俺のおかげ④
夜空には、ひときわ大きな満月が浮かんでいた。
レイの部屋。
鏡の前に、二人の男が立っていた。
床には魔法陣の描かれた布が広げられ、
その中央にエリオンがいる。
手には、普段は使わない長い魔術杖。
耳には、魔力増強のピアスが揺れている。
レイは白と銀を基調とした正装に身を包んでいた。
王家の紋章が織り込まれた外套が、静かに揺れる。
レイはエリオンを見て言う。
「……重装備だな。一人で繋ぐのか?」
「俺にも未知の領域だ。人増やしても邪魔なだけだ」
「よし」
エリオンが軽く言う。
「いつでもいいぞ」
レイは、小さく息を吐いた。
「エリオン、本当にありがとう」
「礼を言うのは早いだろ」
「問題ないと思う」
レイは静かに言う。
「あの時……昼に転移した時も、倒れることはなかった」
一瞬だけ視線を落とす。
そのまま、エリオンへわずかに目を向けた。
「今回はエリオンの道標もある。
僕自身の魔力でも、あの距離は越えられる」
顔を上げる。
「二人で――戻ってくる」
エリオンは肩をすくめた。
「心配いらなかったな」
にやりと笑う。
「お前は“やり遂げる”」
レイも、わずかに笑う。
エリオンは顎で鏡を指した。
「さあ」
「行ってこい」
足元の魔法陣が、静かに光を放ち始める。
レイは目を閉じる。
意識を集中させる。
エリオンは、色を失った月光石に魔力を流し込む。
異世界へ続く見えない道を、強引に繋ぐ。
刺すような白い光が、月光石から迸る。
レイは静かに魔力を解き放つ。
その姿は、もうそこにはなかった。
ーー部屋には、エリオン一人。
「意地でも繋いでやる……」
道が途切れないように、魔力を流し続ける。
杖を握りしめる。
額には、うっすらと汗が滲んでいた。
(絶対、帰ってこい)
その手には、白くなるほど力がこもっていた。




