君がくれた、見えないもの
婚約パーティーを間近に控えた、ある夕暮れ。
レイはユラを、小高い丘の上へと連れてきた。
そこだけ木々が途切れ、
王都を一望できる場所だった。
「ここは、子どもの頃からたまに来ていた場所なんだ」
レイは、少し照れたように笑う。
「秘密の場所」
ユラがくすっと笑う。
「意外。レイでもこっそり抜け出すことあるんだ」
レイは王都を見下ろす。
「最初はエリオンに教えてもらったんだけどね」
夕暮れの街を見つめる。
「ここに来ると、少しだけ息がしやすい気がしていた」
「今、思えば……唯一、肩の力を抜ける場所だったのかもしれない」
家々の屋根が夕焼けに染まり、
街の影が長く伸びている。
ユラは王都を見て言う。
「すごいね……王都だけでこんなに広いのに」
「こんなの、ほんの一部なんだよね」
「その全部を、レイが守っていくんだ」
遠くで鐘の音がする。
ひとつ、ひとつ。光が灯っていく。
レイはその景色を見渡して、ふっと笑う。
「どうしてかな……」
「今まで何度も見てきた景色なのに」
「ユラといると、違って見える」
少し間を置いて続ける。
「今までは、守るべき王都だと思って見てきた」
「でも今は……」
「そこで営む人々の生活とか、それぞれの大切な人とか」
「目には見えないものまで、見える気がする」
レイは、何かを確かめるように王都を見つめた。
「景色は変わっていないのにね」
「変わったのは……きっと、僕の方なんだ」
優しい風が、レイの髪を揺らして過ぎていく。
ユラはその横顔を、少しだけ眩しそうに見つめた。
「それ。未来の王様としては、すごくいい変化なんじゃない?」
レイはしばらく黙って、ふっと息を吐く。
「……そうかもしれない」
そして、静かに続ける。
「ユラのおかげだ」
「……そうかな?」
レイはそっとユラを抱き寄せ、優しく言った。
「……君と会ったからだよ」
夕暮れの風が草を揺らす。
ユラが少し照れて視線を落とすと、
レイは楽しそうにその様子を見つめた。
「また照れてる」
「だ、だって……」
レイは少し顔を近づけて、耳元で囁く。
「そんな顔してると」
「……キスしたくなる」
「なっ……」
言い終わる前に、レイが静かに唇を重ねる。
少し長いキス。
離れると、ユラは真っ赤だった。
「……もう一度する?」
「いえ!大丈夫です!」
レイは肩をすくめて、楽しそうに笑う。
「そう?」
「……残念だな」
家路を急ぐ人々の姿が、丘の下に小さく見えた。
空はすっかり暗くなりはじめている。
「……暗くなってきたな」
レイが静かに言った。
「僕らも帰ろうか」
ユラは頷く。
二人は手を繋いで、ゆっくりと丘を下っていった。




