王子が、私の限界を試してくる
「来週、婚約披露の宴があるんだ」
ユラを伴って廊下を歩きながら、レイがさらりと言う。
「なにそれ?」
「簡単に言うと、婚約発表のパーティー」
「え!?」
ユラは思わず声を上げた。
「早くない!?」
「そうかな」
「そうだよ!まだマナーも何もわからないし!」
「人の名前もわからないし……」
慌てるユラを見て、レイはくすりと笑った。
「そんなに心配しなくていいよ」
「……ユラは、ちゃんとやれてる。マナーの本だって、読めるようになったじゃないか」
「……子供向けのやつね?」
ユラはまだ納得いかない様子だった。
——こんな状態じゃ、レイにまで恥をかかせてしまいそう。
不安が、胸の奥に引っかかる。
「……それでも、ユラはちゃんと進んでる」
そう言って、レイは優しく微笑んだ。
「ユラが、急だと思うのはわかるよ。
本音を言うと……
僕は、一日でも早く、君とちゃんと夫婦になりたい」
「でも、君に無理強いもしたくない」
一度言葉を切る。
「……どうしても気が進まないなら、宴は中止するよ」
静かな声だった。
けれど、その目にはどこか含みがあった。
「えっ?!そ、そこまでじゃないよ!大丈夫!」
いろいろ準備とかあるのに、大迷惑になってしまう。
ユラが慌てて答えると、レイは嬉しそうに笑う。
「そう?良かった。じゃ、行こうか」
「ん、どこに?」
「来週の宴で着るドレスが仕上がっているから、合わせに行こう」
「すでに外堀埋まってたよね?!」
ユラは、それ以上何もいえなかった。
その後ユラは、人生初のドレスを身にまとった。
侍女たちに囲まれての着替えも、初めてのことだ。
春風のような、淡いグリーン。
鏡には、彼女たちの手で別人のように整えられた自分が映っている。
結婚式以外でドレスを着る人生になるとは……
また一つ、子供の頃の夢が叶ってしまった。
ユラは、知らず笑みが溢れた。
そこへ、レイが入室してくる。
ユラを見て、満面の笑みを浮かべる。
「ユラ……とても綺麗だよ」
「その色、君に似合うと思ったんだ」
「——想像以上だ」
「あ、ありがと……ドレスに着られちゃってないか心配だけど……」
レイは、ほんの少しだけ困ったように笑った。
そのまま、流れるような動作でユラの手を取ると、
そっと指先に口付けた。
「ふぁ?!なに?!」
レイは、少しだけいたずらっぽく笑った。
「特別な人への挨拶、かな」
「え……」
「こういうの、好きかなと思って」
なんか、前にもこんなのあったよね?!
今日も、王子が私の限界を試してきます!
——そんなこんなで。
ユラの異世界生活は、今日もにぎやかに続いていく。




