022話 戦い方は十人十色
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「ソロなんか? お前、ソロを舐めてんのか?」
富岡先輩が席を立ち、神場へと近付く。
椅子の背に腕を掛け、至近距離から圧を放つ姿は見ていられない。
傍から見ている俺ですらそう感じるのだから、本人はもっと恐いと感じていると思う。
「……すみません」
「あ?」
「すみませんでした」
蚊の鳴くような声での謝罪を聞いた富岡先輩は、少し不服そうではあるものの大人しく席へと戻った。
「ソロが低く見られてんのはこの際良いとして。アタシが一番気に食わないのはさ───」
目の前に置いてある唐揚げに手を伸ばし、フォークで突き刺して豪快に一口いただいてから、言葉を続ける。
「他責思考だな、お前。ソロになったのは、本当に雨神のせいか? そもそも雨神に頼らないとソロになる状況だったんだろ? コネだろうと、なんだろうと強い奴はみんな欲しがる。神場、お前は違っただけだ」
「九ちゃん! ダメだって! ごめんね、雛子ちゃん。彼女も悪気はないんだよ? ちょっと口が悪いだけ。本当は良い子だからさ。許してあげてね」
横に座っていた井草さんが椅子を近くに寄せて、肩に触れつつ謝罪をする。
神場は口を開かずにただ黙っていた。
先程と同様に威圧的な雰囲気を醸し出す富岡先輩が怖いだけだろう。
勝手にそう結論付けると、静かに鼻を啜る音が聞こえてくる。
「分かってるんです。……私が弱いことは分かってるんです。だから、ソロだけは無理なんです! もう絶対勇者になれないですよ!」
鼻の詰まった声で、目を腫らしながらテーブルに突っ伏した。
今日一日で溜まった不安が、全て涙と共に流れ出す。
歓迎会から一変、空気がどっと重くなる。
彼女の苗字を言うだけで平穏な食卓が奪われるのであれば、言わなければ良かったと今になって後悔する。
自分の努力次第で回避出来たというのに。
これではお腹が空いていても、料理に手を付けられない。
どうにかして、彼女を落ち着かせる必要がある。
でないと、唐揚げが完全に冷え切って美味しさが半減してしまう。
井草さんがこの日の為に作ってくれたというのに、それは勿体無い。
「……ソロでも勝てる方法あるよ。君みたいな初心者でもね」
顔は上げずにピクッと反応する神場。
もっと食い付きの良い反応を見せると思ったけど、怪しいマルチみたいな文言ではこれが限度か。
いつもの俺であれば、後は本人次第だと投げ出す。
しかし、残された時間は短い。今にもお腹は鳴ってしまいそうだ。
そうなる前に、神場が食い付くよう餌を垂らす必要がある。
「そもそも勝ち方について、神場さんは勘違いをしている。富岡先輩、勝ち方と言えば何を思い浮かべますか?」
「殴って勝つ。倒して勝つ。それ以外ねぇーだろ?」
「そう、そういうことです。これが神場さんの抱えている問題です」
富岡先輩が眉間に皺を寄せて首を捻る。
「あぁ? 意味が分からん。どういうことだ?」
「……私にも意味がさっぱり。富岡先輩の言う通り、敵を倒す以外に勝つ方法なんてありませんよ」
疑問を抱いた神場が口を開く。
人は自分の考えと違うものを聞くと、どうしても会話に混ざりたくなる生き物。
まずは会話に引き摺り出すのは成功だ。
「勇者の八割、いや、九割が派手にキルを取り形勢をひっくり返す勝ち方をしますからね。キル=勝利という考え方になるのは仕方ないでしょう。ましてや、試合の切り抜きのおかげで、短時間でスーパープレーだけを煮詰めた動画が見れますからね」
「その口振りだと倒すだけが勝ち方じゃないみたいな言い方だな」
「そうです。例えば───」
本格的に説明に入ろうという段階で、会話に混ざりたそうな紺野と目が合う。
答えが分かると訴える瞳に根負けして、一番おいしい答え合わせを譲る。
「分かるかな? 紺野さん」
「はい! もちろんですよ! Bloodless killer。血の無き殺し屋とかですよね。自らの手を下さず、他のパーティーを嗾けたり、援護することで順位を上げる方法のことを言います」
「それはバトロワの話に限定されてないか? キルポイントやダンジョンTAはどうする? あれは、プレイヤーじゃなくてモンスターエネミー。全く話は別だろ。キルしない立ち回りなんて現実的とは思えない」
「勿論、モンスター相手には違いますよ? じゃんじゃん倒さないといけません」
「じゃ、じゃあ、やっぱり無理なんだ」
モンスターを倒すと聞いて青ざめた顔をする神場。
まるで騙されたとでも言わんばかりだ。
「モンスターを倒すのは基本誰にでも出来ますよ」
その言葉には、"理論上は"という補足が抜けているけど。
「あれは人と違って一定のプログラムの下で動いてますからね。感情や思考によって判断を下す人間と違い、動きに規則性が存在する」
「つまり、その情報を徹底的にインプットすれば、力押ししなくても倒せるって訳か。アタシみたいな奴でも勉強になる話だな」
「私、ゲームとかしてことないけど、なんか出来そうかも!」
井草さんも話を聞いている内にやれそうだと思い始める。
ゲームをやったことのない彼女がこういうのだから、神場ならもっとやる気になってもらわないと困る。
それにプレイ歴は短いといっても、勇者を目指してこの学校に片足を突っ込んだ以上、今後幾つもの困難に出会う。
その度に弱音を吐いて、無理だ、駄目だと、逃げ出そうとしたらキリがない。
それでもまだ乗ってこない。
俺達の話を聞いて希望を見出しているはずなのに、ずっと煮え切らない態度のまま。
傍にあるチャンスへ手を伸ばさない様子に、珍しくふつふつとした怒りが込み上げる。
決して表には出さないように、深く息を吸ってから話し始める。
「君には小手先の技術すらない。昨日、今日始めた素人と変わらないくらいだ。センスがないんだろうね。おまけに思考は後ろより。ゲームをする上で致命的でしかない。だったら、どうするか。答えは一つ。尖った武器を手に入れること。どんな武器でも鋭利に尖れば凶器になる」
「……尖った武器。もしかして、知識ということですか?」
段々とこちらの意図が見えてきたようだ。
「そういうこと。戦わずして勝つにしても、モンスターを倒すにしても、何から何まで足りないものを知識で補う。バトルの為に練習を費やすくらいなら、過去のデータや、基礎情報のまとめられたサイトを漁る。それくらいの覚悟でやっと、みんなと五分五分の勝負ってとこだね」
「……それでも五分五分」
餌を与え過ぎたかもな。
後は肥えるも、痩せるも本人次第。
俺には関係のない話だ。
それよりも今は料理、料理。
重苦しい空気からは変わったので、手を付けても問題ないはず。
両手を合わせてから箸を持ち、食べたくて仕方なかった唐揚げに齧り付く。
「……うんまっ」
その声を皮切りに歓迎会が本格的に幕を切った。
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