001話 後に伝説の魔王と呼ばれる男
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「いたぞ! アイツを追え! 先にアイツ、キルしないとポイント離されるぞ!」
「分かってるよ! でも、この洞窟マップ、暗くて周りが見えないから、何が起こるか分からない! 気をつけないと!」
「もおぉー、サイアクー。相手、ソロって聞いたから楽勝で勝てると思ったのに」
「だぁー、もう! うるせぇーぞ、二人とも! さっさと追え!」
水滴がポチャンと反響するジメジメと湿った洞窟の中。
戦士、魔法使い、僧侶の三人は慌ただしく走っていた。
常に漏れる不平不満。募る苛立ち。
その元凶は全て、彼等が追っている標的にある。
「バカだねー、君達も。洞窟マップで、その三つの職業選ぶなんてさ。カモにしてくれって言ってるようなものだ。普通は盗賊一択だよ」
整備されていないゴツゴツとした道を平然と駆け抜けながら、相手を挑発するようにアドバイスをする標的の男。それが俺だ。
「アドバイスは真摯に受け止めるよ。このマッチで勝ってからね。『ファイアボール』」
爽やかなイケメンが、持っていた木の杖を前に突き出してスキル名を唱える。
何もないところから突如として生まれた小さな火種が、徐々に塊となって一つのサッカーボール並みの球になっていく。
その発生までに掛かる三秒の演出。
それだけの時間が掛かれば、振り返ってバリアで展開するのは容易だ。
ガラスのように透明なバリアを背後に出して、身を守りつつ逃げ続ける。
相手が俺の挑発に乗るような相手で良かった。
冷静な相手程、出せる手札は少なくなり純粋な実力勝負になってしまって骨が折れる。
だけど、チームに一人でも冷静さを欠く人間がいれば、やりようはいくらでもある。
「クッソ、コイツ! 言わせておけば!」
「落ち着いて、見る限りここが行き止まり。彼は進める道はない。つまり、袋の鼠という訳だ」
「でもさ、あの子結構手慣れてる感じしない? なんか嫌な予感がするんだけど」
「黙れってば! アイツはキルポイントバトルにソロで挑んでるんだぜ? 舐めてるとしか思えねぇー。ぜってぇーに勝つ」
彼等が怒るのは俺がソロプレイヤーだから。
パーティープレイが推奨されているこのeスポーツ用ゲーム"EDEN"において、ソロプレイヤーは不利な要素が多い。
それこそ、ソロで勇者になるのは不可能と言われている程だ。
だけど、そのアドバンテージがあるのにも関わらず、モンスターのキルポイントが負けている状況。
プライドはズダボロに折られているに違いない。
それにしても困ったな。
背後が壁だからではなく、相手が弱い。
プレイヤーのフィジカル面はランキング帯相当だ。
だけど、肝心な思考力が乏しい。
統率がまともに取れる人間がいないように見える。
それに不可解な行動の裏に隠された意図を読み取ろうとしないのも改善した方が良い。
「そんなにイライラしないでくれよ、三下くん。喋る度に開く口からクサい匂いが漂う。ただでさえ、マップが洞窟みたいでどんよりとした気分なのに、余計不快だ」
「コロスッ!」
「おい、待て! 一人で動くと───」
特に頭に血が昇りやすい戦士の男が真っ先に動く。
「それじゃあ、ソロと変わらないねぇ」
俺を捕まえるまであと少しの距離。
地面を踏み込んだ瞬間、大きな崩落音と共に地面に穴が空く。
重い鎧と狭い空間に不釣り合いな大剣。
総重量はかなりあるのだろう。
抵抗する暇もなく、真っ逆様だ。
「あれ、君達のパーティーのリーダー? 可哀想だね。盗賊が使えるスキルに『落とし穴』があることくらい教えておいた方がいいよ。ポイント、10Pだから結構みんな覚えてるのに」
「余計なお世話だよ。確かに彼は喧嘩早いけれど、悪い奴じゃないんだ。大丈夫か、アツト」
「大丈夫な訳ないよ。下は大量の毒沼だからね。今頃、ジワジワとダメージ喰らっているよ」
落とし穴を二回分の深い穴。
そこから這い上がることは不可能だ。
武器は捨てられても、防具は着脱不可だからな。
つまりは、これで二対一。
数的有利は大分薄まった。
勝率は大分跳ね上がったと思って良い。
「でもさ、でもさ。あの子のいる場所が行き止まりなのは、変わらなくない? 落とし穴も見えたんだし、スズヤは魔法使いで遠距離なんだからこっちが有利じゃん」
「え、あぁ、そうだよね。偶に鋭いこと言うね、ヒメは。やっぱり、アツトよりヒメをリーダーにするべきだったかな? まぁ、それよりも、『ファイアボール』」
間を隔てる落とし穴によって、俺が四方八方逃げ場なしだと思っているみたいだ。
安全に距離を取って、チクチクと魔法攻撃を飛ばしてくる。
一人離脱した状況にしては、冷静に考えたみたいだな。
俺が奥の手であの落とし穴を置いたのであれば、あるいは考えも無しに追い込まれたのなら勝ち目も見えただろう。
何度も言うが、人の行動にある意図を読み取るべきだ。
勇者でなくとも、このランキング帯はみんな行動に意味を持たせる。
攻撃にも、防御にも、逃げにも。
ずっとバリアを張って守っているのだから、なにかを狙っていると察せない時点で負けは決まっていた。
「ねぇ、なんか音が聞こえない?」
「気のせいじゃないかな。それより、彼しぶといね。そろそろ俺のMPが切れそうだ、回復しないと」
「ねぇ、やっぱり変だよ。音、大きくなってる」
「そうかな? んー、言われてみると確かに。それと地鳴りみたいな揺れも」
魔法使いが目の上に手を当てて、背後をよく観察してみる。
「なっ!? あれ、モンスターだよ! どうすんの!」
「前に逃げるしかないよ!」
「無理だって! 前は毒いっぱいの落とし穴じゃんか!」
俺が逃げ場を無くしたのは、彼等をこの場に誘き寄せる為。
そして、誘き寄せたのは彼等だけではない。
このゲームモードは、キルポイントバトル。
プレイヤー以外にもモンスターが存在している。
そのモンスターをここへ誘き寄せた訳だ。
「チェックメイトだね」
[GAME SET winner 雨神パーティー]
勝利画面が出た途端、光の粒子となって身体が消えていく。
擬似体はゲーム終了後に消滅。
その後、擬似体に共有されていた五感を戻す。
最初は、別の惑星に五感が飛ばされるという理解に苦しむ現象に戸惑ったけれど、今ではすっかり慣れた。
バリアや魔法をリアルタイムに反映させるホログラムも、フィールドや武器、防具を一瞬で作り上げる高精度即時作成粒子も全てこのエデンをプレイしていれば日常のごく一部となる。
目が覚めると自室のベッドに戻って来ていた。
フカフカの感触が疲れた体を癒す。
このまま蕩けて眠ってしまいそうだ。
でも、その前にランキングを確認したいから、転送装置であるヘッドギアを脱ぎ、ホログラムPCの画面を見る。
[キルポイントバトル 世界ランキング 雨神パーティー 順位6050位(1位昇格)]
「結構上がって来たな」
ゲーム人口は五億人を超えるこのゲームにおいての、6000位台はかなりの高順位だ。
だけど、先月くらいから順位が伸び悩んでいる。
はっきりと言ってソロの限界はこの辺なのかも知れない。
俺より上は軒並みパーティーを組んでいるからな。
勇者になるためには順位が5000位を基準だと言われている。
それだけ聞くとかなり勇者入りも近いように思えるが、基準となる5000位は、ゲームモード別ではなく総合の話。
全然、足元にも及ばないって訳だ。
「でも、ここまで来たらやっぱりソロで勇者になりたいよな!」
燃えた想いを胸に天井へ向けて拳を突き出す。
──雨神人利、高校入学前の出来事。
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