正義VS正義
「アリス!!」
乾いた銃声が響く。
マルガレーテお姉ちゃんが私に覆いかぶさった。
「渡津!! どうして!!」
考えるまでもない、この銃声はSAKURAだ。
この場でこの拳銃を好んで使う奴は一人しかいない。
「はぁ?」
いつの間にか立ち上がった軽く頭を掻きながら私の方に銃口を向ける。
「違法入国した超能力者を排除しようとしただけっすよ?」
「だから、それは違っ」
「違わないっす」
「二人はラゴネロに……」
「かんけーねーっす」
「……」
私と渡津の間でピリピリとした時間が流れる。
彼女は大きなため息を吐くと、口を開いた。
「アルテウス姉妹がどんな事情でこの国に来たとしても、日本にとっては海外の凶悪な指名手配超能力者が違法入国したってだけっすよ」
渡津の言うことは、多分正しい。
この国の事を一番に考えるなら、選択肢は他に無い。
多分、私と感覚が混在していない二条銀次も同じ結論を出すはずだ。
でも、それでも……私はそれを受け入れる事はできない。
「ちょっと前から違和感はあったんっすよね。パイセン、なーんか視点がアルテウス姉妹に寄ってるなって」
「……私は、自分を二条銀次だと思ってたアリスだった。だから、無意識の内にお姉ちゃん達を助けることが大前提になってた」
「私は、パイセンがパイセンであるなら、体がテロリストや宇宙人でも幼女でも受け入れられたんっすけどね。今の君は世界一巧妙に二条銀次のモノマネができる違法入国のテロリスト予備軍っす」
「どうしても、ダメなの?」
「貴女達姉妹の超能力はこの国では許容できねっすね」
渡津が指を三本立て、順に折っていく。
「兵器作りたい放題、幻覚で人殺し放題、読心で情報ぶっこぬき放題……こんなの、どうやっても許容できねっす」
「力そのものには善悪なんて無いでしょ? 私達が協力すれば、日本にとって良い事だって多いと思う」
「話になんねっす。日本は民主主義の法治国家なんす。現状がどうであれ、それを目指す事は公務員の責務っすから」
渡津が発泡する。
それは私達の数メートル前に着弾した。
彼女の舌打ちが小さく響く。
彼女の超能力は理論上可能な事を全て実現する。
当てるつもりで撃って外す事はありえない。
マルガレーテお姉ちゃんの超能力だ。
「本当に厄介な能力っすね」
渡津は苛立たしげに懐からPSIを取り出し、口へ放り込む。
短期間に2錠目の服用、かなり危険な行為だ。
「アルテウス姉妹は殺しすぎたっす。国際指名手配されている超能力者っす。それを! 可哀想だから、日本には協力するから、許すなんて理屈、道らねぇっすよ! それは今まで日本の治安の為に人生を賭けて来た人々に対する冒涜っすよ。そんな残酷な行為、私には認められねーっす」
渡津がさらに発泡する。
今度はもっと近い位置に着弾した。
「マルガレーテの超能力も、種が割れればどうにかなるっすね。要は脳の錯覚な訳で、視界と思考から全てのバイアスを外せば……ふんわり分かってきたっす」
理論上可能な事を実現する能力。
マルガレーテお姉ちゃんの超能力は精神に対する影響が強い分、物質的な要素に対する影響力をほとんど持たないはず。
もし渡津が自分の意志で脳を制御できるなら、天敵と言って良い。
「……そうだね、渡津の言う事は正しい」
今の私の願いは、姉妹が揃って生活できる事だ。
できれば誰にも利用されず、幸せに生活がしたい。
でも、二条銀次の記憶と人格を受け継いだ私は渡津の気持ちも理解できる。
日本だって初めから治安が良かった訳じゃ無い。
多くの苦難と、多くの犠牲があって、今の日本の治安がある。
法律的な観点で見れば、マルガレーテお姉ちゃんとエーファお姉ちゃんは捕まったら最後だ。
私達を許容するというのは、法律を蔑ろにするということ。
それは今まで日本の為に尽くしてきた人たち、そして法律を守ってくれている人たちに対する冒涜だ。
「じゃあ、大人しく死んでくれるっすか?」
渡津の言葉に私は首を横に振る。
「渡津の考えは理解できるし、正しい。でもそれは国としての理想で、そっちの都合でしょ」
私の言葉に、渡津が少し悲しそうな表情を浮かべた。
二条銀次なら、こんな事は絶対に言わない。
「国に仕える人がその理想を追求する事は正しい、だけど……理想と現実は違うし、全ての人がその理想を受け入れられる訳じゃ無い」
「そういう考えのやつが居るから、いつまで経っても犯罪がなくなんねーんじゃねぇっすか!」
「望んで悪者になる人なんて居ないよ。誰だって正しく生きたい、でも現実は残酷で理想だけじゃ生きていけないから……犯罪はなくならない」
「じゃあ、ずっと矛盾したまま、未来永劫、不完全なまま犠牲を出し続けろって事っすか!」
渡津が発泡する。
弾丸が頬を掠めるのを感じながら私は走り出す。
「その通りだよ!」
私には渡津の考えていることが全部わかる。
彼女が超能力でどれだけ正確な偏差射撃をしてきても、私はその心を読み取って避けることができる。
「なんっ!」
懐に入り込んで、拳銃を持っていた手を蹴り上げる。
拳銃は直上へ吹き飛び、同時に渡津のカーフキックが私へ襲い掛かる。
体格差的にもうヘッドキックだったそれをでんぐり返しで避けた。
「むっ」
そのまま片足になった足を払おうと思ったけど、デングリ返しを継続する。
私の通った後を、数秒遅れて弾丸が突き刺さる。
渡津が直上に打ち上げられた拳銃を片手で完璧にキャッチして、そのまま発泡してきた。
「厄介っすね、その超能力」
「うん、私もそう思うよ。本当に厄介なのは、ここからだけどね」
私はPSIを飲み込んだ。




