二人の精霊王 3
ダイアナさんは味方のはずの光の上級精霊ソールさんの頭をペシンと叩いた。
とってもいい音がしました。
「邪魔したのは我が君の命令だったからよ。力が充分に回復していないのに目覚めようとしている光の精霊王を止めろってね」
闇の精霊王さまは不完全なまま目覚めようとした光の精霊王さまを止めようと、ダイアナさんに「目覚めを邪魔しろ」と命令を下した。
ふむ、眠っているのに二人の精霊王さまは現実のことがわかっているみたい。
「でも、結局、神獣クラウンラビットの瘴気をこのままにしておけないと、我が君は回復を早めるため、人の子の魂と同化し眠りながら力を得ることにしたの」
その器に選ばれたのが、ブリリアント王国第三王子のウィルフレッド殿下と、ブルーベル伯爵嫡男のヒューバート・ブルーベル、ぼくの兄様だ。
「どうか? にいたまは、せーれーおーさま?」
いつの間に兄様の中に精霊王さまが入っちゃったんだろう?
ぼくは、ちっとも気が付かなかった……ちょっと悲しい。
「ち、違うよっ。僕は、僕の中に精霊王さまを感じたことなんかないよっ」
ぼくの質問に兄様はブルブルと頭を激しく振って答えた。
そして、ここで改めて不思議に思ったのは、ダイアナさんたちは兄様の中に闇の精霊王さまがいて、ウィル殿下の中に光の精霊王さまがいると主張していることだった。
キラキラ王子様タイプの兄様の中にいるのが、闇の精霊王さまなの?
「……そもそも、ヒューの中にいるのが闇の精霊王なら、ダイアナはヒューの側にいるんじゃねぇのか?」
「そうね。アンタ、ウィルの側にいたけど、ヒューには関心が薄かった気がするけど?」
白銀の素朴な疑問に、紫紺の疑惑の視線つきでダイアナさんを追い詰めると、ダイアナさんはぶーと頬を膨らました。
「しょうがないじゃない! ヒューを我が君の器に選んだのは王都にいたときだし。まさか、ヒューたちがブルーベル辺境伯の領地に帰ってしまうとは思わなかったのよ。光の精霊王さまの器にと選んだウィルとは離れてしまって、我が君の機嫌は悪くなるし、依代のウィルの護衛を任されたから動くこともできないし……本当に最悪だったわ。こいつは、フラフラして役に立たないし!」
ペシンと、またソールさんはダイアナさんに頭を叩かれた。
「イテッ! いやいや、君の主人は別に僕がいなくてもいいでしょう? むしろ側にべったりといたら、こっちが怒られるよ!」
叩かれた頭を両手で庇って涙目で抗議するソールさんに、ダイアナさんはクッと口元を歪めた。
……んゆ?
これは、ぼくの予想がやっぱり大はずれで、黒髪のウィル様の中には光の精霊王さまが、金髪キラキラの兄様の中に闇の精霊王さまが眠っているという?
んで、そろそろ神獣クラウンラビットの封印をするから、二人を目覚めさせようとして……兄様がダイアナさんたちに襲われていた。
あれれ?
「せーれーおーさま、おっきすると、にいたま、どうなる?」
さっきダイアナさんは「魂が同化」って言っていた。
それって、闇の精霊王さまが目覚めると兄様は闇の精霊王さまになってしまうということ?
そ、そ、それは、たいへんだーっ!
兄様を中心に、白銀と紫紺とぼくで半円に囲って徹底守護の陣営です!
兄様を精霊王さまに変身はさせません。
ちょっと、変身したところは見てみたいけど……。
ダイアナさんとソールさんに向かって、ぼくらがフンッと気合を入れたとき、ダダーッと森の向こうから走ってきたのは……。
「アリスターか?」
腕にディディを抱いて、アリスターが必死の形相で全力疾走しています。
「なにやってんだ、あいつ?」
白銀もアリスターの鬼気迫る走りに、こてんと首を傾げます。
「みつけたーっ! ヒュー、無事か?」
ズザザザーッと兄様の前で滑り込むように走ってきて、急ブレーキで止まったアリスターの安堵顔とは反対にディディの顔を顰められている。
「……アリスター。そんな必死でどうした?」
「いや、なんかイヤな予感がして。お前に何かあったら、護衛の俺の責任だしな」
……すごい、アリスターの野生の勘!
まさに、ダイアナさんたちの手によって闇の精霊王さまと変身する兄様の危機に気が付いて、ちゃんと間に合った!
「アリスター、しゅごい!」
「うん? なにがすごいかわからんが、ありがとう」
くしゃとアリスターはぼくの髪を乱すように撫でてくれました。
「あらやだ。外野が増えてきたわ」
ダイアナさんがクスクスと笑うと、ソールさんものんびりと「そうだね~ぇ」と相槌をうつ。
「ちょっと、ヒューもそうだけど、ウィルの体まで乗っ取るなんて、やり過ぎじゃないの?」
ダンッと紫紺が前足を強く踏み鳴らしてガウッと怒鳴ると、ダイアナさんはひょいと肩を竦めてみせた。
「乗っ取るなんて人聞きが悪い。ちょっと体を借りて自然の気を取り込みやすくしただけよ」
「いやいや、お前ら闇の精霊王を目覚めさせようとしてヒューを襲ってただろうがっ」
白銀の暴露にアリスターはギョッと目を見開いて驚くと、グルンと兄様に顔を向けてアワアワと焦りだす。
「アリスター、僕は大丈夫だ、白銀たちが助けてくれた」
「ま、まさかここにきて、精霊が敵に回るなんて……」
本当にね。
みんなで頑張って神獣クラウンラビットの封印をしようって思ってたのに、ダイアナさんが裏切るなんて信じられないよっ。
「……誤解されているわ。なにもヒューの体を我が君が乗っ取るわけじゃないのよ? ただ……ヒューの場合は意識が強いっていうか、頑固っていうか……拒否感が強くて、そのまま我が君が顕現しようとすると苦痛を伴うから、暫しの間眠ってもらおうと思ったのよ」
「同じ理由で、我が主の依代であるウィル殿下はすやすやと眠っているからね!」
バチコーンとソールさんにウィンクをかまされたけど……そんな理由ならちゃんと説明してよーっ。
「……な、なんて紛らわしいんだ」
兄様もガクーッて脱力して、その場に座りこんでしまった。
あらら。





