最後の精霊楽器 6
風が吹いた。
気が付いたら先頭を歩く紫紺様のぷりっぷりっのお尻が見えず、びっくりして振り向いたら主であるヒューの姿も消えていた。
この不思議な森に俺が取り残された。
「ギャウ?」
「ああ、ごめん、ごめん。ディディが一緒だったな」
俺は腕の中のトカゲ……火の中級精霊を撫でまわす。
気持ちいいのか目を細めて「ギャウ」と鳴くが、わかってんのか? 俺たち知らない場所でバラバラになったんだぞ?
「とにかく、進むしかないよな? ディディ頼むから、俺から離れないでくれよ。離れたら俺は妖精になっちまうらしいからな」
そんなバカな笑い飛ばしたいが、その情報を齎したのが闇の上級精霊で、あの神獣聖獣たちに対して偉そうな態度を取る様子から、その情報は真実だろうと確信している。
……まぁ、神獣聖獣たちへの嫌がらせかもしれないけど。
「真っ直ぐでいいかな? どうせ、どこかで誰かが見ているんだ。道が違ったら教えてくれると信じよう」
俺は光の森のくせに真っ暗で、なんとなく暗く重い気持ちになるのを吹っ切るように、スタスタと足早に森の奥へと進むことにした。
「ギャウ」
ディディが、木の枝と葉に遮られた空を見上げ訝しげに鳴くのに、なぜか心が騒いだ。
ポテポテと暗い道を歩き、ふと頭を上げると前を歩いていた奴らが消えていた。
「は?」
俺の前には、レンとヒューが仲良く手を繋いで歩いていた。
その前にはアリスターがトカゲと一緒に、先頭は紫紺が気配を探りながら警戒して歩いていたはずだ。
なのに……消えた?
「これ……俺が怒られるパターンか?」
うむ、ボーッとしていた自覚はあるから、うっかりはぐれていたら、紫紺の奴にめちゃくちゃ怒られるな。
俺は、目だけ上に向けて頭の上で寝ている真紅を探る。
……よし、寝ているな!
こいつがここしばらく寝こけているのには、ちゃんとした理由がある。
紫紺も知らない理由が……。
なのに、こんな森で真紅が迷子になってしまったら、余計な力を使うことになるだろう。
そう……せっかく真紅が蓄えている神気が減ってしまう事態に。
「仕方ない……とりあえず気配を探るか」
俺は自分の力を森全体へと放った。
別に魔法が使えないわけじゃないのだ。
細かいコントロールができないだけで、力は紫紺の数倍、同じ神獣の真紅よりも倍、いやその倍ぐらいは違う。
ピクン。
「ああ……紫紺はわかるな。アリスターもいる。ん? レンはなんとなく感じるが……ヒューがわからんな?」
俺はちょっと迷う。
もちろん、レンと合流するのが最善なのだが……、みんなバラバラの位置にいるのだ。
レンの側にヒューがいないのが気がかりだが、それよりも俺たちとレンと離れて森に一人になった紫紺だ。
「ちっ、世話がやける」
俺は鼻をヒクヒクと動かすと仲間のいる方向へと走り出す。
俺たち神獣のバカ強さに辟易したあの方は、半ベソかいて聖獣を創り始めた。
力のコントロールが上手な子を創ると口癖のように呟き……いやあれはもう呪詛だな、呪詛。
そうして、聖獣レオノワールは誕生したが、魔法のコントロールはピカいちだったか、精神的不安定さも仲間で一番だった。
……紫紺は心が優しく、感受性が強かったのだ。
それは、ある意味好きなものを守る強さと失うかもしれない恐怖に押し潰される弱さを紫紺に与えた。
以前、愛したものを失くした紫紺には、森で一人ぼっちというシチュエーションは不味い。
一人で心細くて泣いているかもしれないレンの回収を後回しにするほど、不味い。
せめてこの森がハーヴェイの森だったら、心の安定を得るために焼き尽くしてもいいと許可したい気持ちだが、ここは精霊の森。
「何が起きるかわからねぇし」
しかも、ここまで案内したのが闇の上級精霊ダイアナだ。
主人である闇の精霊王と、光の精霊王が永い眠りについたのは、俺たちのせいでもあるから、あの女は神獣聖獣に敵意を持っている。
「あいつ、ワザと俺たちをバラバラにしたのか?」
正直、俺たちは仲間である神獣クラウンラビットの封印をしなければならない大仕事が待っているのに、こんな嫌がらせはご免こうむりたい。
真紅が自発的に封印に対して力を蓄えているのに、紫紺の野郎が精神的負担で戦線離脱されたら堪らない。
「まずは紫紺を落ち着かせて、そのあとレンを回収して……アリスターはどうすっかなぁ?」
あいつはヒューの家臣だ。
いや、友達ってやつか? よくわからんが、アリスターはヒューと共にある者だから、ヒューと離されたアリスターはヒューの元へ馳せ参じるために動き回るだろう。
あ~、面倒だから、アリスターはディディもいるし後回し。
レンを見つけたら、ヒューを探そう。
……でもなぁ、この森全体に力を行き渡らせたけど……ヒューの気配だけが掴めない。
この森には、ヒューはいないってことになる。
「あ~マズいなぁ。あっちもこっちも大変じゃねぇかよ。ちっ、バカ鳥め。気持ちよさそうに俺の頭の上で寝やがって」
俺はブチブチと文句を言いながら、不安になって泣くならまだしも、強大な魔法をぶちかましていそうな紫紺の元へと急ぐのだった。





