俺のおかげ③
転移した先は、城の一角。
魔術師の部屋。
執務机の前で、エリオンは頬杖をついていた。
机には、乱雑に書類が積まれている。
エリオンはレイの姿を見ると、わずかに口の端を上げた。
まるで、最初から分かっていたかのように。
「……来たか」
レイはまっすぐ彼を見た。
「エリオン」
短く息を吸う。
「力を借りたい」
エリオンはレイをじっと見つめる。
一瞬だけ、沈黙。
ほんのわずかに、目を細める。
そして軽く首を傾げた。
「で?」
口元に、いつものニヤリ。
「お前は、どうするんだ」
レイは迷わなかった。
「迎えに行く」
「……いいのか?」
「じーさん――宰相達が聞いたら、ひっくり返るぞ?」
レイは強い眼差しのまま言う。
「説得するよ」
静かな声だった。
「……ユラに気持ちを伝えた時から、そうするつもりだった。でも、僕が選べば、多くのものを巻き込む。
……決心がつかなかった」
エリオンは少しだけ肩をすくめる。
「……まあ、そうだよな」
「今まで積み上げてきたもの、壊すのは簡単じゃない」
「お前の場合は特にな」
「でも、決めたんなら」
「お前はやり遂げるよ」
口元に、いたずらっぽい笑みが浮かぶ。
「――“完璧王子”だからな」
レイは、声を出して笑った。
「エリオン」
「お?」
「……ありがとう」
「なんだ突然」
「ずっと僕に言っていただろ。そのままでいいのかって」
「……やっと、わかった気がする。君は、僕の“意思”で生きろって、伝えたかったんだろ?」
エリオンは、少しだけ目を細めた。
「おせーよ」
「で、本題だが。実はもう調べてある」
エリオンは机の上に広げられた星図を指差す。
「二ヶ月先の満月だ」
「星の並びが一番いい。月の力を借りて繋ぐなら、そこしかない」
レイは静かに笑った。
「さすがだな」
エリオンは肩をすくめる。
「まあ、調べたのは俺じゃなくてルシアだけどな」
「君の副官か」
「そ。優秀だろ」
エリオンに促され、二人はレイの部屋へ向かった。
窓から差し込む月明かりが、静かに鏡を照らしていた。
エリオンは、灰色になった月光石を眺める。
「……魔力が尽きたんだな」
もう、世界を繋げる力はない。
レイは、わずかに息を詰めた。
「ユラの家の鏡にも、これと似た石がついていると言っていた」
「それはラッキーだ」
エリオンは、月光石を軽く指で弾く。
「おそらくこいつが、片割れを覚えてる」
レイがわずかに眉をひそめる。
「……どういうことだ?」
エリオンは肩をすくめた。
「一度繋いだ相手の気配は、石に残る」
「何度も行き来してるなら、向こうの位置はもう掴んでるはずだ」
(最初に結んだの、俺だけどな)
「俺がユラちゃんの世界まで道を繋ぐ。
お前はその道を辿って、向こうの石に転移しろ」
そこでエリオンは、レイを見た。
「そんで、ユラちゃん連れて戻ってこい」
肩をすくめる。
「と言っても……帰りは二人分の転移だ。
どれだけの魔力を食うかもわからない。王太子がやるには危ない橋すぎる。
……それでもやるか?」
「当然だ」
その答えに、もう迷いはなかった。




