010話 崩壊をもたらす門番
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サーチは万能で、基本的にどのパーティにも一人は入れている。
ただし、万能の裏に制約もある。
使用回数の制限。
一試合に使えるサーチの回数は、たったの五回。
既に二回使用済み。
残りの三回をどうやって上手く使うかが、このバトロワの勝利に大きく関わってくる。
エリアの最終制限に合わせて使いたいというのが一般的な考え方だ。
合理的で、みんなが強いムーブだと思っている。
そして、大抵のプレイヤーは既存の考え方を元に動く。
つまり、最終制限までリソースは抑えながら、自分達の安定した基盤を整える。
「なら、俺のやるべきことは一つ。相手の想定していない行動で惑わす。さてと、クラスメイト狩りを始めようか」
身に付けている手袋を引っ張り、密着度を上げる。
ズレないようにするのが表向きの理由だが、気合を入れ直す意味合いが強い。
ここからは俺対その他。
圧倒的不利な状況を覆す奇跡にも近いプレイングが必要となる。
神場のことは一旦忘れて、ゾーンに入らなければ。
残り三回しか使えないサーチを躊躇いもなく発動。
マップを見ると数分前と違うピンの数。
試合時間が無制限ではない都合上、たった少しの時間で戦況は大きく変動する。
ただ、これは異常事態だな。
想定よりも多くの人間がダウンしている。
もしくはアンチサーチの可能性もあるけれど、どちらにしたって気に掛ける必要がありそうだ。
「そろそろ行きますか」
状況の把握が完了。
軽くウォーミングアップをしてから走り出す。
ここから一気に試合を畳む為に。
───
戦士、僧侶、銃使い、魔法使いの四人組パーティーは焦っていた。
あと少しで次のエリア制限が始まる状況。
さっさと移動を始めてしまわないといけないのに、目の前に立ちはだかる障害があった。
エリア制限の手前で門番のように仁王立ちする雨神。
たった一人しかいないけれど、相手の力量を考えると迂闊には踏み込めない。
この状況を打破する為に、最初に考えつくのは奇襲作戦。
まだこちらの存在がバレていないはずなので、四人掛かりの奇襲を仕掛ければ簡単に倒せるのではないだろうかと。
「良いか、俺の合図で一斉に攻めるぞ。魔法使いと銃使いの射線は入るなよ。フレンドリーファイアがあるからな、エデンは」
「それは大丈夫デスよ。サンタさんはヘイトコントロール頑張ってくださいデス」
「エマリーちゃんの言う通りよ。戦士の立ち回りが作戦の肝なんだから。負けたらどうなるかは、……ふふっ、楽しみにしておいて」
「どんまい、三太。津曲は厳しいから、流石に僕はサムズアップしてあげるよ」
「やばい。女子が辛辣過ぎて、笹塚ルート入りそう」
相手が雨神であることの不安はあれど、心のどこかで慢心していた。
彼等は開始直後の戦いを目の当たりにした訳ではない。
どのくらいの実力なのかは噂程度に留まる。
きちんと戦略を立て、人数差を活かして優位に立ち回れば勝てない相手ではない。
そう考えるのが自然だった。
「ねぇ、君達。いつまで作戦会議してるの? 俺はそろそろ飽きてきたんだけど」
「いつの間に!」
「橋能がもたもたしてるから!」
上手く隠れていたつもりでも、会話している声が大き過ぎて居場所はバレていた。
特にここは静かな森の中、声量一つ気を遣わないと命取りになる。
組み立てのパーティー、学生の男女混合。
浮かれる気持ちも分からなくもないが、雨神はその甘えを許さない。
見せた隙は取りこぼさずに先制攻撃を仕掛ける。
「まずは面倒な僧侶から」
まだ戦闘態勢の整っていない状況。
真っ先に狙うはパーティーの継続戦闘力を高めるヒーラーの僧侶から。
「させるかよ! 『シールドバッシュ』!」
僧侶はパーティーの生命線であると理解している戦士。
盾を構えながら体を張って守りに来る。
考え方は正しい。
戦士は基本的に体力が多く、一撃ポイントさえ守れたら僧侶の回復で無敵と化す。
僧侶と戦士の組み合わせが多いのもその為だ。
戦車のように重い盾の突進が、雨神の擬似体とぶつかる。
ノックバック効果で吹き飛ばされた。
牽制程度になればと適当に使用したスキルがまさか当たるとは。
使用者本人である戦士も驚いた表情を見せる。
あの程度のスキルが当たるのであれば、勝てるかも知れない。
この場にいる全員がそう思った。
噂は噂に過ぎず、実際は大した実力ではなかったのだと結論付ける。
「ノックバック中は静止判定なんだよね。だから、ワープの条件も満たしてるってこと」
突如、雨神が姿を消す。
戦士は慌てて後ろを振り向く。
予想通り、雨神のワープ先は背後だった。
一撃ポイントを狙われないようにと、盾を構える。
一連の動作は、ランク戦で散々仕込まれたテクニック。
簡単には倒されたくないという意地があった。
「死なない立ち回りか。君、そこそこ強いね。なら、腕は貰うよ」
盾のせいで制限された視界。
剣を握った右腕が飛ぶのが目に入る。
一瞬、その腕が誰の物であるか理解出来なかった。
数秒間の沈黙の末、ようやくその腕が自分の腕であることを認識する。
「ヒールくれ! 腕持って行かれた!」
「エマリー、ヒールは良いわ。彼には悪いけど、そのまま貫く。『火力補正』『三点バースト』ッ!」
味方に向けて発砲する度胸。
次の攻撃を見越して、フルオートではなく三点バーストで無駄撃ちを減らす冷静さ。
火力補正で三点バーストの火力不足を補うのも賢い選択と言える。
戦士を貫通した弾は威力が弱まったものの雨神の下へと襲い掛かる。
空気で伝わる緊張感。
博打に出た銃使いは、ここで雨神が倒れてくれと願うばかり。
しかし、願いは届かず。
動体視力だけでは捉えきれない速さの弾丸を、まるで当たり前のように短剣で捌き切る雨神。
発砲音が止んだ頃、地面には真っ二つに割れた弾丸が転がっていた。
「発想は悪くないね。思わず俺もサービスしちゃったよ。中々すごかったでしょ? 俺の剣捌きは」
「何食べたら、あの弾を斬ろうって発想になるのよ」
「そんなに難しくないよ、さっきのは。リズムゲーみたいなものだし、コツを掴めばタタンと」
「絶対参考にならないアドバイスどうも。じゃあ、死んでちょうだい! 『火力補正』!」
今度はフルオートで、弾丸の雨を浴びせる。
「加勢するよ! 火、槍成りて、万事灰にせんと、加速せよ。『ファイアランス』!」
成す術無く立ち尽くしていた魔法使いも、ここが加勢するタイミングだと悟り、援護射撃に入る。
左右からの挟撃。
いくら雨神でも、対処は難しいと考えたのだろう。
「集中攻撃。悪くない選択肢だけど……『バリア』」
近くに転がっている戦士の擬似体から、盾を奪い取る。
火力補正の乗った弾丸を盾で防ぎ、ファイアランスをバリアで去なす。
雨神が防戦一方にも思えるけれど、彼には傷すら付けられない。
絶えず鳴り響く盾が銃弾を弾く音と、後ろから迫り来るエリア制限が、募る焦りと苛立ちを助長させる。
それでも、魔法使いは淡々と攻撃を続けていた。
攻撃を続ける限り、雨神は反撃出来ないと理解していたから。
しかも、エリア制限を免れる為に移動している他のパーティーと遭遇すれば、真っ先にやられるのは言うまでもなく雨神だ。
攻撃を止める選択肢はない。
「このままじゃ、埒が開かないわね。こうなったら、仕掛けるしかないわ」
思考の違いが味方との連携ミスを生み出す。
自身の実力を信じてやまない銃使いは、アサルトライフルでの攻撃を止め、二丁拳銃を取り出し近距離戦を仕掛け始めた。
崩れる挟撃の均衡。
戦況は混乱へと陥る。
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