してるなんて無理!顔が熱い!!)
掴まってくれた方が安定するって言われても、どうすれば!?
取り敢えず顔を見られたくないので、ヴィルティスの首に腕を回して肩に顔を押しつけた。
「嗚呼!なんて尊い光景…」
「ヴィル〜?自分で言っといて赤くなってるじゃん」
アイリスとゲイルが何か言ってるけど、もうそれどころじゃない!
心臓が爆発する前に早く着いてくれと、ただただ願うしかなかった。
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4000文字を超えると、お話を2話に分けるか1話でまとめるか悩んじゃいますね。




