006話 ゲーム開始の合図
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部屋の中は、ホテルのような作りになっていた。
奥には四つのベッドが並べられていて、枕元には五感転送装置であるヘッドギアが備え付けられている。
この部屋以外もきちんとパーティーの人数上限に合わせて、ベッドとヘッドギアを用意していると思うと、それだけで相当な金額が費やされているなと頭の中で電卓を叩いてしまう。
それにこの部屋は、ベッドとヘッドギアだけじゃない。
PCと観戦用のスクリーン、作戦会議用のボード、ウォーターサーバーにお手洗いまで。
本気で勇者を目指す生徒の為なら、設備投資も厭わない。
神場高校に入学出来て良かったと、今更ながらに痛感した。
ベッドに寝転んで、担任の指示が来るのを待つ。
このまま眠ってしまいそうなくらい寝心地が良い。
プレイ中の長い間、このベッドの上で寝た状態になる。
だから、体を悪くしないよう細心の注意を払っているのだろう。
実家でエデンをプレイしていた時は長時間やることも珍しくなく、その度に腰がどうだ、肩がどうだと嘆いたのを思い出す。
いくらゲームとはいえど、体は資本だ。
どこかを痛めてしまえば、長時間のプレイをするのは難しい。
勇者になると、必然的に洗練された質と膨大な量の練習が必要になる。
俺みたいな才能なんか持ち合わせていない人間なら尚更。
今のうちから体のケアは怠らない方が良い。
中々始まらないから一度水でも飲もうかと立ち上がると、観戦用スクリーンへ勝手に映像が流れる。
白い背景に映っているのは、担任である板里先生だった。
気怠げなのは相も変わらず、手に持った紙から一度も視線を外さず読み上げる。
『えぇー、一年一組の諸君。先程もチラッと言ったが、これより新入生テストの実技を行っていく。今回は直接成績に影響するものではないが、自身の実力を知る良い機会になるだろう。全員真剣に臨むように。尚、ルールはダンジョンズバトルロワイヤルで、マップはランダムだ。五分間の作戦会議の後に始めるから速やかに準備するように』
バトロワか。
ソロにとっては四つあるルールの内、二番目に不利なルールだな。
なるべく戦闘は避けないと上位には行けないし、そもそも自分が倒れた時点で順位が確定してしまう。
ハイドして終盤まで生き残ったとしても、収縮したエリアの中真っ先に狙われるのは撃破が楽なソロプレイヤー。
今回の場合は、俺と神場か。
『あぁ、それと雨神。お前に話がある』
個別のメッセージに疑問符が浮かぶ。
『ちなみに今は全体への発信から個別のものへと切り替えている。つまり、この話はお前しか聞いていない。絶対に内部に漏らすなよ?』
部外秘の情報なんて聞かされたら嫌な予感しかしない。
だけど、この状況でどこかへ逃げる訳にも行かず、苦し紛れにウォーターサーバーで水を汲んでそれを飲みながら話を聞く。
『お前と同じくソロの神場雛子についてだ。パーティー決めの時に話をしたみたいだから、薄々勘付いているとは思うが彼女は理事長の娘でな。始めて二ヶ月の初心者にも関わらず入学してしまった』
「存じておりますよ」
『まぁ、この学校で神場と聞けば偶然だったとしても疑いたくなるのは無理もない』
独り言のつもりだった言葉に返事があった。
どこで話を聞いているのかと思って、辺りを見渡すと天井の隅に監視カメラが。
あれにマイクも内蔵されていて、こちらの声を拾っているのかもな。
『理事長は非常に娘の事を可愛がっていてな。今回の結果も楽しみにしている』
「だから、彼女の面倒を見ろと?」
『話が早くて助かるな。本当であれば、お前がパーティーを組んでくれたら楽に事が進んだのだが、そこまでは強要させられなかった』
「貴方が担任という立場を全うするつもりがあるのなら、はっきり言ってやるべきですね。ここは勇者を目指す場所であって、遊び場じゃないんだと」
『君の意見も最もだが、雛鳥はいつまでも雛鳥のままじゃないだろ? いつかは成長して、親鳥になる日が来る。その為に見守る役割が必要という訳だ』
板里先生がここまで肩入れするのは、きっと自分の査定の為だ。
理事長の娘がいるクラスを受け持つのは、リスクもあるが結果を残せば大きなリターンが生まれる。
ここは多少強引でも、勝たせたいという思いがひしひしと伝わって来た。
「分かりました」
『そうか、それは助かる』
「俺がちゃんと介錯してあげますよ。彼女の為にも」
『……お前がそうしたいならそうしろ。確かにお前の意見も一理あるのは認めるからな』
意外にもあっさりとした反応が返って来た。
もっと必死に懇願するかと思ったが、そこはあくまでも教師という立場上出来ないのかもな。
余計な考え事が増えて、プレイに差し支えが出ても仕方ない。
これ以上は話すこともないし、持っていた紙コップに入った水を一気に飲み干して、PCを弄り職業とスキル編成を済ませる。
バトロワと聞いていた時点で、ある程度のスキル構成は決まっていた。
だから、選ぶのにはそこまで時間が掛からない。
選び終えると、ベッドに寝転んでヘッドギアを装着。
カスタムの参加者がパーティー毎にずらっと並べられた待機画面が映っていた。
基本はランクしか回さないから、カスタムの画面を見ると新鮮な気持ちになる。
プレイヤーのアカウント名とアカウントレベルだけ表示されていて、選択している職業やスキル構成は分からないようになってるようだ。
ランクと違う点を挙げるとすれば、プレイヤーネームという確実な情報があるということくらいか。
一見、少ない情報量にも思えるが、有名なプレイヤーや知人であれば人読みで職業とスキル構成は絞れる。
現状はクラスメイトのことを詳しくは知らないので、人読みすらも難しい。
待機画面からカウントダウンの画面に変わる。
緊張はしていない。それどころか、胸の高まりが止まずにいる。
カウントダウンが0になった。
[GAME START RULE:ダンジョンズバトルロワイヤル MAP:無限森林]
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