8 . 森を抜けた
俺の名はケイリー。今、この呪われていると噂の森の真ん中で、己の運命を呪っているところだ。問題はただ一つ。セーリア様がいなくなっちまったんだ!
さっきまで、あんなに可愛い顔をして果物をおねだりしてたっていうのに。俺の心臓はディスコ状態だったんだぜ。俺の脳内シミュレーションじゃ、二人で遭難して、森の中に愛の小屋を建てて、森の支配者ファミリーとして末永く爆発する予定だった。なのに現実はどうだ? 戻ってみたら、地面に飲み込まれたみたいに影も形もありゃしない。
ガサッ……ボキッ……。……た、助けてくれ……。
「なんだ、今の音?」俺は警戒して振り返った。何かがモンスターに咀嚼されてるような音だ。正直、生まれてこの方本物のモンスターなんて見たことないし、恐怖より好奇心が勝っちまった。
学園の裏山は凶悪な魔獣の巣窟だって聞いてたけど、妙なことに、さっきから牙のある生き物なんて一匹も見かけない。「モンスター共、有給休暇中か?」なんて独り言を言いながら、音のした方へ忍び寄った。
茂みから覗き込むと、そこにあったのは……なんともアンティークな光景だった。モンスターはいない。森の真んで巨大な鉄の檻があり、その中には見覚えのある男が閉じ込められていた。
「助けてくれ……誰でもいい、ここから出してくれ!」檻の中からヘンドリック・ローガン様が叫んでいた。
「おや……これはこれは、高貴なるヘンドリック若様じゃないですか。出荷待ちの鶏のシミュレーション中ですか、若様?」周囲に危険がないことを確認して、俺は近づきながら声をかけた。
「貴様……あのゴキブリ野郎! なぜこんな所に!?」ヘンドリック様は、その惨めな状態でも相変わらず傲慢だった。「早く出せ! モンスター共が戻ってくる前に!」
「正直に言うと、道に迷いましてね」俺は恥も外聞もなく答えた。「でも残念ながらヘンドリック様、出すわけにはいきません。森の芸術的なオブジェだと思って諦めてください。どうせアルドリック様からのお仕置きでしょう?」
「誰が仕置きだと言った!」ヘンドリック様がパニックで叫ぶ。「黒装束の奴らに誘拐されたんだ! だが、俺の凄まじい威圧感のおかげで、檻を噛もうとしたモンスター共は尻尾を巻いて逃げ出したんだぞ!」
「モンスター!? どこに!?」俺はキョロキョロと周囲を見渡した。初めてのモンスターとの対面にワクワクが止まらない。
「え、ええい……貴様がビビるのも無理はないが、安心しろ! この偉大なるヘンドリックがいる限り、モンスター共は近づけまい!」ヘンドリック様は顔を紙のように白くして言い張った。
「でもさっき、鼻水を垂らしながら泣いて助けを求めてましたよね。バッチリ聞こえましたよ」高慢な奴を助ける義理はない。「そんなに凄いなら、自力で出ればいいじゃないですか。じゃあ俺は行きますね、あばよ!」
「待て! 置いていくな!」ヘンドリック様がヒステリックに悲鳴を上げた。「貴様、迷子なんだろ? 俺はこの森の出口を知っている! 地図が頭に入っているんだ!」
「本当ですか? 早く言ってくださいよ!」俺は渋々、檻の鍵を開けた。
外に出るなり、あいつの本性がぶり返した。「フン、下民め! ここでさらばだ。ついてくるなよ、さもなきゃぶっ飛ばしてやる!」
ヘンドリック様は猛スピードで走り去った。俺は呆れてため息をついた。「情緒不安定な貴族様だぜ」だが、俺も馬鹿じゃない。十分な距離を置いてから、こっそり後をつけた。あいつのおかげで、ようやく無事に森を抜けることができた。
魔獣の森だなんて、どの口が言ったんだ? 結局、一匹も拝めなかったじゃないか。「洞窟の中で作戦会議でもしてたんかな」なんて気楽に考えながら、夕暮れ時、俺は家路についた。
家に着いた瞬間、俺の心はバキバキに折れた。俺の藁の城(あばら家)がめちゃくちゃに荒らされている! 誰がこんな酷いことを? 一番の宝物なんて、寝床の藁の山くらいしかないっていうのに。
「おやおや……どこのどいつが、そんな冴えない面して帰ってきたんだい?」
不快な声がした。宿敵(自称)のジョネンだ。
「今度は何の自慢だ、ジョネン?」俺はうんざりして聞いた。あいつは「戦士」の才能に目覚めてからというもの、俺を馬鹿にすることに命をかけている。
「これが見えるか?」ジョネンは一輪の薔薇と、強い香水の香りがする手紙を見せびらかした。「ウィンダからの招待状だ。今夜、彼女の部屋に来てくれってよ。ははは!」
「ウィンダ!? 嘘だろ!」世界が崩壊する音がした。ウィンダはこの村一番の美少女で、俺たちがずっと奪い合ってきた相手だ。「悪夢だ、これは悪夢に違いない!」
「ははは! また俺の勝ちだ、ケイリー! 今夜はゴキブリ共とせいぜい仲良くするんだな、万年独身野郎! さらばだ!」ジョネンは傲慢な足取りで、ウィンダの家へと向かっていった。
希望が潰えた。カメラが完成したら、風呂上がりのウィンダを……コホン、彼女の美しさをドキュメンタリーとして記録したかったのに。この世界じゃ、女の部屋に招待されるってことは、翌日には祭壇に直行するって意味なんだ。
「……まあいい、俺にはセーリア様がいる。あっちの方が千倍美人だしな」
俺は自分を慰めた。そういえば、お嬢様は無事に家に着いたんだろうか。聞きに行きたいが、貴族街は遠すぎる。
……おや? あれはアルドリック様じゃないか? 伝説の英雄が、なぜこんな平民の居住区に?
俺は伝説のじいさんを見つけ、最高に愛想の良い、礼儀正しい笑顔を作った。孫娘さんの情報をくれるかもしれない。
「あ、アルドリック様! こんにちは!」俺は元気に手を振りながら近づいた。「こんな所で何をされて――」
ドォォォォォォンッ!!
突然、視界がひっくり返った。天地が逆転し、腹部に凄まじい衝撃を感じた。次の瞬間、俺の目の前には雲が迫っていた。
(え? 俺、飛んでる?)
大砲の弾のように空を切り裂く自分の体に、俺は困惑した。(硬い所に落ちたらヤバいよな……)
地上では、アルドリック様が電光を帯びた拳を突き出したまま立っていた。彼から見れば、ケイリーは「罪深きニヤケ面」を浮かべて近づいてくる大罪人だ。問答無用。彼は城壁をも崩落させる渾身の一撃を叩き込んだのだ!
市場にいた人々は口をあんぐりと開け、呆然と空を見上げた。一人の青年が伝説の英雄の前から一瞬で消え去り、その衝撃波で周囲の屋台が数軒吹き飛んでいた。
「あの世で責任を取るがいい、このドブネズミ野郎めが!」
アルドリック様は、ケイリーが空中で塵になったと確信し、怒りに満ちた声で吠えた。
ケイリーは、ウェルウィナ史上初の「人間大砲」となった! 果たして、彼はどこに墜落するのか!?
Terima kasih banyak telah membaca karya ini. Bab-bab baru akan diterbitkan setiap hari Sabtu dan Minggu pukul 09.00, dan pada hari kerja pukul 19.00. Terima kasih sekali lagi.




