再会
渡津が拳銃を発泡するのと同時に、私は走り出す。
弾丸は私の頬の横を通り抜けていった。
「嘘っ!?」
予想外の事態に驚く渡津の顔面へ回転蹴りを叩き込む。
彼女は体を逸らして避けようとするが僅かに間に合わず、額を擦った。
そのままの体制で、私へ向かって無理矢理に発泡する。
弾丸は私の髪を貫通して後方へ抜けていった。
「なんっ」
体勢が崩れている渡津の鳩尾に膝を打ち込む。
「知ってるでしょ」
そのまま体重をかけて渡津を後ろへ押し倒す。
「はぁ……はぁ……」
私の下で、渡津の胸が彼女の荒い息と共に上下する。
私が突然、彼女を圧倒したのは彼女の超能力が無効化されたからだ。
これは、二条銀次の超能力だ。
超能力を発動した彼は歩くRAの様な存在だ。
渡津の超能力は応用の幅も広くて非常に強力だけど、hm値が極端に低いという性質を持つ。
彼女の超能力がマルガレーテの天敵である様に、二条銀次の超能力は渡津の天敵と言って良い。
「なんでですか……パイセン」
ぐったりと地面へ仰向けに倒れた渡津が光を反射しない瞳に大粒の涙を蓄えて無表情に夜空へ問いかける。
「……」
渡津の言葉に私が答えて良いのか分からない。
超能力は、その人のこれまでの人生や経験によって、千差万別に変化する。
だから人は一種類の超能力しか使うことができない。
それ故に……超能力によって二条銀次の人生、人格の全て取り込んだ私には……彼の超能力が使えた。
これは私の中にいる二条銀次が、私の味方をしてくれたって事だ。
渡津もその事が分かっている。
だから、こんな表情をしているんだ。
「私はね、尊敬してたんすよ? なんで、なんで……死んじゃったんすか? なんで、変わっちゃったんですか?」
渡津の悲痛な思いが、超能力を通して私にも流れ込んでくる。
監獄生活の中でも、二条銀次の存在は彼女の支えになっていた。
私の中の二条銀次が、渡津との話したいと訴えかけてくる。
「目の前に……理不尽に殺されそうなっている子供がいたら、助けたくなっちゃうだろ?」
俺の言葉に、渡津は少しだけ頬を上げて笑った。
頬の動きに合わせて、彼女の涙がポロポロと溢れる。
「それは、先輩らしいですね。いつまでもそんな純粋な気持ちを失わない先輩は、ちょっとカッコよかったっす」
「俺はお前が思っているより、ずっと不真面目なエージェントだったんだよ。お前は言動から誤解されがちだが……誰よりも真っ直ぐで、真剣にこの国の事だけを思っていた」
渡津が俺の肩を下から小突く。
「先輩だけだったんです。この国の現状について、皆が本心では諦めてる中、先輩だけが……私の思いを理解してくれましたよね」
俺の肩を叩く渡津の力が徐々に強くなっていく。
「なのに、なのに! どうして!!」
「渡津、お前の思いは何も間違ってはいない。お前みたいな人間は、この国に残った最後の希望だと思う。だけど……今は理想だけを目指しても、殆どの人間が付いてこられない」
「……アリスちゃんと、同じ様な事を言うんっすね」
渡津は拗ねた様に視線を逸らした。
「ごめんな」
「いいっす。納得はできないっすけど、理解はしたっす」
俺は渡津の頭を優しく撫でた。
「もうっ。先輩って結構エゴイストでサディストっすよね」
返す言葉もなかった。
これからも渡津は理想と現実の違いに苦しみ続ける事を、俺は彼女に望んでいるのだから。
あの後、渡津を拘束してマルガレーテお姉ちゃんの手当を行った私たちは今、明治神宮の橋の上にいる。
この橋の下にある地下室が、私のもう一人の姉、エーファお姉ちゃんの潜伏先らしい。
「エーファお姉ちゃんは、どうして参戦しなかったの?」
「……見れば分かるよ」
隠し扉から梯子を降りた先に、鉄製の扉が現れる。
扉を開けた先は、まるで病室の様だった。
「なに、これ……」
私の知っているエーファお姉ちゃんは、いつも元気で……ちょっとおっちょこちょいで、太陽の様な人だった。
今の彼女はやせ細り、点滴チューブに繋がれ、ベッドに横たわっている。
「試作品の、液体タイプのPSIだよ」
「え……」
PSIの生成には量子加速器が必要になる。
製造工程上、カプセルタイプ以外は不可能なはず……だと思っていた。
私が混乱していると、マルガレーテお姉ちゃんが言葉を続ける。
「第3世代以上の超能力者が持つPSI因子はカプセルで接種より生物に対して親和性が高いらしくてね、このPSIはより強く、より大量に接種できる」
「エーファお姉ちゃんの武器製造が予測より大きかったのは、これが原因……」
「そう、エーファはラゴネロの武器製造個件、PSI製造機にされていた」
孤児院が襲撃されて、死体を回収された理由が分かった。
皆は実験体か、液体タイプのPSIになったんだろう。
「ごめんね、お姉ちゃん……」
私が、もっと強ければ。
お姉ちゃんたちがこんな思いをする必要はなかった。
マルガレーテお姉ちゃんは私の頭を優しく撫でると、エーファお姉ちゃんの体から丁寧にチューブを外していく。
「アリス……?」
ベッドの上のエーファお姉ちゃんが、薄らと目を開けて私たちの方を見ていた。
「お姉ちゃん! ごめん、ごめんね。こんな辛い思いをさせて……!」
私は思わず、エーファお姉ちゃんに抱きつく。
「もう、もう大丈夫だから!」
孤児院の皆や、二条さん。
失われた命はもう帰ってこない。
それでも、やっと……3人揃う事ができた。
今はそれだけで十分だった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
正直、ジャンル的にも殆ど読んでもらえなんじゃないかな、と思っていましたが評価ポイントもいただいて、大変嬉しかったです。
ランキングには掠りもしませんでしたが、自由に書けて楽しかったです。
良かったら感想ください!
次はもう少し色々な人に読んでもらえる様なジャンルで書こうかなと思います。
ありがとうございました!




