想いを繋ぐ石
ヴァンテール王国王太子の婚約を祝う宴は、夜を徹して行われた。
煌びやかな空気に少し疲れて、ユラはそっとテラスへ出た。
ガラス越しに見える室内の賑わいが嘘のように、外は静かだった。
薄曇りの空には、月と星が瞬いている。
世界が違っても、同じように空に浮かぶ月。
それを見上げるたび、不思議な気持ちになる。
「普通の会社員が……王子様と婚約するなんてね……」
「ユラ?」
優しい声に振り返ると、レイが微笑んで立っていた。
そのまま隣に並び、そっと顔を覗き込む。
「姿が見えなくなって、探したよ。疲れてしまった?」
「ごめんね。パーティとか、慣れてなくて。レイはこんなところにいて大丈夫なの?」
レイは、いたずらっぽく目を細める。
「平気だよ。この時間になれば、みんな酒が回ってる。僕がいなくても気づかない」
「ふふ、エリオンみたいなこと言ってる」
ユラの笑顔を見つめながら、レイはそっとその手に触れた。
「……ユラには、慣れないことが多いと思う。辛くない?」
「うーん……。確かに、今までと全然違うことばかりで。辛くないわけじゃないけど……」
少しだけ考えてから、顔を上げる。
「でも、きっとやれる気がする」
レイが、いつも自分を一番に気づかってくれると知っているから。
根拠はないのに、不思議と自信があった。
レイはその瞳を見つめ、安堵したように息を吐く。
「無理はしないで。城でのことは……僕が得意だから、任せてくれればいい」
その言葉に、ユラは思わず吹き出した。
「そうやって、レイはすぐ全部一人で背負い込むからなぁ」
手すりから身を起こし、レイに向き合って両手を掴む。
「二人で幸せになるんだって。あの時、決めたでしょ?」
微笑むユラに、レイも自然と笑みを返した。
「そうだったね。僕だけが頑張るのではダメだった。
君は……いつだって強いな」
そっと肩を抱き寄せると、雲の切れ間から月が覗いた。
「今日は月が明るい……あの鏡の月光石みたいだ」
「もう砕けちゃったやつ?
……結局、あれはムーンストーンだったのかな……?」
「君の鏡についていた石のこと?」
「うん」
「私の世界では“石言葉”っていうのがあってね。
ムーンストーンは、恋人や旅人のお守りで――
“離れていても想いを繋ぐ石”って言われてきたんだって」
「そうなんだ。……その石が、僕らを導いてくれたのかな」
嬉しそうに笑うユラを見て、レイもつられて笑う。
「戻ったら、カケラにお礼言わなきゃね」
微笑み合う二人の影が、そっと重なる。
その先に続く新たな旅路を、異界の月だけが静かに照らしていた。




