最後の精霊楽器 8
空から舞い降りてきた男の名前は「ソール」という。
ダイアナが嫌そうに顔を歪めて教えてくれた。
予想どおり光の上級精霊らしい。
四大精霊とは違い、光と闇は二対一対で生じる。
「つまり、ダイアナとソールは……」
「ええ、闇の妖精として生じたとき、こいつはまた光の妖精として生じたのよ」
そして、長い時間をかけて精霊となった。
「いいや~、あっという間に上級精霊になったよ~。神獣聖獣たちが暴れていたせいだねぇ」
にっこりと日差しが降り注ぐ庭でのんびりとお茶でも飲んでいそうな雰囲気で会話をするソールに、ちょっとイラつく。
僕は、早く森でひとりぼっちのレンを探しに行きたいのに。
「まあまあ、君のことはかなり重要なことだから、のんびりしていきなよ~」
「早くしろ」
僕は間が抜けているような光の上級精霊ソールと会話することを止め、ダイアナと向き合う。
「それが我が君からの命令なら従いますが……、あらやだ、まだヒューの意識が強いわね?」
さっきまで傅いていたくせに、急に元のダイアナに戻った。
どうなってるんだ?
「ダイアナ~。その方法はやめときなよ~。我が主も悲しむし、そうなったら君の主は怒るよ?」
「うるさいわねっ。せっかく我が君の依代があるのだから、そのまま使えばいいじゃない。所詮、人の子でしょ? 死ぬ訳じゃあるまいし」
「え~、でも君。あの黒髪のエルフにはそんなことしなかったよね? 今だって癒しの眠りでゆっくりと依代と離脱させてるじゃないか~」
…………?
二人の話していることが、よくわからないが、黒髪のエルフはダイアナが見守っているはずのウィルフレッド殿下のことだろう。
最近、ブルーベル家に訪れないと思ったら、癒しの眠り? ダイアナに眠らされているのか?
あと……不穏な言葉が飛び交っていたが、その中心にいるのは間違いなく僕のことだろう。
知らないうちに、何かの依代と選ばれて意識を奪われようとしているのか?
そんな話を聞いたら、とる行動は決まっている。
……逃げろーっ!
僕は忍び足で二、三歩下がると脱兎のごとく走りだした。
ぐしぐしと泣いても誰も助けにきてくれない。
慰めにもきてくれないわけで、一人で泣き止まないといけないことに気づきました。
よっこいしょと立ち上がって、とりあえずみんながいる方向へ歩かないと……って、みんなはどこにいるんだろう。
「んゆ?」
でも、ここにいてもダメ。
迷子になったら動いてはいけませんと言うけれど、暗い森の中でひとりぼっちで待っていたら涙腺崩壊、恐怖でガクブルです。
「ん~、こっち」
なんとなく、元々進んでいた方向へ決めました!
「よいちょ、よいちょ」
いえいえ、黙ってても歩けますよ?
でも、一人で黙々と歩いていたら怖いでしょ?
だから、わざと声を出して歩くのです!
…………真紅、ぼくのポッケに入れておけばよかったなぁ。
「よいちょ、よいちょ」
上はわさわさとした葉っぱで光が入ってこないので、ぼくは転ばないように下を見て歩きます。
苔のところがね、つるんって滑りそうになるから注意が必要なの。
「よいちょ、よ……んゆ?」
コツンって何かが足に当たったけど……これ……。
「つつ? ちいさいたいこ?」
木の根元に隠れて見えにくい何かに手を伸ばし、うんしょと引っぱればコロンと出てきたのは見たことあるような何か。
両側に皮をピンッと張っていて、叩くとポンッて音がするけど、太鼓じゃないよね?
あ……触っちゃた。
これは……もしかして……。
ポワンと煙と共にその形を変えてしまったそれは……精霊楽器みたい。
「むむむ」
ダイアナさんに怒られちゃうかもしれないけど、最後の精霊楽器を見つけたことで許してもらおう。
これは、前の世界で肩に置いてポンポンと叩く小さな太鼓みたいな楽器だったのに、いまはぼくの手に合うように変化した。
変化したけど……なんでタンバリンなんだろう?
丸い縁には小さなシンバルが付いていて揺らすとチリンチリンと音が鳴る。
ちゃんとピンッと張られた皮があって、叩くとパンパンッと小気味いい音がする。
ぼくでも簡単に演奏ができるタンバリン!
ダイアナさんに聞かれたら最初からタンバリンだったと言ってもいいかな?
カサッと下草を踏む音に紫紺は悄然とした表情で振り向いた。
「……なんで邪魔するのよ」
「精霊の森で爆裂魔法とか使うな。その魔法を消すのに、俺が苦労するだろうがっ」
フンッと鼻にシワを寄せて白銀がその姿を現すと、紫紺は泣きそうな顔になる。
「だって……だって、レンがいないのよぅ」
シクシクではなく、うわわ~んと声を上げ顔を伏して泣きだした仲間に、白銀は天を仰いだ。
グチグチと森で精霊が悪口を言うとか、昔の話で責められたと面倒なことに泣き言も言い出した。
「泣くなよ……。レンは無事だから、一緒に迎えに行こうぜ」
「アンタ、レンの居場所がわかるの?」
「ああ。ありったけの魔力をぶっ放した。反応があったのはあっちだぜ」
本当は先にレンを助けに行きたかったのに、暴走する紫紺を止めるためにぐっと我慢したんだ。
褒めてくれとは言わないが……。
「俺を置いていくなよなぁ」
紫紺は、レンの居場所を示した途端、白銀を置いて猛スピードで走りだしていた。





