18話「強き者、弱き者②」
「皆さんっ、そのまま動かないでくださいね!」
エルが汗を流しながらリン達を治療していく。
3人とも四肢を失ったわけではないからまだ治療可能な範囲の怪我だが、それでも熱傷が酷い。
「神よ、どうか、どうか、私に力をお貸しください……!」
祈りながらもトゥーラを押さえ込んでくれているチカとシータを見る。
やはり苦戦している。しないわけが無い。
初めて見るタイプの力、しかも爆発するタイミングもそのカラクリが分からない。
そんな状態であの二人はよく保ってくれていた。
シータの硬化の力がなければ、今頃あの二人もリン達のように倒れ伏していただろう。
チカが魔法で隠し、シータが自身を硬化させて特攻し、爆発を防ぐ。
タイミングを見てトゥーラに一撃を加えるのだが、
「あは、あはは!そんな攻撃で僕を殺せると思うとるん?ほぉらっ!」
「ワギャッ!」
「くっ、バカ狸!お前、目が良いんだろう?!何か見えないのか!!」
「見えたら言ってるに決まってンだろ!?」
トゥーラは怯むことなく進んで来る。
心做しか爆発の回数が増えたような、そんな気がした。
トゥーラが手を振るう。
その動作だけで爆発が起こる。
それに、どう対処しろというのだろうか。
リン達には遠距離攻撃の手段がない。
ああ、あの皇帝がいれば、などと思いたくもないが、頭に浮かんだ。
あの魔砲という武器ならば、あるいは。
治癒を続けながらもエルはそう思っていた。
ヒヨドルとの戦闘後、様々な出会いを経て、リン達は強くなっていると、エルは知っている。
それなのに、こんな一方的に蹂躙されるだなんて。
どうすれば、
「エル、さん」
「リンさん!お、起きてはダメです!まだ完全には……」
「ちょっと皮が引き攣ってるだけなんで、大丈夫です」
リンはへらりと笑った。
顔から喉元にかけて治りかけの火傷の痕が見える。
リンは今話すだけで、首を動かすだけで痛みが走るだろうに、鋭い目つきでトゥーラを見つめていた。
レイピアを握り、歩き出す。
「リンさ、」
「聖女よ。妾達ももう良い、問題ない」
「ん……へいき…そこで見てて」
「あ、貴方達も?!早まらないでください!死ぬ気ですか?!」
トゥーラの方へと歩き出す三人の背中に、エルは思わず叫んだ。
手を伸ばしたエルを見て、三人は一様に困ったような、でもどこか誇らしげな顔をする。
「妾の民を殺し、村を破壊している輩を殺せるのであれば、死んでも構わんさ」
「かみさまと…どこまでも一緒…」
「そん、な、」
恐怖など感じていないよう顔の二人に、エルは息を飲む。
そして、戻ってきたリンはエルの手を握り、顔を上げてしっかりと目を合わせる。
普段は俯いてばっかりだというのに、今日だけはエルの目をしっかり見ていた。
「俺は、貴方にとって誇れる勇者でありたいんです。だから……。
必ず生きて戻ってきます。戻ったらあの時の返事をするので、どうか待っててください」
「待っ、」
そう言ってリンはトゥーラの方へと駆け出した。
頬を濡らすエルの方を振り返ることなく。
◇◆◇
「いやぁ、聖女ちゃんおるとゾンビ戦法されるから早めに潰しときたいんやけどなぁ」
シータとチカの攻撃を捌きつつ、困ったように笑うトゥーラ。
タイミングの分からない爆発は、少しずつ、でも着実にシータとチカの体力を奪っていた。
「ゾンビ戦法っ!て、なンだよっ!」
短剣をトゥーラに向けて振るうが、ひょいっと避けられてしまう。
「ん~……」
チカの言葉にトゥーラは眉をひそめたが、すぐにいつもの軽薄そうな笑みへと戻す。
血を身体の至るところから流しているというのに、微塵も苦痛を感じさせないその表情に、チカ達二人も寒気を感じていた。
「簡単に言うとなぁ、殺しても殺しても死なへんで、戦いに戻ってくることや。まぁ、聖女ちゃんのは聖女ちゃん自身を殺すか、君達みたいなんを一撃で殺すかすれば戻ってこんけどね」
「まるで聖女様以外の治癒の力を持つ存在を知っていそうな言い方だなっ!」
シータが戦斧を切り上げる。
その一撃はトゥーラの胴体を掠めたが、その瞬間にまたも爆発がシータを襲った。
「ほんと、その防御の力厄介やね。面倒やわぁ。まぁでも楽しいし、よか」
一瞬、愉悦を瞳に滲ませ身体を硬化させているシータに向き直る。
「治癒の力が聖女だけの特権思ったらあかんで。竜にも、魔族にもそういう能力持ちはおんねん。
しかもただでさえ強いんに殺した瞬間に即蘇生、即再生。あんな能力相手にどう勝てっちゅうねんって感じやわぁ」
呆れたように肩をすくめるトゥーラだっただが、
「まぁ、いつか絶対殺したるけど」
その一言と共に滲み出た殺気に、チカとシータは身動きが取れなくなった。
しかしその二人とは対照的に、トゥーラへと向かう黒い姿が一つあった。
「美しき黒夜に輝く白き月」
レイピアを手に、トゥーラの懐へと入り込み袈裟斬りする。
「優しく照らす傲慢さを忘れずにあれ」
「あ、っは、!」
そしてそのまま下ろした剣を上に切り上げる。
それはオリエントに居たという剣豪の技とよく似ていた。
しかし、切り上げトゥーラが血をまたも吹き出させたと同時に盛大に爆発が起こる。
今までで一番の範囲と威力。
「そして今一度世界の時を止めてみせよォッ!」
詠唱を終えると同時にリンの身体が黒く染まる。
身体に鱗を浮き出させ、両目が爬虫類のような瞳孔になる。
動きのキレが上がり、切り上げた瞬間に起こった爆発さえも切り裂き、トゥーラを地面へと叩きつけた。
そのまま頭を踏みにじり、起き上がらないようにする。
「あは、あははは。詠唱知っとんの?!最高やん!あはは、誰もそんなん教えてくれんかったちゃけど!酷いわぁほんまに」
「笑っていられるのも今のうちですよ」
というか、首筋に剣を向けられて、頭を踏みつけられてどうして笑っていられるのだろう。
そんな疑問がリンの頭に浮かぶ。
そんな風に考えている間にも目に見えぬ糸がトゥーラの四肢を地面に縫い付け、更に身動きを取れないようにしていく。
先程の攻撃を警戒してか、アラーニェ達は少し遠い位置からこちらを見ていた。
「なぁ、君」
「……なんですか」
「自分以外に詠唱、聞いたことないやろ」
「……」
詠唱という言葉自体をリンは知らない。
だが、今の状況的に先程リンが言った文章がその詠唱というものなのだろうとは分かる。
少し顔をしかめたリンに、トゥーラは笑う。
もし四肢が縫い付けられてなかったら腹を抱えていたであろうくらいに。
「詠唱ってのは、勇者だけの特権ちゃうんやで?」
その言葉にリンも頭から冷水を浴びせられたような感覚がした。
「っ、みんなもっと離れろ!」
珍しく声を荒げ、すぐにトゥーラから離れる。
詠唱で更に強化された身体能力は凄まじく、一度の跳躍で大幅に飛び退くことが出来た。
そのままチカとシータを抱え、全員で奥へ奥へと駆け出す。
しかし、リンが離れた瞬間から、トゥーラの口から歌うような言葉が紡がれ始めていた。
「燃えよ、壊れよ、慈しめよ。熱よ、熱よ、どうかほら破滅を。音や光や熱さや、我が身を壊し、我が身で壊し、我が身を持って破滅の意思を示せ。ほおら、今も耳元で破滅の音が聞こえるぞ」




