008話 桜はいずれ散る
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少しでも掠れば、STR依存のスキル攻撃を六回受けることになる。
しかも、防御力を貫通する効果があって、当たればHPの大部分を削られる。
破壊力だけで言えば、既存スキルの中でも群を抜いた性能。
ただ、明確な弱点も存在する。
あの激遅モーションだ。
そもそも発動までに時間が掛かるし、溜め終わっても特段素早い攻撃が繰り広げられる訳ではない。
当てるには侍のカウンタースキルである居合と併用するのが基本だ。
居合と桜花六連撃は、合わせて100pt。
残りが20ptしか使えないんじゃ、まともに使う人なんていない。
それなのにまさか、居合を使わずに真正面で発動する人がここにいたとは。
「どうだ! 正面からじゃ、逃げ切れねぇーだろ!」
「どこのランク帯の話をしてるのかな? ブリンク知らない訳ないよね? ……『アタックステップ』」
身体の向いている方向へ、三メートルの距離を高速移動。
武器を持っていない状況なので、その後発生する攻撃のモーションへ派生しない。
それだけ聞けば不発したようにも思えるが、回避として使う場合は攻撃モーションがない方が助かる。
桜花六連撃の攻撃範囲から抜け出すと、モーションのせいで動けない侍の横を通って、戦士の方へ一直線。
ここでワープを使って一気に距離を、
「雨神の動きが固まった! ワープ警戒!」
流石に多少の知識はあるらしい。
ワープもそこまで万能じゃない。
発動時には、どんな状況でも必ず身体が硬直する。
時間にして一秒。
速いゲームスピードの中では長いとも取れる秒数。
そのことを知っていた僧侶が警戒を促す。
きっとワープのクールタイムもカウントしていたんだろうな。
既に使用可能になっているのは把握済みだったようだ。
なら、その知識を逆手に取るまで。
その為に用意したスキルがこちらにはある。
「背後を取るのは分かってんのよッ!」
苛立ちの隠せない戦士が、背後から聞こえた物音に反応して素早く振り向く。
警戒しろと言われたら、身体が敏感になるのは当然。
しかも、場をかき乱されて俺に対する嫌悪感が募った状況だ。
一矢報いてやろうという気持ちも強かったと思う。
戦士の剣は空を斬った。
力強いスイングが、豪快な音を生み出す。
恨みの強さが滲み出た一撃。
もしも、当たったらと考えると恐ろしい。
万が一にもあり得ない話だけど。
「残念、それはサウンド。君の身体能力の高さは素晴らしいけど、感情に流されすぎだね」
投げた短剣を回収。
そのまま流れる動作で、下から上へと首を刎ねた。
動かなくなった擬似体が膝をつく。
ゲーム終了までは残り続ける亡骸が、悲惨さの演出に拍車をかける。
残ったパーティーメンバーの侍と僧侶が俺を睨み付けた。
でも、俺は悪いことをした訳ではない。
人数差がありながら勝ち切れない方が問題なのだ。
四人もいれば、勝ち方なんていくらでもあるだろうに。
「報告だけじゃなくて指示も入れるべきだったね。ワープは視認した場所へしか飛べないんだから、迷わず前へ出るようにさ。仮に前へ詰めて来て反撃されても、あの時は武器を持ってなかったし大したダメージにならなかったと思うよ?」
「まだ試合が終わってないのにフィードバックのつもりかよ」
「試合は終わってないけど、君達は終わりだからね」
侍が僧侶を庇いながら、刀を強く握る。
俺の意味ありげな一言に警戒を強めたか。
目の前で二人を倒された状況。
負けが脳裏に過るのは、ごく自然な感覚。
しかも、ここで俺に勝ったところで、生まれた損失が後半に尾を引く。
侍もダウンしてしまい、自衛の手段が皆無の僧侶だけとなれば勝つのは不可能。
被害を最小限に抑える為に、逃げる選択も頭に浮かんでいることだろう。
両者、間合いの読み合いが続く。
手の内は大体晒してしまった。
俺より低いランク帯のプレイヤーだとしても、スキルポイントの計算くらいはできる。
サーチとバリアの20pt分は、相手からすれば不明瞭だけどほぼ必須級のスキル。
バレていると思った方が良い。
「走る準備をしておいてね、神場さん」
「な、なんで私を……」
助けるのか。
そう言い終える前に、敵の更に奥から草木を掻き分けてこちらへ何かが向かってくる音が聞こえる。
「後藤、後ろから何か来てない?」
僧侶の女子生徒が敏感に物音に反応する。
しかし、侍は微動だにせず。
「気にすんな、さっきのサウンドだろ。気になって振り向いた途端、一撃ポイントを狙って攻撃仕掛けてくるぞ」
「でも、サウンドは一時的な短い音しか出せないよ。この音、さっきから近付いて来てる」
「そこの僧侶ちゃんの言うこと聞いた方が良いと思うよ? 君達、付与術士にサーチ任せて構成に入れてないから気付かなかったと思うけど、ここはもうすぐ激戦区と化すから」
最後にそれだけを言い残して、神場の腕を掴んでワープを発動させた。
ワープは敵味方問わず接触している物や人に、同様の効果を付与する。
判断能力が乏しい神場を強引に連れて、茂みの奥へと入り込む。
これでひとまずは逃げることが出来る。
背後から聞こえる乱戦の声。
サーチを見直す限り、漁夫へやって来たのは二組八人。
一人も欠けていないところを見ると、これが初ファイトだろう。
さっきまでいた場所が、今頃は地獄絵図になっていると思うと恐ろしくて堪らない。
人数が減っていることには、漁夫へ来た八人も気付いているはずだ。
あのファイトが終われば、次は俺達が標的となる。
状況を飲み込めずにいた神場も、殺伐とした空気を察して、ようやく自分だけの力で走り始めた。
───
十分な距離を離れることができたのは、それから五分後のことだった。
サーチを起動させて、周囲の状況を確認。
こちらへ向かってくるピンは一つもなかった。
てっきり生き残ったパーティーが追跡してくるのかと思ったけれど、生き残ったのはたった一人。
これ以上のファイトは危険と判断して、ハイドに切り替えたのかも。
もしくは、アンチサーチを使って人数を擬装しているか。
そんな小細工を咄嗟に思い付く人間がいれば相当な切れ者だけど、可能性としては前者だと思ってまず間違いない。
後者を思い付く知能があるなら、そもそも序盤から敵のいる方へ突っ込んだりはしないからね。
ダンジョン崩壊によってエリアに制限が掛かるまで、ゆっくりしながら敵が来たら迎え撃つ態勢を整える。
「お話しても良いですか?」
「嫌だって言ったら、君は会話を諦めるの?」
「えっ? あ、えーっと、……多分」
「あのさ、良い加減やめたら? ソロになったからって暗い雰囲気なるの?」
自分から冷たく突き放しておいて、神場が口ごもると嫌味な言葉を返した。
「なんでそんな事言うんですか? 確かに雨神さんは強いかも知れませんけど、私は到底ソロではやっていけません。だから、もうどうしようもなくて」
まだ比較的落ち着きながら弱音を吐く。
俺へ対する嫌悪感も見え隠れ。
だけど、どこか遠慮がちな言葉選び。
あと少し、もう少し俺は踏み込む。
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