007話 彼は唐突に現れる
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目を開けると木々が音色を奏でる大自然が広がっていた。
ランダムなマップの中から選ばれたのは無限森林だったか。
このマップは生い茂った草木のせいで遮蔽物が多く、先の見通しが悪い。
中距離後衛職の魔法使いや精霊使いはかなり動き辛いだろうな。
スキルを当てようにもすぐに身を隠されるだろうし、火属性系の魔法スキルは炎上効果で山火事になりかねない。
逆に、遠距離後衛職の弓使いと銃使いは、身を隠しながら一方的に攻撃が出来る。
つまり、このマップの肝は後衛職ということになる。
俺も銃使いは候補の一つだったけど、ソロでランダムマップに挑む場合、スキル構成を全ての距離に対応させなければならない。
そうなると器用貧乏で終わってしまい、最終的にプレイヤーのフィジカルに大きく左右されてしまう。
だから、最終的に選んだ職業はなんやかんやお世話になっている盗賊だった。
スキルポイントの割り振りも無難に、
【職業】
メイン:盗賊 サブ:ルール適応外
【ステータス】
HP:4 MP:3 STR:5 VIT:3 INT:4 MID:4 AGI:7
【スキル】
バリア(10pt)、サーチ(10pt)、投擲(10pt)、アンチサーチ(10pt)、サウンド(10pt)、アタックステップ(30pt)、ワープ(40pt)
アンチサーチを削って浮いた10ptで、ステータスのSTRを1上げようとも思った。
ただ、今回の試合は通常のランクと異なる異質な点がその考えを思い止まらせる。
試合が始まる前から俺に集まるヘイトが高い。
サーチを使って一人で動いている人間を見つけたら、真っ先に狙いにくるだろう。
それ故に、アンチサーチは必須級のスキルになった。
そして、アンチサーチを使うことで生まれる被害者が一人。
俺はその子に会いに行く必要がある。
時間が惜しい。すぐにサーチを使った。
どうやら予想通り、彼女はアンチサーチを使っていない。
近くのエリアでぽつんと一人立ち止まっているみたいだ。
これが罠であるならば天晴れ。
そうでないなら、早々にリタイア確定だ。
「あぁ、これまた面倒なことになってるな」
サーチで全体の位置を確認しながら、急いで移動を始めた。
少しぬかるんだ地面に足を取られるが、足を止めている時間はない。
一つのピンに集まり始めている大勢のクラスメイト。
距離的にはまだ俺と大した変わらない。
どちらが早く辿り着くかはAGI次第。
俺に分のある勝負だ。
───同刻、無限森林のとあるエリア
「いたけど、あれ雨神じゃないな」
「神場の方だったみたいだな。予定とは違うけど、仕方ねぇー。ここで見逃して後々足元を掬われたら嫌だからな。倒すぞ」
神場は無我夢中で走っていた。
ソロでの初めての戦闘。
頭の中で何回もシミュレーションした光景を、実戦で披露しようにも身体が動かない。
実際のスピード感や情報量の多さ、何より複数人から一度に狙われる恐怖。
その全てが身体を強張らせた。
たった一つ出来る惨めな敗走も、多くは時間を与えてくれない。
地面に飛び出した木の根につまづいて倒れ込んでしまう。
無謀な状態をいつまでも晒す訳にはいかない。
すぐさま振り返って、バリアを展開。
少しでも長い時間生き残るのがせめてもの抵抗。
「こんな弱いソロをいじめるのはちょっと気が引けるわ」
戦士が剣先を神場の眼前に向けながら憐れむ。
バリア越しにでも見える相手のパーティーの反応が痛い。
対等な力量ではあり得ない慈悲の目。
ここで逃しても良いと思わせる弱さ。
彼女は悟る。自分がこれから先、勇者になれる可能性はないのだと。
神場雛子はコネで入学した紛い物だと。
「おい、ちょっと待て! おかしなピンが近付いて来てるぞ!」
後方で支援に徹していた付与術士が叫ぶ。
「おかしなピン? もうちょっと具体的な報告くれー!」
「さ、さっきから点いたり、消えたりするピンがいるんだよ」
「おいおい、嘘だろ!? このタイミングで漁夫かよ? 数は?」
「一人ッ!」
それは突如として現れた。
全員が接近に気付いてからたった一秒。
相手の混乱に乗じて、パーティーの中で一番後ろにいた付与術士の背後を取る。
「まずは一人目」
「雨神だッ! ワープ持ってるぞ!」
慣れた手つきで手に持っていた短剣を使い、首を掻き切る。
血の代わりに飛び散る光の粒子。
人数の差が大きなアドバンテージになるこのルールで、俺の方から仕掛けられたまさかの奇襲攻撃。
神場に気を取られてしまったが故に起こった惨事。
戦士は、目の前の雛子をキツく睨み付ける。
その目にはさっきまでの憐れみはない。
「アンタ、騙したのね! おかしいと思ったのよ! パーティー決めの時に何か吹き込まれたんでしょ! 雨神も、アンタも許さないッ!」
仲間が一人ダウンしてしまい、冷静さを欠く。
パーティー決めの時は、この試験があることを知らなかった。
もっと言えば、俺はパーティー決めの後も真っ先に教室を出た。
神場と作戦を話し合う余裕なんてあるはずがない。
それでも神場が俺をパーティーへ誘っていたあの場面を見て、二人が繋がっていたのだと思わざるを得ないのだろう。
「せめて、アンタだけでも……倒す」
怒りに任せて、剣を振り上げる。
木々の隙間から漏れ出る日の光が、キラッと刀身を輝かせた。
先程と違って少しも猶予は与えない。
神場がいくらバリアを張っていようとも、あの至近距離で攻撃されたら確実に倒される。
俺は少し待つ。
手助けが必要なのは明らか。
でも、それだとソロとしては生きていけない。
どんな状況であれ、一人で切り抜ける必要がある。
今回はその仕草だけでも見せてくれたらと思った。
危機的状況に陥れば、本能で力を発揮してくれると信じて。
しかし、期待していた動きは見られない。
足の力が抜け座り込む。
展開していたバリアも解除して、虚ろな目をしていた。
自分からゲームオーバーを待つなんて。
つくづく、彼女はゲームに向いていない思考回路だと思う。
「『投擲』」
これ以上は待てないと判断。
手に持っていた唯一の武器、短剣が綺麗なフォームのスローイングから放たれる。
スキルの補正効果も作用して、寸分狂わず狙った箇所に命中した。
振り下ろされた剣の刀身に当たる。
その衝撃で軌道がズレた。
脳天を真っ二つにするはずだった攻撃は、肩を掠めるだけに留まる。
なんとか神場は一命を取り留めたものの、状況は未だ好転せず。
同一パーティーじゃないから、彼女のHPバーが表示されていないけれど、概算二、三割のダメージを喰らっているはずだ。
これ以上の被ダメは好ましくない。
神場は俺が倒すと決めたのだから、他の者に倒されてしまっては面白くないからな。
まずは、一番神場と距離の近い戦士を対処すべく動き出す。
「こんな序盤でこれ以上、パーティーメンバー失う訳にはいかねーんだよ!」
戦士の前に立ち塞がる侍。
納刀状態での構え。舞い散る桜のモーション。発動までに時間の掛かる溜め。
その特徴的な動きを見ただけで、どんなスキルか分かる。
習得に60ptも必要になる、侍を象徴する大人気スキル。
「『桜花六連撃』ッ!」
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