002話 信号機はやかましく
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空から舞い散る薄紅色の艶やかな桜。
趣深い春の代名詞。
見れば見るほど見惚れてしまいそうな美しさに迎えられて、俺は今、校舎の前に立っていた。
「にしても、デカいな。流石、日本一勇者を輩出してる学校だ」
五十ヘクタール超える広大な敷地の中にある、高精度即時作成粒子で作られた青白い建物。
質感はコンクリートに近く、その色合いもあってか無機質な印象。
校舎全体を見る為に顔を上げると首が痛くなりそうだ。
ここは"EDEN"の勇者を育成する高校。
私立神場高等学校。
例年、十人前後がこの学校から勇者入りを果たしている。
エデンで勇者になるなら神場、という印象が強い。
そのせいもあってか、毎年大勢の志願者が集まる。
今年の志願者数は五万人だったらしい。
そして、入学できる人数はたった百二十人。
合格率で言えば、一パーセントにも満たない狭き門だ。
まぁ、ここまでの話を聞けば、不安になる人も多いみたいだけど、俺は全くもって落ちる心配はしていなかった。
神場の入試は願書を書くだけ。
後はエデンの戦績を学校側が調査して、合否を決める。
俺はソロだけど、キルポイントバトルのランキングは6000位台と中学生にしては、いや、日本国内で見たとしてもかなり高い。
その他のゲームモードもそれなりに好成績。
よって、最終的には俺が首席合格という訳だ。
「こんなに完璧な俺って罪だね」
首席合格の喜びに浸りたいところだけど、入学式も数十分すれば始まる。
校門に設置されていた看板に、校舎の中を通って履き替えた上履きのまま体育館へ入るようにと書いてあったのを思い出す。
周りの新入生に紛れて、俺も校舎の中へと入った。
校舎の中も生徒で一杯。
廊下では既に集団となって、雑談に花を咲かせている様子も見受けられる。
学校生活において、友人関係は必須。
浅くても良いから、広い関係を構築することで充実した生活を送れる。
あくまでも一般的な思考で、俺には当て嵌まらない発想だけど、気持ちは分からなくもない。
友達はいたらいたで楽しいと思うし。
「見ろよ、あれ。キツい目付きとあのツーブロック。クズプレイヤーの雨神じゃね?」
「うわ、俺も顔見たことあるぜ。うぇー、アイツも神場受かってたのかよ」
「確か二つ名があったよな。あれだよ、あれ」
「"禁忌破り"な」
廊下を歩いていると、俺の噂が耳に入る。
ヒソヒソと話してはいるが、こんなに近い距離で聞こえないはずがない。
わざとやっているんだとしたら、中々に肝の据わった奴らだ。
しかし、どうもそうではないらしい。
チラッとそいつらの目を見てやれば、さっきまでの強気な態度から一変して窓の景色を眺め始めた。
額からは見えない汗がダラダラと垂れているようだ。
焦る姿が面白くてもう少し視線を向け続けたら、耐えきれなくなって、
「な、なぁ、もう行こうぜ」
「あぁ、そうだな」
二人組は足早に体育館へと逃げて行った。
怖いなら最初から陰口なんて言わなければ良いのに。
だけど、俺の噂自体は否定しない。
概ね言っていることは正しいからな。
倫理観ってのがあれば、勝利を掴み取れるなら喜んで拾ってやるんだけど。
生憎、そうもいかないのがゲームだ。
ソロなら尚更。
マップに設置された宝箱の中に毒入りの食い物入れたり、キルした相手を盾にしたりしてるし。
そりゃ"禁忌破り"なんて二つ名がつくのも頷ける。
「あぁ! あぁーーーー!!! お前は!」
大きな声を上げて、正面から迫ってくる男子生徒。
赤い髪がツンツン立っているのが印象的で、どこか見覚えのあるような。
いや、見覚えがあるのは髪の毛じゃないのかも。
この常に冷静さを欠く、慌ただしい喋り方。
「キルポイントバトルの時は、よくも俺を毒沼に落としてくれたな雨神人利!」
「あぁー、君、アツアツくんか」
「アツトだ、アツトッ! 夏円 淳人!」
そんな名前の奴だったな、確かに。
それじゃあ、後ろの青髪片目隠れのイケメン君がスズヤで、如何にもオタサーの姫みたいな目隠れ金髪ツインテがヒメか。
入学式前夜のバトルだったから、朧げながらに記憶している。
「テメェー、昨日はボコボコにしてくれやがって。折角、入学式前だから景気付けにってプレイしてたのによ」
「もうやめようアツト。雨神が強かっただけの話だ」
「そうよ、そうよ。やーい、アツトのツンツンヘアー」
「俺の髪型は関係ねぇーだろうが!」
仲が良いのは素晴らしいけど、赤の他人の俺の前でいきなりコントを始めるのはどうなのか。
俺がツッコミ役に回れば正解か?
その身内ノリみたいな感じに入るのって、ソロプレイヤーにとって一番の難関なんだけど。
「単刀直入に言わせてくれ雨神──」
改まって真剣な空気を作るスズヤ。
「俺達のパーティーに入らないか」
「お断りします」
「あはは、断るの早いな」
「いくら嫌われていても、実力を買ってパーティーに誘う奴らはいたからね。それに君達、パーティー上限の四人じゃないだろ? バランスの取れそうな盗賊を探していたって不思議じゃないさ」
パーティーを組んでゲームをプレイするなら、わざわざ中途半端な人数でいる必要は少ない。
人間関係が面倒だって点を除けば、四人パーティーを組むのがセオリー。
彼等もそれは分かっているが、三人の空気感を手放したくなかったのだろう。
だから、今日まで一人欠けたままプレイしてきた。
きっとそれなりに勝ってもいたんだろう。
それが昨日の大敗で心をポッキリ折られて、今に至る訳だ。
負けた相手を勧誘する度胸は認めるけど、俺はあくまでもソロプレイヤーとして生きる道を曲げるつもりはない。
淳人が丸刈り坊主になって、廊下に額を擦り付けて懇願してきたとしてもそれは変わらない。
限界への挑戦。
腐った根性の中で唯一曲がらないもの。
「だろうとは思ったけどね。ソロであのランキング帯なら、雨神なりのこだわりがあるんだろう」
「分かってるなら、誘わなければ良いのに」
「俺達、勇者を目指してるんだ。強くなる為だったら、ダメ元でも優秀な奴を誘うさ」
忘れてはならない。
神場にいる人間は全員勇者を目指している。
その為にプライドも、悔しさもかなぐり捨てて進む。
辛くて、苦しい運命を背負っている。
「アツトくんよりも、よっぽど君がリーダーの方が上手く行くんじゃないかな?」
「あはは! 本当に面白いね雨神は」
「喧嘩売ってんのか! 次は負けねぇーぞ! ボコボコにしてやるかんな! 覚えておけよ!」
「覚えとけ! 覚えとけ!」
負け犬らしい捨て台詞を吐いて、立ち去っていく信号機組。
昨日の対戦ではただ弱者にしか見えなかったが、どうも中々面白い奴らだ。
どんどん小さくなっていく背中に向けて、言葉を掛ける。
「昨日のアツトくんに向けた三下という発言、訂正するよ。君達はちゃんと勇者としての素質がある。センスでも、努力や知識でもない。泥水でも啜る強い心が」
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