最後の精霊楽器 9
前の世界では「鼓」だった楽器は、ぼくが触ったことでタンバリンとなってしまいました。
これは、もしかしたらダイアナさんに怒られる案件かもしれません。
でも、もう触っちゃったし……タンバリンだったら、奏でるのも難しくないし……結果オーライ?
「はっ!」
ぼく、いいことに気が付いちゃった!
迷子……じゃなくて、森でひとりぼっちになったけど、このタンバリンを鳴らせば誰かが迎えに来てくれるのでは?
兄様には聞こえなくても、耳の大きいアリスターや、白銀と紫紺には聞こえそう。
真紅は寝ているから聞こえないと思う。
よし! では、ぼくは力いっぱいこのタンバリンを鳴らすぞ!
「よっ、あい、あい、あ~い!」
パンッ! パパンッ! パンパン!、パ~ンッ!
鳴らすときにパランスが崩れて片足立ちになっちゃうから、他の人が見たら、ぼくが踊っているように見えるかもしれないけど、ぼくは真剣です。
このタンバリンの音を聞いて、白銀たちが早く来てくれないかなぁ。
「あっちよ!」
弾丸のように走り出した紫紺は、片耳をピクッピクッと動かして微かに聞こえる音を拾うと、直角に進行を曲げた。
「おい、ちょっと待てって」
急に進行を変えられて、たたらを踏んだ俺は紫紺が巻き上げた土埃にゴホンゴホンと咳をしつつ体勢を直して、仲間のあとを追う。
「レンの奴、移動しているのか?」
俺が魔力で察知したところからややズレた進行方向に眉を顰めると、紫紺が不思議そうに言葉をもらす。
「あっちから、間の抜けた破裂音が聞こえるの。あと……レンの変な掛け声」
彼は嫌な予感がしたし、紫紺もそれ以上考えたくないって顔をしている。
「まぁ~ったく、あいつは……。あっ、まさか浄化の力を使うハメにはなってないよな?」
「魔力は感じないから大丈夫だけど……。段々と涙声になってきているから、急ぎましょう」
そりゃ、子どもがこんな鬱蒼とした森に放り出されたら泣くよなぁと同情するが、なんせあのレンのことだ、何か問題を起こしているかもしれない。
早くレンのところへと、走るスピードを上げる。
パンッ!
紫紺の言う、間の抜けた破裂音が聞こえてきた。
レン……今度は何をしたんだ?
「白銀、待って!」
「おわっ!」
キキーッと急に足を止めた紫紺に驚いた俺は、グッと前足に力を入れて止めようとしたが、前につんのめって転んだ。
「いてーっ」
「何やってんのよ。それよりあっち。あっちを見て」
バシンと紫紺の太い尻尾で背中を叩かれ、指し示す方向へ視線を向ければ、一筋の光が天から降り注ぎ……あっちの森がピカピカと光ってやがる。
「なんだありゃ」
「……わからないわ。でも、なんとなく嫌なカンジ」
そうか? こんな光の森って名前のくせに陰気くさい森よりもいいと思うがな?
「早く……レンのところへ行きましょう。なんだか胸さわぎがするの」
しゅんと耳と尻尾を力なく垂れさせた紫紺の様子に、俺はぞわぞわとする悪寒に襲われた。
ブルルルッと身震いして、気持ちを切り替えるとレンの元へと足を急がせる。
「レン……無事でいろよ」
もう少しでレンと会える。
進めば進むほど、森の暗さは濃くなり、なんとなく息苦しさまで感じるようになった。
腕に抱いているディディの体が、徐々に重くなるような錯覚までしてくる。
「ギャウ?」
「……いや、ヒューたちと合流するのに、こっちの方角で合ってるかなって」
ディディが心配そうに俺を見ているのがわかるが、不安に思う気持ちを悟られたくなかった。
ヒューもいない、レンもいない。
白銀様たちともはぐれた。
光の森のくせに、暗い森だ。
生き物の気配もない……風も吹かない、澱んだ森だ。
精霊の森?
精霊なんていないじゃないか。
日も差さない、暗くて冷たい……まるで死者の森だ……。
「……っ! 俺は、なにを考えていた?」
何回目だっ! この森を歩いいると考え方が暗くなる。
後ろ向きな思考に、悲観的な、まるで悪いものに誘われているような……。
「まさか、これが……瘴気?」
「ギャッ!」
俺の言葉にディディが飛び上がるほど驚き、慌ててキョロキョロと周りを見渡す。
精霊であるディディが気づいてないなら、この思考の誘導は瘴気の影響じゃなのか?
でもなぁ、俺はそんなに気弱なタチではないんだが……。
「なあ、ディディ。俺はこの森にいると、ちょっと弱弱しい考えになって、暗~くなるんだが?」
「ギャギャウ?」
コテンと首を傾げる真っ赤なトカゲ、火の中級精霊はかわいいが、お前はもう喋れるよな?
「瘴気に囲まれて俺がおかしくなっているんじゃないのか? なあ、ディディ。お前ここら辺浄化してみないか?」
ディディが瘴気を見逃しているとは思わないが、俺の精神の安定のためにも浄化してくれ。
「ギャ~ゥ」
しょうがないなぁと呆れたため息を吐いたあと、ふわっとディディの魔力が広がる。
それと同時に眩しい光が一筋、天から放たれた!
「え?」
その光が森に降り注ぐと、暗い陰気な森が明るく眩しい森へと変貌していく。
まさに、光の森へと……。
「まさか……」
あそこに、俺が守るべきものがある。
なぜかそう、確信した。
「ディディ、行くぞ」
俺はディディの体をギュッと抱きしめ、全速力で走りだす。
光溢れ美しい森へ。
大事なものを失う前に!





