二人の精霊王 4
兄様の体の中で眠る闇の精霊王さまを起こしても、兄様の体が乗っ取られることがないと判明したところで、闇の精霊王さまを起こしましょう! とはならなかった。
「にいたま、なんで?」
「さあ?」
ぼくたちはお互いの顔を見て首を傾げる。
闇の精霊王さまを目覚めさせようとしたダイアナさんは、光の上級精霊ソールさんと口喧嘩中です。
「あなたが早くウィルのところへ行き、光の精霊王を目覚めさせてここに連れて来なさい! 目覚めたばかりの光の精霊王に負担がないように、ここ光の森へ我が君を連れてきたんだからっ!」
ダイアナさんが大声で怒鳴ります。
「え~、だって、ウィルって子は君の契約者だろう? 君が連れて来なよ~。闇の精霊王だって君が我が主人を連れてくることを望んでいると思うよ~。僕だったら、つい寄り道しちゃうかも~」
ソールさんはニヘラニヘラ笑って、ダイアナさんのお怒りを躱します。
だから、余計にダイアナさんが怒るんだと思うけど。
ついでに紫紺もソールさんの態度にイライラしたのか、ペシンッペシンッと尻尾が地面を叩く音が響いています。
そして、白銀がつまらなさそうに欠伸をして、アリスターがディディを抱っこして兄様の後ろに控えて……これからどうなっちゃうの?
ダイアナさんとソールさんの言い合いが終わりません。
ブリリアント王国の王城で眠っているウィル殿下……の中で眠っている光の精霊王さまをどっちが迎えに行くかで揉めています。
最初はプリプリ怒っていた紫紺も、ずっと続く言い合いに呆れてダラ~ンと体を横たえて休憩中。
白銀とおまけの真紅は、既に熟睡中。
ぼくもディディと一緒にアリスターの膝枕で微睡んでいるのです。
ちょっとね……ダイアナさんたちの声が大きくて熟睡するのは無理。
白銀と真紅は凄いなぁ……、んゆ? 兄様は?
もぞもぞとアリスターの膝から起き出して、コシコシと手で目を擦ると、喧嘩する二人の姿を腕を組んで睨む兄様の背中が見えました。
「にい……」
「お前ら、いい加減にしろっ」
ひぃーっ、兄様の口から兄様じゃない人の声が聞こえましたーっ!
え? え? どゆこと?
ぼくたちに膝枕をしつつ、カックンカックンと居眠りしていたアリスターも、ビクーンッと体を跳ねて反応します。
「なんだ? なんだ? いまの声は誰だ?」
「……にいたま?」
でも……兄様じゃない。
その人の叱責に、ダイアナさんは顔色を変えて即座に膝をつき頭を下げた。
あの、呑気なソールさんでさえぐっと口を噤んで、その場に平伏している。
あのぅ……兄様なのに兄様じゃないあなたは、誰ですか?
紫紺と白銀も状況の異変さに気づき、四肢を踏ん張って威嚇の体勢です。
アリスターは兄様の後ろにこっそりと近づきつつ、なんと! 剣に手をかけてます。
いやぁーっ、その人は兄様だよ? んゆ? 兄様だよね?
「……っ、お前は誰だっ!」
アリスターが剣を鞘から抜かず、そのまま兄様の体スレスレに振り下ろす。
兄様……? は、その剣に驚くこともなく、スーッと重心を移動するだけで避けると、アリスターの手首をガシッと掴んだ。
「ふむ……お前は、この子の従者か? 主を守る行動なら、もう少し考えて動け」
兄様はググっとアリスターと顔を近づけてて、ちょっと意地悪に言うと、パッと手を離した。
アリスターは目を真ん丸にしたまま、ドスンとその場に尻もちをつく。
「アリスター」
「ギャッ、ギャギャッ」
ぼくとディディがアリスターに駆け寄ると、兄様? とぼくとの間に紫紺と白銀が走ってきて壁となる。
「……誰よ、コイツ」
「ヒューの体だけどな」
「ってことは、コイツが闇の精霊王? ちょっとダイアナ、ヒューの体は乗っ取らないって言ったじゃない。嘘つき!」
ええーっ! やっぱり兄様の体は闇の精霊王さまに乗っ取られちゃった!
「ど……どうしよう……にいたま」
なんだか、この兄様は兄様と同じ顔だけど、眼がキラーンと鋭いし顔も無表情で怖い。
兄様の眼はキラキラのピカピカの碧眼で、いつもニコニコ笑顔なのにぃ。
「うわっ……。えげつないことを考えているときのヒューだ」
んゆ? なんかアリスターが言ってたけど、よく聞こえなかったよ?
「この童は、この子の弟か……。いや……この童、あの方の力を感じる?」
な、なんだろう? 兄様の偽物さんがぼくの顔をじぃっと見つめるんだけど?
「おいっ、レンから離れろ。ついでにヒューから出ていけ、闇の精霊王!」
ガウッと白銀が吠えると、兄様の偽物はぼくから視線を動かしてくれた。
「ほおっ、フェンリルとレオノワール、フェニックスまでいるとは」
兄様の偽物は自分に牙を向けている白銀たちの姿を目に移すと、ニヤリと意味ありげに笑った。





