最後の精霊楽器 1
お久しぶりの登場、闇の上級精霊ダイアナさんは、一人でブループールの街まで転移してきたみたい。
いつも一緒に王都から転移してくるウィル殿下の姿がどこにも見えないから。
んゆ?
「ハーッ、ハーッ。レン、危ないから急に走っちゃダメだよ」
ひょいと、ダイアナさんに抱き着いていたぼくの体を兄様が抱っこして捕まえる。
わーっ! 捕まっちゃった!
「ダイアナも、久しぶりだね」
「ええ。ヒューたちは元気だったかしら? 早速で悪いんだけど精霊の契約者たちを集めてくれる? 風の精霊と契約したアルバートもね」
パチンとウィンクしたダイアナさんは、メイドの案内もまたずにスタスタと屋敷へと歩いていってしまった。
「……今度はなんだ?」
兄様がとっても迷惑とでもいうように、眉間にシワを寄せて呟きます。
ダイアナさんが訪ねてくるということは……はわわわ、もしかして光の精霊見つけちゃった?
さて、全員集合です。
ぼくと白銀たちも、シラッとした顔で参加しています。
兄様も涼しい顔で参加しているから、いいよね?
アリスターとディディ、プリシラお姉さんとエメ、ドロシーちゃんとチャド、アルバート様と……あれ?
「なんだよ? ああ、アイツか? 俺は知らないぞ。いつも一緒にいるわけじゃないし、どこにいるかもなにをしているのかも、知らん」
アルバート様が腕を組んで不機嫌そうに言い張る。
……契約しているのに、二人は仲良しではないの?
「風の精霊はそんなものよ。別に構わないわ」
ダイアナさんが長い黒髪を手で払って、優雅な手つきで紅茶のカップを傾ける。
今日は大事な話をするのでは? と察知したのか、リリとメグたちではなくてセバスが給仕についてます。
もちろん、セバスの片手には首を掴まれたぬいぐるみ状態の翡翠がいます。
四肢の力がなくダランとしたまま、シクシクと静かに泣いているけど……自業自得だよ?
ダイアナさんを見た翡翠がびょ~んとセバスの拘束から逃れて、ダイアナさんに「黒の女神よーっ」「愛の奴隷にしてくれー」とか叫びつつ抱き着こうとしたから、セバスが翡翠の首をギュッとしました。
しかも、ぐえっといつものように呻く翡翠の頭を、笑顔のダイアナさんが真っ赤な爪の手でぐわしっと掴むと、黒いモクモクが翡翠の体をロープのように巻き付いて縛っていったのだ。
「ぐっ、ぐええええええっ、きぼちわるいぃぃぃぃっ。し、白銀ぇ、し、紫紺、た、助けてくでぇぇぇぇっ」
「アホか」
「いい気味よ」
ダイアナさんのお仕置きと、セバスの折檻のダブルパンチに翡翠は撃沈。
仲間であるはずの白銀と紫紺も、あっさりと見放した。
こうして、翡翠は今日もシクシクと泣いているのです。
「……反省しないなぁ」
兄様の呆れた声にぼくは静かに頷いた。
「ずいぶんと待たせてしまったわね」
ダイアナさんの一言が場の空気を替える。
「ダイアナ。光の精霊は見つかったのか?」
兄様の質問にダイアナさんのこめかみがピクリと動いた。
「ええ……あのバカは見つけたわ。ただ、あいつが言うには持っていた精霊楽器を失くしてしまったみたいなの」
苦虫を噛み潰したような表情のダイアナさんですが……ぼくたちは重大な秘密を知っています。
でも、ここではお口を開きません。
だって、怒ったダイアナさん怖いもの。
その秘密は……プリシラお姉さんのお父さんであるブランドンさんが道化師の男に狙われる原因となった例の本、その本がブランドンさんの手に渡ったとき、彼は床に置いて奏でるような楽器を見ている。
つまり……ダイアナさんが持ってきた前世の琴のような精霊楽器は、一度道化師の男の手に渡っていたということ。
ダイアナさん……管理していた精霊楽器、盗まれちゃったんだね……。
これは内緒です!
お口チャックの重要秘密です!
「それでね、光の精霊に探しに行かせるとまたどこぞへと逃げ……行方不明になってしまうから、あなたたちで探してきてほしいの」
「……どこにあるのか、わかっているのか?」
「ええ。それで、他の楽器は精霊の契約者たちにここで渡しておくわ」
ダイアナさんが手をふわっと動かすと、テーブルの上にドンドンと精霊楽器が出現した。
「好きなのを取ってちょうだい。どれを取っても一緒よ。精霊の属性も関係ないわ」
ダイアナさんはさらに、曲を演奏する練習も必要ないと告げた。
どうやら、勝手に楽器が曲を奏でてくれるらしいので、精霊の契約者は魔力を込めて楽器を奏でる練習をすればいいとのこと。
これにはアリスターとドロシーちゃんが胸を撫でおろしていました。
ドロシーちゃんの手はモグラさんの手なので、小さいものは扱いにくいんだよね。
「あ、ダイアナ。例の歌い手だけど、見つかったから」
さらっと爆弾発言する兄様を、横目でチラッと見たダイアナさんは意味ありげに微笑んだ。
「そう、よかったわ」
兄様とダイアナさんの間に漂う緊張感に、アリスターはキャロルちゃんを紹介したほうがいいのかわからずオロオロ。
ちなみにキャロルちゃんはこの場にはいない。
「ところで、残りの精霊楽器ってどこにあるのよ?」
紫紺が欠伸交じりに尋ねると、ダイアナさんは嬉しそうに真っ赤な唇をニンマリ。
「あなたたちも足を踏み入れたことのない場所。光の精霊の精霊界の出入り口があるという伝説の……光の森よ」
「んゆ?」
そこは有名な場所なのですか?
セバスとアルバート様は驚愕に目を見開き、兄様たちはきょとんとした顔ですけど?
「光の森だと……って、紫紺、そこはどこだ?」
「アタシだって知らないわよ」
……神獣聖獣も知らない場所みたいです。





