019話 上級生との初勝負
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水分補給と称して席を外したのは、相手の実力を調べたいから。
学校側が提供している学生名簿アプリ。
それを使えば、基本情報とエデンのプロフィールへのリンクが載せられている。
プロフィールを使えば、過去の対戦記録など色々と調べられる。
学生名簿も名前が分からないと検索が出来ないのが難点で、虎バット先輩は名乗っていないが、表札に名前が載っていた。
『富岡九』
とフリックで素早く入力を済ませる。
検索ボタンを押すと画面の読み込みが始まった。
数回の瞬きを挟んだ後に読み込みが完了。
ピンポイントに検索を掛けたので、検索結果は一件のみ。
いちいち探す手間が省けて有難い。
「おい、まだか? 飲み物飲むのにそんな時間掛かんねぇーだろ? いそげー、後輩ー!」
「まぁまぁ、そんな急がなくても逃げませんから」
今か今かと待ちきれない虎バット先輩の声が聞こえてきた。
近くにいないのは分かっていても、勘繰られているかと焦る。
必要最低限の情報を頭に叩き込み、携帯の電源を落とす。
「おせーな、全く。 まさか、アタシ見て発情したんじゃねーよな?」
待ちきれなくなった富岡先輩が、わざわざキッチンまで様子を窺いに来る。
「丁度、飲み終わったんで行くところでしたよ」
携帯をポケットに仕舞ったタイミング。
手を突っ込んでいるのを先輩に見られた。
何かを隠しているのがバレたかも知れない。
訝しんだ様子でこちらを凝視する。
誤魔化すように、中の入っていない紙コップを手に取り、ゴミ箱を探す。
その間も視線はこちらに向いたまま。
何も言ってこないのが不気味でならない。
ずっと圧を感じながらも辺りをキョロキョロしていると、背後にゴミ箱を発見。
燃えるゴミのラベルが貼られていることを確認して、紙コップを捨てた。
「よしっ、これで水分補給も終わったな」
首をがっしりとホールドされてしまう。
あの視線は早く終わらせろということだったのか。
変に言い訳をして、口を滑らせなくて本当に良かった。
「あの……当たってますよ。何がとは言いませんけど」
もっちりとした感覚が頭部から伝わってくる。
なるべく意識はしないようにと心掛けてはいるものの、この体勢では否が応でも頭に意識が持っていかれてしまう。
俺だって歳相応の男の子だ。
仕方ないことだってある。
せいぜい出来ることといえば、気にしていない振りをしながら紳士の顔をして教えてあげることくらい。
「あはは! んだよ! 聞いてたら話と違って普通の男みてぇーなこと言うな! 今回の勝負はアタシのワガママだから、これはその対価だ。ウリウリッ、どうだ? 結構、柔らかいだろ?」
「後輩捕まえて何やってるんですか、貴方は」
「嬉しい癖によー。おら、そのまま移動すんぞ」
頭の向きが固定されたままの移動。
どこに向かっているのかも分からず、床を眺める時間が続く。
歩き辛くて仕方ないけれど、文句は言わない。
良い思いはさせてもらっているからね。
リビングを出て間も無く、虎バット先輩が立ち止まった。
同時にヘッドロックも解除。
俺の一時の幸福もここまでらしい。
時間にして一分足らず。
疲れた体に鞭打っての勝負の対価としては、少し物足りなさを覚える。
かと言って、おねだりするのも下心丸出しで品がない。
ここは気持ちを切り替えて、ソロプレイヤーとしての雨神に戻ることにしよう。
「さぁ、入れよ。エデンプレイヤーとしては必要不可欠な部屋、バトルルームだ」
案内されて入ると、四つの簡易的なベッドとエデンをプレイするためのヘッドギアが置かれた、質素な部屋が俺を迎え入れた。
エデンをプレイするなら、必要最低限の物は揃っているので文句はない。
文句はないけれど、学校のバトルルームと比べると見劣りしてしまうのが正直な感想だ。
備え付けられたパソコンも型が古いのが見て分かるし、観戦用のスクリーンもない。
これだったら、学校に入り浸ってエデンのランクに潜る方が快適にプレイ出来そうだ。
「っしゃぁー、気合い入れっか」
「お手柔らかにお願いします」
「そんなの必要ねぇーだろ。お前は遥かに強いって噂なんだからよ」
それだけを言い残して、ベッドへと寝転んで一足先にヘッドギアを付ける富岡先輩。
取り残されてしまった俺は、ルールの詳細など諸々の設定を全てやらなければならない。
ランクマッチに潜ってばかりなので、カスタム作成には慣れていないというのに。
昔、何回か触った曖昧な記憶を頼りに弄るしかない。
触り始めて五分で、苦戦を強いられながらもなんとか全ての設定を完了。
富岡先輩が寝ている隣のベッドへと入り、ベッドギアを装着。
これでようやく勝負が始まる。
初となる上級生相手の戦闘に気持ちが昂る。
神場高校の教育が少なからず反映されているはずだ。
あっさり負けるようなことがあれば、プロ輩出を謳った神場の程度が知れる。
「楽しませてくださいね、先輩」
[GAME START RULE:VS MAP:アリーナ]
転送されたのは、何の変哲もない闘技場。
青空の下、ポツンと円形のフィールドがある。
これは他のルールには存在しないVSのみの特殊マップ。
地形を活かすプレイよりも、単純な戦闘スキルが試される。
プレイするならバトロワ、見るならVSと言われる程に見応えのあるルールだ。
フィールド自体もかなり狭く、初期位置に配置された時点で相手が見えてしまう。
対戦開始まで体の自由は効かないけれど、得られる情報は多い。
富岡先輩の職業は下調べ通りの拳闘士。
喧嘩早い性格にあった自分から勝負を仕掛けるスタイルが予測される。
対して、俺は侍。
彼女とは正反対のカウンターを得意とする。
勝負は一瞬で決まるだろう。
両者の目の前に現れるカウントダウン。
カウントがゼロに近付くに連れて、集中力が増していくのが分かる。
残り三秒。ここからは自身で数える。
ゼロになったのを確認してからでは遅い。
ジャストで動き出すのが勝つ為の定石だ。
スタートの合図が出た。
同時に二人とも体の硬直が解け、二匹の獣が解き放たれる。
「楽しませろよ! 雨神!」
「こちらのセリフですよ、富岡先輩!」
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