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我思う、故に我あり

 交渉は決裂した。

 マルガレーテが動き出すのとほぼ同時に、渡津(わたんず)が発砲する。


「パイセン!」


 渡津の弾頭はマルガレーテの頭部を正確に捉え、通過していった。


「邪魔」


 マルガレーテは渡津へ視線を向けると、軽く腕を振り上げる。

 直後、渡津が上空に10メートルほど吹き飛ばされた。


「にゃろ!」


 渡津は空中で半回転し姿勢を整え、専門的な着地方法で華麗に着地する。

 そのまま地面を1回転し、中腰で発砲。


「……」


 渡津の放った弾頭は再びマルガレーテの頭部を正確に捕らえる。

 しかし命中する寸前、マルガレーテの姿が霧の様に消えた。


「っち!」


 直後、マルガレーテが渡津の眼前に現れる。

 マルガレーテが渡津の顔面を殴りつけた。


「やぁあ!」


 渡津は体を大きく退け反らせ、両腕で体を支えながらカポエラキックを繰り出す。

 マルガレーテはそれを半歩下がって避け、パチン、と指を鳴らした。


「がっっああっっぶっあっぁ」


 渡津の体を、水の様な球体が多い尽くす。

 彼女も出ようともがくが、どうすることもできない。


 彼女の超能力は”理論上可能な事を確実に実践する”ことだ。

 理論を超える、圧倒的な超能力に対してできる事は少ない。


「渡津!!」


 俺はマルガレーテに背後から蹴りかかった。


「はぁ……」


 マルガレーテは退屈そうなため息を吐くと、振り返らずに俺の足を掴む。

 そのまま振り上げ、地面に叩きつけられた。


「がはっ……」


 なんてことだ。

 ほんの数秒で事態が一変してしまった。


「どう……して……」


「君の話が嘘なら、君はアリスの名を語って私を騙そうとしたクソ野郎だし、君の話が真実なら、君は私の妹の体を奪ったクソ野郎だ。今後の行動をどうするかは考える必要があるけど、とりあえず感情的に君は殺しておきたいと考えるのは、そんなに不自然かな?」


 とりあえずぶっ殺してから考えるってことか。

 その発想は考え付かなかったな。


 マルガレーテが懐から拳銃を取り出し、俺の方へ向ける。


「じゃあね」


 違う!!!

 引き金が引かれる直前、脳内に声が響く。

 命の危機に際して、走馬灯が駆け巡った。

 ああ、そういう事だったのか。


「っく!」


 ゴロリと転がって弾丸を避ける。


「っち!」


 マルガレーテが小さく舌打ちをすると、虚空に手を振りかざさす。

 周囲が一瞬で燃え上がり炎が私(・)を包み込もうとする。

 私も彼女と同じ様に手を振りがざす。


「なっ……!」


 私を取り囲んだ炎は一瞬で掻き消える。

 そのままスライディングの様にマルガレーテの足元を払う。

 彼女はふっとその場からかき消え……私の足は彼女の足を正確に捉えた。


「まさかっ……!」


 マルガレーテが体制を崩した!

 私は彼女の手首をつかみ捻りながら背中へ馬乗りになる。

 

「……」


 私(・)とお姉ちゃんの間に沈黙が訪れる。


「私は死んでないよ、お姉ちゃん」


「……君が本当にアリスなら、さっきまでの話はなんだったんだよ」


「港でPSIを服用した私は、サイコメトリーの超能力を暴走させてしまった」


 相手の心を読むことができる、簡潔な能力だ。

 ただ、私の場合はその能力が強すぎた。


「PSIの服用で強制的に超能力者に覚醒した私は、ちょうど目の前にいた日本の超能力対策課のエージェント、二条銀次に超能力を暴発させてしまった」


「……」


 私の話をマルガレーテお姉ちゃんは無言で聞く。

 彼女の心の中では、信じたい気持ちと、あり得ないという思いが混在していた。


「私にとって、30後半に差し掛かった人間の人生と人格全ての情報はあまりに大きすぎたんだと思う。私は今の今までずっと、私のことを二条銀次だと思い込んでいた」


 私の言葉に、マルガレーテお姉ちゃんが不愉快そうに頭を掻く。

 イライラしている様に見えるけど、内心では自分がどうして良いか分からなくなって泣きたい気分になっている。


「……君が、アリスの振りをしている二条銀次ではない保証はどうするの?」


「今の私には、お姉ちゃんの超能力は通用しない。これが私の超能力の証明になるでしょ?」


 マルガレーテお姉ちゃんの超能力は私の超能力とよく似ている。

 彼女の能力は超強力なテレパシー。

 相手の脳内に、自分の思い描いた情報を強制的に送信する。


「私の能力は、アリスにも教えてなかったんだけどな……」


 本来ならただの幻覚能力だけど、マルガレーテお姉ちゃんの超能力は強制力が強い。

 生物に対して強制的にプラシーボ効果を発生させることができる。

 人は想像だけで火傷ができるし、溺れる事もできるし、死ぬ事だってできる。

 これは超能力がない時代から実証されている事実だ。


「……信じてくれた?」


「私の知ってるアリスは、こんなに強くなかったし喋り方も違ったと思うんだけどなぁ」


「だってそれは、二条さんの記憶や経験、人格まで全部読みとっちゃったし……」


 今更10歳の少女の様に振る舞えと言われても無理がある。


「はぁ……分かった、信じるよ」


 マルガレーテはそういうと、ふっと体から力を抜いた。


「よがったぁぁあああ!」


 私は拘束を解いて、マルガレーテに抱きつく。

 彼女は私の頭を優しく撫でる。


「もうっ。甘えん坊なのは変わってないの?」


「だって! だってぇぇええ!!」


 緊張の糸が切れてしまったのか、これまでの感情が爆発してしまった。

 涙と声がとめどなく溢れてくる。

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