014話 その時、笑った
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白女と見つめ合う。
彼女は信じられないものを見る目でこちらを見ていた。
彼女の視点で考えれば、アツトと俺は会話をしている様子から、パーティーでないにしろ仲間だと思っていたはず。
アツトは共闘に否定的であったが、俺が助けに入ったことは事実。
一対二の構図で戦うことも念頭に入れていたに違いない。
実際、その作戦も考えた。
白女は初めて戦う相手だ。
人数差のある状況を作り出して楽に勝てれば、その方が後のゲームにも余裕を持って挑める。
ただし、この作戦には大きな欠点が存在した。
楽に勝てる保証がどこにもないということだ。
アツトは周りに合わせて動くタイプではない。
どちらかと言えば、自分が率先して動いて、周りが俺について来いという人間だ。
俺もソロプレイヤー歴が長くなって来た分、人との連携には疎い。
二人で協力する方が勝率を下げると判断した。
「彼氏が先にダウンしたのは残念だったね。でも、プレイしてれば、そんなことザラにあるんじゃないの?」
「……話し掛けないで」
黒男がいた時と違ってテンションが明らかに低い。
「なら、さっさと終わらせた方が良いんじゃない? 俺は逃げも隠れもしないんだから、いつでもお好きなタイミングで攻めて来なよ」
「ダーリンが言ってた。雨神がよく喋る時は、大きく分けて三つ。揺さぶり、探り、或いは焦り。……今回の場合は、探りでしょ?」
「中々に面白い。君の彼氏は推理オタクかなんか? でも、ちょっと残念だね。誰にでも当てはまることしか言わないみたいだ。もっと核心をついたことを言わないと、俺は動揺はしないよ」
「焦り」
ダーリンこと黒男の分析は当たっていた。
大体の人に当てはまるとは言ったが、自覚している感情と僅かなズレもない。
特に前二つは試合中意識して使い分けている。
それが自身の武器の一つでもあるから。
さっきまであんなに取り乱していたのに、急に冷静さを取り戻したのも黒男の入れ知恵なのか。
もしかすると、一対一になる状況まで見越して。
考え過ぎとも言えないのが恐ろしい。
スズヤからの被弾でダウンしたのも、白女の隠れた実力を発揮させる為。
そうなのではないだろうか。
この試合が終わった後、一度話してみたいところだ。
「彼氏は相当な切れ者なのかもね。上手く君を調教してるみたいだ。付き合ってる理由もエデンの為だったりしてね。君みたいに身体能力が優れたプレイヤーは誰だって欲しいから」
「黙れ」
「いやいや、褒めてるんだよ。君はフィジカルで、彼がロジック。相性は最高じゃないか。そのダーリン、ハニー呼びはどっちが提案したの? 中々、独特なセンスだと思うんだけど」
「……ごめん、約束守れないかも。コイツ、コロスッ!」
「すぐに乱暴な言葉を使うんだね、彼氏も大変だろうな、君の相手するの」
頭に血が上った白女はこれ以上の会話を拒み、襲い掛かってくる。
「STR4の、バリア、落とし穴は確定。後は奥の手で隠している残像かサウザンドナイフだろうね」
今までの戦闘でおおよそスキルポイントの割り振りには検討がついている。
盗賊では絶対に出せないあのパワーと、全く使用してこないスキルから考えれば、この予想が妥当だ。
勿論当たっていなかった場合も考慮して、カバー出来るようには動くけれど、彼女の一瞬動いた眉が真実だと物語っている。
「分かったところでどうにもならないでしょ!」
白女の持つ盗賊初期装備の短剣が、俺の頬を掠める。
ジリジリと溢れる光の粒子。
ヒリヒリとした軽い痛み。
それに合わせて減少するHP。
完全に後手に回ってしまったのは言うまでもない。
「死ね! 雨神!!! 『落とし穴』!」
足元の地面が急に姿を消す。
これはさっきアツトにも見せていた落とし穴の応用。
盗賊の軽快な動きに合わせて、相手へ不利な状況を押し付けるのは正しい選択だ。
ただの攻撃では追い詰めることができないと判断して、スキルも織り交ぜてくるのも戦い慣れている証拠。
ダウンまで持っていけるのであれば、脱帽するしかない。
「『バリア』ってのは便利で良いね」
消えた地面の代わりに急遽生成したバリア。
足場にするのは心許ないけれど、咄嗟の対応にはこれだけで十分。
「しぶといッ!」
「近接戦闘は力押しだけじゃ勝てないよ?」
「うるさいのよ!」
落とし穴から脱出した瞬間を狙って来た白女。
攻撃の癖は完全に見切っている。
複雑に見える攻撃パターンも全て最終的に一撃ポイントを狙った布石。
心臓、頭部、首。ここを守れば、ダウンすることはない。
「さっさと終わらせたいのに……」
「いち早く君の彼氏に会いたい気持ちは分かるけど、今は試合に集中すべきなんじゃないかな?」
「いちいち癇に障ることばっか言う奴ね。これ以上、似たような攻防を続ける訳にはいかないし、バレバレの奥の手といくわ。『残像』」
予想は的中。
残されていたのは残像だった。
三人に分裂する白女。
どれか一人が本物であり、それ以外はAI操作のダミー。
見た目だけでは全く判断がつかない。
見分ける方向があるとすれば、
「『サウンド』」
適当な場所で大きめの音を鳴らす。
二人の白女が物音に反応して、視線を移す様子が見られた。
残る一人は全く気にする素振りも見せずに突っ込んでくる。
これがAIと人間の差。
奥の手が一瞬で水の泡となった白女は、苦虫を噛み潰したような顔でこちらを睨む。
AIの設定を弄っていれば、こんなことにならなかったのに。
今更、そんなことをアドバイスしても後の祭りだ。
「死ねぇーーー!!!」
魂の籠った怒声。
逆手に持った短剣を突き刺しに来る。
真正面から受けて立つと、華奢な体からは想像出来ない力が降り掛かった。
力み過ぎて震える腕が、このままだと押し切られてしまうことを悟らせる。
「……まずいな」
ぽろっと溢れた弱音に呼応するように、白女の勢いが増す。
もう完全に耐え切れなくなった。
力負けした結果、短剣ごと弾かれ無様な姿を晒す。
そして、すかさず追撃を仕掛ける白女。
咄嗟に首を守ろうとしたが、読みが外れた。
チクッとした痛みの後、切断された腕が無様に地へと落ちる。
「私の勝ち」
ニヤリと笑った───、
「これで白黒ついたみたいだね」
勝利を確信した俺が。
腰に隠していた拳銃を抜き取り、ガンマンさながらの早撃ちを決める。
零距離から放たれた銃弾は、バリアを張る時間すら与えず、心臓を貫いた。
長い戦いの末、白女ダウン。
[GAME SET winner 雨神パーティー]
他にもクラスメイトが残っていると思ったけれど、どうやら俺達が最後の生き残りだったようだ。
上位勢を倒せば、片腕を失った状態でも十分生き残れた。
しかし、早く試合が終わるに越したことはない。
結果は無事、勝利。
ソロプレイヤーながら、クラスメイトに畏怖の念を植え付けたことだろう。
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