確認しましょう 4
明けましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いします。
たいへんだぁーっ、たいへんだぁーっ。
バタバタと廊下を走るぼくをリリとメグが困った顔で見ているけど、いまはお行儀が悪くても廊下を走るのです!
急げ―っ。
「……レン様がお急ぎのようだけど?」
「抱っこして運んで差し上げたほうがいいかしら?」
ぼくが全速力で疾走している横をポテポテと歩く白銀がふうーっと息を吐いたけど、なんでだろう?
「レン様? おはようございます」
「セバス! おはよーっ。あ、あのね、とうたまいる?」
「……おりますが?」
いつもピシッとしているセバスが、ぼくの慌てた様子にちょっと眉を下げる。
その手にいつも握られているぬいぐるみ状態の翡翠がいないのが、ちょっと寂しい。
「よし! とうたまーっ」
ぼくは食堂の扉をバンッと……セバスに開けてもらって飛び込んでいった。
ブルーベル伯爵家の朝食はいつも賑やかだ。
末っ子のフレデリカが一緒に朝食を取れるようになると、最愛の妻アンジェリカも朝の食堂に姿を現すようになったからだ。
自慢の息子であるヒューバートは完璧なマナーで食事を取りながら、父である俺に朝の訓練の様子や親友でありライバルでもあるアリスターとのやりとりを報告してくれる。
父として頼りにされ信頼されていると、毎朝ジーンと胸を震わしていた。
養子にしたレンは、まだまだ幼くて拙いカトラリーの使い方や、ふにゃと美味しさに蕩ける表情がかわいい。
貴族の食事のマナーとしては眉を顰める奴らがいるかもしれんが、ブルーベル伯爵家の朝はこれでいいのだ!
でもなぁ……父様、問題は持ち込まないでほしかったなぁぁっ。
「で、その古臭い本がプリシラの父が持っていた、悪い奴から奪い取った本なのか?」
口のまわりにべったりとクリームソースをつけたレンが、うんうんと何度も頷く。
頬いっぱいにパスタが入っているから、喋れないのか……かわいいなぁ。
「父様。プリシラの父なら、ファーノン辺境伯のところで保護したブランドンですよね? 彼……古の人魚族が地上に残したものを探していたときに、怪しい奴らの何かを知ってしまった……らしく追いかけられていたとか。もしかして、その本が原因なのでは?」
……思い出したくないが、アンジェリカの友人が嫁いだ他国の辺境伯領で起きた風害。
思い悩む友人を励ましたいと訪れたファーノン辺境伯領で、ヒューとレンが俺に相談もなく勝手に動き回り、結果神獣エンシェントドラゴンとレンが契約してしまった、あのときのことか……。
俺はハグハグと朝から肉の塊に牙を立てているちっこい姿の白銀と、ペロペロとお上品にスープを食むちっこい姿の紫紺を見やる。
小鳥姿の真紅はりんごに文字通りかぶりついているが、それはいつものことだ。
……今日は琥珀はいないみたいだな。
神獣エンシェントドラゴンに琥珀と名付けたレンは、そのあと小さな土人形を持ち歩くようになった。
まさか、そのゴーレム擬きに度々エンシェントドラゴンの意識が入り、分身体としてレンの近くに侍っているなどと思わなかった。
知ったときには、めちゃくちゃびっくりしたし、正直レンのやらかしに魂が口から抜けるところだった。
紫紺の収納魔法に入っていた古い本を手に取り、パラパラと捲ってみる。
俺の後ろから無表情なセバスの視線を感じながら、古くなった紙を捲る。
「……書いてある文字は読めないな。古代文字? いや……どこかの種族が使っていた文字か? それと……魔法陣?」
一応、貴族の子息として周辺国の言語は習ったが、本に書いてある文字は見たこともなかった。
当然、解読不能だ。
そして、ところどころに描かれている魔法陣は……なんだか不穏な気配を感じる。
「レン、プリシラはなんでこの本を?」
「んぐっ、えっとぉ……がっきを、しゃがすのにどーぞーって」
「?」
なんだそれは?
ヒューの通訳によると、神聖クラウンラビットを封印するとして、精霊の契約者の一人にプリシラが選ばれ精霊楽器を奏でることになった。
その精霊楽器は全部で六つあるが、まだ全部見つかっていないと話したら、プリシラの父が昔、その楽器を見たことがあると言い出した。
「それは、例の道化師の男が運ぼうとしていた床に置いて奏でるタイプの楽器だったんだけど、もしかしたら、その男が持っていた本に何か書いてあるかもしれないって」
「その床に置いて奏でる楽器はどうした?」
俺の質問にヒューが笑顔で強張る。
「……そ、それは、ダイアナが持っていたので、どこかで奪い返したと思うのですが……」
「あのね、あのね。ぼくがちょんとしたら、ピアニカになったのー」
……ピアニカ?
楽器が何か別の楽器に変わってしまうのは、今までも経験しているからわかっているつもりだが……ピアニカ?
「ギル。ピアノの小さいものだと考えろ」
セバスのフォローにより、どうやら見たこともない楽器が、レンが触ったことにより小さなピアノに姿を変えたことを理解した。
理解したうえで、もう二度と追及はしない。
こっちの常識が破壊されるからだ。
「しかし……この本、どうやって解読すればいいんだ?」
じーっと訴える視線を白銀たちに向けるが、白銀も紫紺も黙って顔を背けた。
神聖や聖獣でも解読できない本なんて、どうすればいいんだああぁぁぁっ。
「だうっ!」
「あ、リカちゃんが、りんごおいちいって」
今日もブルーベル伯爵家の朝食は賑やかだ……。





