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14. 壊れた大樹と、絶望の「モンスター見学」



ウェルウィナの城壁の外、薄明かりの漂う夜明け前は、いつもとは違う異様な空気に包まれていた。煙の臭いと、生臭い血の香りが、ケイリー君の立っている草原まで風に乗って漂ってくる。彼は目を細め、遠くで燃え上がる炎をじっと見つめた。


「あー……遠すぎる。何も見えねぇな」

ケイリー君は落胆した様子で吐き捨てた。「しょうがない……もっと近くまで行ってみるか!」


彼が歩き出そうとしたその時、背後ではラト第5部隊がどろりとした殺気を放っていた。男たちは全員、鼻血を止めるために鼻に布を詰め込んでおり、ラト-52は恥ずかしさのあまり正気を失いかけている。


「捕まえなさいッ!!」

ラト-52が絶叫した。


――シュッ!!

第5部隊の男たち八人が、飢えた虎のごとく跳躍し、ケイリー君に飛びかかった。彼は黒装束の山の下に埋もれてしまう。


「な、なんだよこれ! 離せよ!」

ケイリー君が暴れるが、多勢に無勢。結局、彼は魔力が込められた頑丈なロープで、近くの大樹に縛り付けられてしまった。


「なんで俺を捕まえるんだよ? 俺が何をしたってんだ!」


「目隠しをしろ! 我々の顔を詳細に見られるな!」


リーダーのラト-05が命じた。ケイリー君の目が黒い布で覆われると、ラト-52が草地を揺らすほどの重い足取りで歩み寄ってきた。


「くらえ、このド変態!!」


――パァァァン!!


乾いた音が響き、ケイリー君の頬に強烈なビンタが叩き込まれた。


それを見ていた男性メンバーたちは、あまりの激しさに戦慄した。「二度と52を覗くのはよそう」と、彼らは明日の命のために心に誓った。


「やめろよ! 痛……くはないけどビックリしただろ!」


ケイリー君が叫んだ。「俺のせいかよ? お前が勝手に目の前で脱ぎだしたんだろ!」

「何を抜かすかぁぁ!!」


ラト-52がさらに逆上した。――パン! パン!「私が悪いって言うの!? 覗いたのはあんたでしょうが!」


「よせ、52!」ラト-05が割って入った。「こいつが死んでみろ、お前に『犯罪者』の称号タイトルがついて、まともな生活ができなくなるぞ」


「でもリーダー、こいつだけは殺してやりたいんですぅ!」


ラト-52は怒りと恥ずかしさで泣き出した。


「落ち着け。モンスターに食わせれば、我々の手は汚れない」


ラト-05が、縛り付けられたケイリー君に歩み寄った。「なぁ、若造……見てはいけないものを見た、自分の運命を呪うんだな」

ラト-05は「儀式」のことを言ったつもりだったが、ケイリー君の受け取り方は違った。


「見てはいけないもの? あんたたちだって見てたじゃないか! むしろ、俺よりずっと嬉しそうだったぞ!」


正直すぎるその言葉に、ラトの男たちの顔が真っ赤に染まった。


「……まぁ、52の『大事な宝物』を見せてもらったことについては……お前に感謝してなくもないが」


ラト-05が気まずそうに小声で囁いた。「だが、それはそれだ!」


「どういう意味ですか、リーダーッ!?」

ラト-52が、建物を焼き尽くさんばかりの視線でリーダーを睨みつけた。


「ゴホン! とにかく貴様は死ぬんだ、若造!」


ラト-05は部下と目を合わせられず、顔を背けた。


「えっ!? 死ぬ!?」ケイリー君は逆に笑い出した。「俺、強いぜ? 本当に殺せると思ってるのか?」


彼は全く怖くなかった。セーリア様に殴られても痛くなく、アルドリック様に数千メートル飛ばされても無傷だった経験から、「この世界の住人はなんてひ弱なんだ」と結論づけていたのだ。


「強いだと? はっはっは!」ラトのメンバーたちが爆笑する。「どんなに強かろうが、俺たちは手を下さない。お前はモンスターに生きたまま食われるんだよ。あーっはっは!」


「モンスター!? どこだどこだ!?」

ケイリー君が突然ガタガタと震えだした。恐怖ではない。興奮が溢れすぎて鳥肌が立ったのだ。ついに! 本物のモンスターが見られる!


「見てみろ、恐怖で震えてやがるぜ」

ラト-05が嘲笑った。「安心しろ、すぐに終わる」彼は部下に向き直った。「ラト-56、この変態を食わせるために、一番弱いモンスターを召喚しろ!」


「ああっ! モンスター!? 早く目隠しを取ってくれ! 見たいんだよ!」


ケイリー君が必死に叫び、身悶えした。伝説の怪物をこの目で見たくてたまらない。

【市役所地下・秘密の回廊】


一方、ハーランド・ローガン様と騎士たちは、隠し通路の突き当りに辿り着いた。そこには巨大な金属の門が大きく開かれ、骨まで凍るような冷気が溢れ出していた。部屋は空で、第7部隊の姿はすでに消えていた。


「ここは何なんです?」アレックスさんが震えながら尋ねた。「旦那様、なぜ街の地下にポータルなんてあるのですか?」


彼がその門から漂うエネルギーの揺らぎに触れようとした、その時。


「待て! 触れるな!」ハーランド様が怒鳴った。「急いでレヴァン街主に報告しろ! それから、今は役立たずになっているアルドリック閣下にもだ!」


「旦那様、これは一体何のポータルなのですか?」


ハーランド様の顔は土色だった。彼はポータルの闇を見つめた。


「アレックス……これ以上は知らぬほうがいい。正気を失いかねない秘密だ」


彼は心の中で祈った。(ヘンドリック、我が息子よ……どうか無事でいてくれ)

【第5部隊の完全なる失敗】

城壁の外では、気まずい空気が流れていた。


「……どうなってんだ? 八体もモンスターを召喚したのに、どいつもこいつも操れねぇどころか、この木を見た瞬間に尻尾を巻いて逃げ出しちまったぞ!」


リーダーのラト-05が苛立って叫ぶ。

「わかりませんリーダー……さっきの52の『素晴らしい眺め』の呪いかもしれません」


ラト-56が適当に答えた。


「どういう意味よ!? ぶっ飛ばすわよ!?」

「ひっ、すみません!」


突如、街を監視していたラト-51が叫んだ。「リーダー! 街の中のモンスターたちが、海や西の方角へ一斉に逃げ出しています! でも……なぜかこの場所へ近づこうとする魔獣は一匹もいません!」


「はっはっは! それは俺がここにいるからだ! 俺のオーラが恐ろしすぎるのさ!」

ラト-05が根拠のない自信を見せた。


「なんだって!? モンスターが逃げただと!?」

ケイリー君が目隠しの裏で絶望の声を上げた。


「キャーッ!!」

突然、ラト-52が悲鳴を上げた。凄まじい木の裂ける音が響く。


――メキメキ、バキィッ!!

ケイリー君は、ありえない方法で拘束を解いた。ただ肩をひと突きさせただけで、縛り付けられていた大樹を真っ二つにへし折ったのだ。魔力のロープは、裁縫糸のようにぷつりと切れた。


「な……な、なんだこの力は……!?」

ラトのメンバー全員が冷や汗を流した。目隠しを引きちぎったケイリー君を見て、彼らは後ずさりした。


「あんたたち、どっか行けよ! もう邪魔すんな!」

ケイリー君が苛立って怒鳴った。「あんたたちのせいで、今のモンスターを見逃したじゃないか!」


ケイリー君は光のような速さで街の方角へと走り出し、悲痛な叫びを上げた。

「モンスター、逃げるなーーーっ!! 俺が見るまで待ってくれぇぇぇ!!」


人間の理屈を超えた速度で走り去るケイリー君を見送り、第5部隊は心底安堵した。


「……帰ろうぜ」ラト-05が震える声で言った。

「同感です、リーダー!」

彼らは反対方向へ全速力で逃げ出し、自分たちが生き延びた幸運に感謝した。

【破壊と失望】


ケイリー君が崩壊した城門に辿り着いた時、彼は肩で息をしていた。無残に破壊された街の景色。怪我をした仲間の手当てをしている一人の騎士が目に入った。


「あんた! モンスターはどこだ!?」ケイリー君が期待に満ちた顔で尋ねた。


騎士は虚ろな目で彼を見返した。「モンスター? 奴らなら、さっき突然どこかへ逃げていったよ……一匹残らずな」


ケイリー君は膝から崩れ落ちそうになった。「……えっ? 行っちゃったの?」


騎士は、妙に元気そうなケイリー君を見た。「君……体力が余っているようだな。瓦礫の下にいる住民を助けるのを手伝ってくれないか?」


「……わかったよ。手伝うよ」

ケイリー君はがっかりして答えた。だが、すぐに瞳が再び輝き出した。


「あ、でもモンスターの死体なら残ってるよな? よし! 手伝いが終わったら、モンスターの死体見学ツアーだ!」


【ポータルの危機】

少し離れた場所で、レヴァン・ド・アルビノ様は瓦礫の中に横たわり、白み始めた空を見上げていた。


「レヴァン様! ご無事ですか?」

「ああ……起こしてくれ」レヴァン様は溜息をついた。体中がバラバラになりそうだ。「まさか二体目のレックスサウルスから生き延びられるとはな。……それにしても何が起きたんだ? モンスターたちが、まるで幽霊でも見たかのように一斉に逃げ出すなんて」


そこへ、ローガン家の騎士が息を切らして駆け寄ってきた。


「レヴァン様! ハーランド様が至急、市役所へ戻るよう仰っています! 地下で秘密のポータルが見つかりました!」

レヴァン様の目が大きく見開かれた。激痛をこらえ、彼は跳ね起きた。


「地下のポータルだと!? まさか……! 急げ、俺をそこへ連れて行け!」


レヴァン様は確信していた。もしあの門が開いたのなら、ウェルウィナは魔獣の襲撃など比較にならない、恐るべき脅威に直面しているのだと。


ウェルウィナは魔獣から解放されたが、地下ポータルという名の「魔王の影」が今まさに動き出そうとしていた! 死体見学に夢中のケイリー君は、知らず知らずのうちにこのポータルを巡る紛争に巻き込まれていくのか!?


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