018話 横暴な凶暴
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虎バット先輩が思い切りバットを振りかざし、何の躊躇いもなく俺と横の狂信者の間を切り裂こうとする。
エデンというゲームに慣れてしまっている影響で、攻撃を見ると驚きよりも先に体が動いた。
反射速度は擬似体に劣るものの、動体視力はそれなりにある。
なんとか彼女のバットが当たる前に避けることに成功する。
「流石に危ないですよ。 可愛い後輩が死んでも良いんですか?」
「あ? デュオプレイヤーなんてのはな、ソロになれなかった意気地無しなんだよ! 可愛くもなんともねー。お前らの顔はよ〜〜く覚えたからな。次、カップルで顔見せようもんなら、マジでぶっ叩いてやんぞ!」
この先輩、絶対勘違いしている。
寮の前で冷やかしに来た新入生だとでも思っているのだろう。
パーティー決めは今日行われたばかりなので、上級生はどこに誰が割り振られたか把握していないのは考えられる。
まぁ、それでも殴りかかるのは問題なのに変わりないけど。
「あの……勘違いですから」
「はぁ? 勘違い?」
「はい、勘違いです」
「でも、横の奴はさっきから嬉しそうに体くねらせてるじゃねーかよ」
「これは発作なので気にしないでください」
俺が真剣な顔で否定すると、三秒間フリーズした後に目をパチクリと動かす。
「挨拶が遅れてしまい申し訳ございません。今日からこの寮でお世話になります。一年一組の雨神人利です」
「同じく、この寮でお世話になります。一年四組の紺野芽愛です」
「あ、そういう名前だったんだ」
「えっ!? 私の名前ご存知無かったんですか!?」
「名乗ってないからね、君」
「私としたことがぁぁぁーーーー!!! 生雨神様に興奮して、名乗ることさえ忘れてしまってました!」
地面へと倒れ込んでいく紺野。
顔を伏せながら肩を震わせて悲壮感を演出する。
俺が何も事情を知らなければ、大丈夫かと心配して一言でも声を掛けたのに。
今ではすっかりその気が起きない。
「んだよ、そーか! そーか! お前が雨神か! 噂には聞いてるぜ!」
豪快な笑い声を出しながら、力強く肩を叩く虎バット先輩。
肌が真っ赤になっていると確信するくらい、ヒリヒリと痛む。
「良くない噂だったと思うのに歓迎されるとは意外ですね」
「アタシはそいつの善悪に興味ねぇーんだよ。強いか弱いか。人間はその二種類しかいねぇー。お前はめっちゃ強くて、しかも、ソロプレイヤー。こんなに唆る話が他にあるかよ。なんなら、今から手合わせしようぜ。噂が本当か確かめてーんだよ」
俺の周りには狂った奴しかいないのか。
出会って五分でバトルとか、どれだけ戦うことが好きなんだよ。
「あ、あははー。俺、この後、荷解きがあるので」
「あ? そんなのアタシが手伝ってやるから。ほら、さっさと準備すんぞ」
この日の為にクリーニングに出したブレザーの襟を乱雑に掴んで、寮の中へと連行しようとする。
抵抗しようにも暴れて怪我を負わせたら大問題。
寮にはとりあえず入って、プレイ自体を断ろう。
ヘッドギア無理矢理装着させても、プレイの参加を強制するのは不可能なので、拒否すればそこまでだ。
「ちょっと待ってもらってもよろしいですか? どこの誰を捕まえて勝負を挑もうとしているのか、分かってますか? 先輩」
紺野が俺を引き摺る先輩の腕を掴む。
「なんだいきなり。その手、離せや」
「雨神様はお疲れなので、勝負はまた後日にしていただけませんか?」
「手、離せって言ってんのが聞こえねーのか?」
俺を挟んで飛び交う火花。
穏便に済ませようとした結果、事態が悪化するという最悪の結末を迎えつつある。
ここから巻き返しを図る方法は一つ。
渦中の人物である俺が仲裁をすればいい。
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。俺が犠牲になって、ひと勝負受けますから」
「おっ、話の分かる後輩じゃねーか」
「ただし、条件付きです。手短に済ませる為にルールを少し変えましょう。先にHPが削れた方が負けとします」
「一発勝負ってことか。おもしれーじゃんかよ」
「雨神様がよろしいのであれば……」
紺野の方は納得していなさそうだ。
こちらを気遣っての発言を無碍にされてしまったのだから、そうなるのも頷ける。
「ありがとうね、紺野さん」
頭に軽く手を置いて、一応感謝を述べておく。
スキンシップは彼女にとって過剰なファンサービスだったかも、と反省するも時すでに遅し。
さっきの会話を全て忘れて、また妄想の世界へランデブー。
地面に寝転がってピクピク痙攣しているのを見なかったことにして、寮へと上がり込んだ。
「へぇー、外はボロボロなのに、中は綺麗だ」
新築と変わらないくらい新しく、清掃の行き届いた玄関が俺を出迎える。
外とのギャップに面食らっていると、何故か虎バット先輩が得意気に答えた。
「あれはな、フェイクだよ、フェイク。ソロプレイヤーは例外無く腫れ物の集まりだからな。みんなと同じ寮を造れば、文句ばかり言われるんだと。それで外観だけは、ボロくしてヘイトを分散させんだよ。安息の地まで小言言われちゃ休まるもんも休まらないからな」
「これは先輩が?」
「まさか。もっと上の先輩達がやったらしいぜ? アタシが入学した頃には他に人がいない貸切状態だったから、ここの管理してる人から聞いた話だけど」
そのままリビングへと案内される。
寮ならではの広々とした空間に、大人数が寛げる大きめの家具の数々。
そして、何より目に入るのはテレビだ。
実家の六十インチのテレビよりも圧倒的に大きい。
メジャーで正確に測った訳ではないけど、ぱっと見で百インチ以上はありそう。
「おいっ、部屋見るのなんていつでも出来んだろ。さっさと始めようぜ」
「逸る気持ちは分かるんですけど、ちょっと喉が渇いたんで飲み物飲んでも良いですか? コンディションが悪い状態で戦っても、言い訳にされて面倒でしょ?」
「ったくよぉー、さっさとしろよ? 飲み物は勝手に冷蔵庫から取って良いぞ。コップは、まだ無いだろうから収納ラックにある紙コップを使ってくれ」
「丁寧な説明ありがとうございます。それじゃあ、ちょっと失礼します」
キッチンに向かい、冷蔵庫を開ける。
中には大量のエナジードリンクと定番のソフトドリンクが置かれていた。
ソフトドリンクは誰かが買い足しているもので、エナジードリンクのチョイスはあの先輩だろう。
気分的にはエナジードリンクを飲みたかったが、万が一のことも考えて無難にお茶を紙コップに注ぐ。
渇いた喉を潤す為にもお茶を口に含む。
キッチンから見えるリビング。
ソファーで寛いでいる虎バット先輩を気にしながら、俺は携帯を開いた。
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