事実は小説より奇なり
「如月さん、次の砲撃ポイントを予測できるっすか?」
警察署の内部を歩きながら、渡津がインカム越しに如月へ問いかける。
俺のインカムにも、彼女の声が帰ってきた。
「はい!」
如月がインカムから、次の砲撃地点を正確に伝えてくる。
渡津はそれを聞きながら、警察署の避雷針の上へと俺を抱えて登った。
「怖ぇぇぇえええ!」
下では銃声が飛び交っている。
今から渡津がやろうとしている事は理解できるし、ある程度経験もあるんだが、やはり本能的な恐怖は拭えない。
「あっパイセン、目を瞑って耳を塞いで、口を開けていてくださいっす」
遠くで砲弾の発射音が聞こえる。
「おっおう!」
俺は渡津が言った通りにする。
「よっと!」
一瞬の浮遊感の後、強烈な爆発音。
次の瞬間には、自分が竜巻に吹き飛ばされた様な感覚。
「相変わらずのチートっぷりだな!」
目を開けると、俺たちは上空を高速で移動していた。
渡津の超能力名は”事実は小説より奇なり”。
理論上は可能な事を、全て実践できるというイカれた超能力だ。
この高速移動も、砲弾の落下地点にタイミングを絶妙に調整して自分たちも降りて、着弾時の爆風に乗って移動している。
普通に考えて、実現はほとんど不可能レベルの奇跡だ。
だが、理論上は可能らしい。
「あれだ!」
地面に視線をこらすと、広い公園の芝生に砲台がデカデカと設置されていた。
「着陸するっすよ!」
体を大きく開き、空気抵抗を増加さて減速する。
地面がグングンと近づく。
ビルの壁、電柱なんかをほぼ真横から蹴り付け、さらに減速する。
「パイセン、どっちが多く鎮圧できるかで勝負しないっすか?」
「仕事で遊ぶな」
「なら討伐数にするっすか?」
「あぁあもう分かったよ鎮圧数だな」
普通なら地面に叩きつけられて潰れたトマトみたいになる所だが、渡津の能力を持ってすれば難なく着陸できる。突然空から人が降ってきて戸惑っているラゴネロの連中が銃口を向けるのと同時に、俺たちは走り出した。
「おぉぉらぁぁぁぁあああ!」
超能力者は全員、効果の大小はあれど任意で身体強化ができる。
これには一般的に魔力と言われているエネルギーを消費するわけだが、今の俺の体は基礎的な身体能力に劣る反面、身体強化と魔力量に関しては化け物だ。
「おせぇ!」
銃弾を目視で丁寧に避けながら、敵中に潜り込む。
まずは危険な小銃を蹴り上げ破壊する。
銃身がバキリと折れた小銃が光の粒子となって消滅した。
「こいつらの銃もエーファの超能力か!」
「アリス、死ねぇぇえええ!」
アリス、俺の……いや、この体の名前だ。
「やれるものならやってみやがれぇぇええ!!」
魔力による身体強化がある以上、元々の体のスペックは大した問題にならない。
この小さな体は、超能力者戦においては案外有利だ。
「俺の方は、18人だったな」
「ちぇっ。負けちゃったっすね」
数分後には、砲台を守っていた連中を全員捕らえる事ができた。
俺が18人、渡津が15人だった。
「先輩、SATの方も鎮圧に成功しました!」
インカムから、如月の声が聞こえる。
想定外は有ったが、これで作戦通りだ。
「想定外も有ったが、ここまで来ればほぼ成功だな」
「それはどうかな?」
覚えがあって、聞いた事の無い声が聞こえる。
優しげで、そして残酷な声音だ。
「マル、ガレーテ……」
認識はできるし、理解もできる。
だが頭の中でさえ言葉にしようとすると、意識が逸れてしまう。
アリス・アルテウスの姉の一人。
マルガレーテ・アルテウスだ。
「ねぇ、貴方は本当にアリスなの? 私にはちょっと、信じられないんだけど」
マルガレーテが優しさと憤怒が共存した声音で問いかける。
「……」
渡津がゴクリと喉を鳴らしたのが伝わってきた。
ここから先は不意の一言が破滅に直結する。
そんな緊張感が漂っていた。
「は、話を聞いて欲しい」
「そうだね」
マルガレーテは俺の言葉に頷くと、砲台の上に腰掛けた。
そのままタバコを吸い始める彼女に、俺はこれまでの事をわかりやすく説明する。
「……以上だ」
俺の話を、マルガレーテは無言で最後まで聴き続けた。
「いくつか、確認しても良いかな?」
「もちろんだ」
「その話を、私が信じる根拠は?」
「俺たちがアルテウス姉妹や孤児院の事情を知っている事が、何よりの証拠になる」
「そういう事が可能な超能力者だって可能性もあるよね?」
「そんなの、暴論だ。超能力だって何でもできる不思議パワーって訳じゃない。確かに可能性としては0じゃないが、ほぼ、ありえない」
「私がその話を信じるには、2つの受け入れ難い真実を受け止める必要があるね」
マルガレーテはそう言うと、指を2つ立てる。
「私たちの努力や苦労は全部無駄だった」
指を1つたたむ。
「目の前にいるのは私の大好きな妹、アリスじゃなくて、アリスの体を乗っ取った敵対組織の中核メンバーである」
マルガレーテはタバコの吸い殻をぽいっと捨てると、砲台から降りる。
「今日は良い日だね。暖かな空気に、涼しげな風が頬を撫でて、木々が優しげに揺れる音が心地いい」
マルガレーテはそう言うと、大仰に両手を広げる。
「こんな良い日は、お前の様なクソ野郎は地獄に落ちるべきだ」




