帰って寝よ。
紫の光と共に、レイがユラを抱えて現れる。
その瞬間、
鏡の縁に嵌め込まれていた月光石が、ひび割れる。
小さな音を立てて、砕け散った。
弾かれるように、エリオンは杖を取り落とした。
床に乾いた音が響く。
そのまま、力が抜けたようにその場に座り込む。
「……はあ」
砕けた月光石の欠片が、床に散らばる。
エリオンは、静かな目でそれを見つめた。
その瞳には、かすかな安堵が滲んでいた。
ユラが目を開くと、見覚えのあるレイの部屋だった。
レイは、ユラをそっと下ろして、床に膝をつく。
「えっ、レイ、大丈夫?!」
「ああ……少し眩暈がするだけ」
「大丈夫じゃないやつ!」
すると、端の方で黒いローブが動いた。
「おー、ユラちゃん……相変わらずだな……」
「エリオン?!どうしたの?!」
エリオンは、力なく片手をひらひらと振った。
「ちょっとな」
そして、だるそうに座り込んだまま、ユラとレイを見ると、口元を緩ませた。
「……良かった」
小さく、息を吐くように。
レイも微笑んだ。
「エリオンのおかげだ」
「ユラの元まで、道を繋げてくれた」
「え、そうなの?……二人とも、大丈夫?」
ユラは、まだ状況が飲み込めていなかった。
エリオンは魔術杖を頼りに立ち上がると、ふらふらとドアへ向かう。
「あーー疲れた。帰って寝よ」
軽く手を振る。
「じゃーな」
「え……あ、お大事にね……?」
そして、珍しく徒歩で帰って行った。
「……徒歩で帰ったよ?ほんとに、大丈夫なの?」
「魔力切れは、休めば治る。……エリオンのことだから、すぐに良くなるよ」
「そうなの……?」
レイはふらつきながらも、ユラのそばに立った。
「レイも、休んだ方がいいんじゃない?」
ユラは一瞬ためらってから、続ける。
「……着替えたら?」
ちょっと、名残惜しいけど。
「そうだね。……着替えてくるよ。でも、その前に」
「……ユラの部屋のことなんだけど」
レイは一瞬、視線を巡らせた。
「あ、うん」
ユラが彼を見上げると、綺麗な笑顔が返ってきた。
その目が、少しだけいたずらに細められる。
「まだ、準備が終わってないんだよね。
だから……今夜は、僕と同じ寝室で我慢してくれる?」
な……んだって???
完璧王子が、そんなうっかりする?!
ユラの心は、その後も落ち着く暇がなく。
異世界で初めての、終わらない夜が過ぎていった。




