021話 最悪な歓迎会
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あの後ももう一戦、もう一戦と数をこなして、結局三時間も拘束される羽目になった。
ぶっ続けで勝負をすること自体は負担ではない。
シーズン終了間近は、朝から晩までランク戦に潜ることもあるから慣れている。
ただし、VSだと話は変わってくる。
あれは勝負の佳境を煮詰めたようなゲームモードだ。
逃げ場が少なく強制的に戦闘が始まる都合上、展開が早い。
小細工を仕込みにくい分、シンプルな実力も求められる。
途中で手を抜こうかとも考えたけど、先に釘を刺されてそのまま今に至る。
結果は五十戦、三七勝、八敗、五引き分け。
三七勝の内、二三勝が前半で稼いだ勝利数。
後半は癖やパターンを読まれたようで、負けることもしばしば。
疲れがあったという言い訳もあるけど、連戦に関しては相手にも言えることだ。
兎にも角にもあのまま続けていたら、負け越していた可能性も僅かながらにあり得た。
それは虎バット改め、富岡先輩も感じていたはず。
なら何故、折角勝ち越せそうなった先輩が、勝負を止めたのか。
理由は目の前の光景にある。
広々としたゆとりのあるテーブルの上に、所狭しと並べられた料理の数々。
今日が寮生活の初日ということもあって、信じられないくらい豪勢な夕食。
どうやら、この学校の寮には家事を担当しているスタッフさんがいるらしく、三時間経った段階で料理が出来たと呼ばれてしまったというのが答えだ。
「はーい、みんなコップ持ってー。かんぱーい!」
「「「かんぱーい」」」
ソフトドリンクの注がれたコップを当て合い、カランと音を鳴らす。
様式美とも言える始まり方を楽しみながら、静かに炭酸水を飲む。
「それにしても嬉しいね、九ちゃん。今年は一年生が三人も増えるなんて」
「数が多けりゃ良いってもんでもねぇーけどな」
「もぉー、素直じゃないんだから。この寮は広いのに女の子一人で寂しいって言ってたのに」
「……言ってない」
「言ってた。言ってたら、言ってた」
「それにしてもあれだな。良い対戦相手が出来たのは事実だよな」
咳払いを一回挟み、露骨に話題を逸らす富岡先輩。
「その対戦相手という人が可哀想で仕方ありませんね。先輩はわんぱく少女なので、一日と付き合わせてしまいそうで」
「言ってくれるな、雨神〜。なんだったら、お望み通り食後に付き合わさてやっても良いんだぞ」
あははと二人で笑い合う。
どちらも目が笑っていないことだけは分かる。
「はーい、エデンの話はそこまで。今日は歓迎会なんだから、みんなの話をしましょうよ」
スタッフのお姉さんが間に入って、場を仕切り出す。
今いる面子の中でまともに会話を回せる人間は、自分も含めて居なさそうなので助かる。
「あ、そうだ! まずはやっぱり自己紹介からよね! 私は、井草大子よ。よろしくね。はい、次、九ちゃん」
「富岡九。次」
「雨神人利」
「紺野芽愛です。以後、お見知りおきを」
名前だけの軽い自己紹介が進む中、一人の少女で躓く。
「おい、名前は?」
名前すら名乗らない少女に、富岡先輩が苛立ちを隠すことなく問い詰める。
「まぁまぁ、人にはそれぞれペースがあるんだから。ねぇ、名前教えてくれないかな? 折角、これから一緒に生活していくんだし」
「あの……雛子です」
「雛子ちゃん! 素敵な名前ねぇー! 可愛い響き!」
名前だけをボソッと答えた神場。
苗字はあからさまに隠したのは、この場にいる全員が気付いた。
しかし、場の空気を壊さないようにと必死に井草さんが盛り上げようと試みる。
一頻り名前の可愛さを褒めたり、作った料理の説明に入ろうとしたり。
必死なのが逆に申し訳なくなるくらいだ。
残念なことにそんな苦労も虚しく、富岡先輩が指でゆっくりと机を叩き、まだお前の番だと圧を掛ける。
神場は意地になって無言を貫くも、先輩は見逃さなかった。
「苗字、まだ聞いてねぇーけど?」
「言わないと駄目ですか?」
そう聞かれたら、駄目ではない。それが答えだ。
言うも言わないも本人が決めること。
その判断にこちら側がケチを付けられない。
ただし、この場は自己紹介をする場だ。
苗字の一つも教えられないとなると、仲良くなりたいという意思表示はどこにも感じられない。
「理事長の娘さんなので、神場という苗字ですよ」
「なんで言っちゃうんですか!」
「俺は名前を知っているからだよ?」
「理由になってません!」
「知っているのに教えないと、富岡先輩に後で何をされるか分からないからね」
全く怖くない目で睨み付けられても困る。
遅かれ早かれ分かることだ。
だったら、この場で教えてあげる方が合理的と言える。
それに本人は気付いていないかもしれないけど、名乗らないことによって気まずい空気が生まれていた。
どうして名乗らないのか。
その理由が分かった方が本人を除いてすっきりとする。
「どうして私ばかりいじめてくるんですか! 最初に声を掛けた時だってそうです! 雨神さんがパーティーを組んでくれたら、ソロなんかにならなかったのに!」
テーブルに置かれた箸を一点に見つめて、肩を震わせていた。
しばらく続く沈黙。
場の空気が凍り付いたのを察した神場がようやく顔を上げた。
全員が神場を見ている。
富岡先輩は怒り、井草さんは悲しみ、俺と紺野が呆れる。
どうしてそんな顔をされるのか。
見当も付かないと言わんばかりに、自分の発言を思い返す神場の顔色が、徐々に青ざめていくのが分かった。
「ま、まぁ、最初はみんな嫌がるよねー、ソロは」
井草さんのフォローが入るも、今更楽しい空気に持っていくのは難しい。
何より彼女が黙っているはずがなかった。
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