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ぽんこつ可愛いアイドルは、妹として愛されたい  作者: 日々一陽
第二章 絶対結婚しような!

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21話 髪は女の命?


 その日の授業を終えた拓海は文芸サークルに顔を出した。


「噂をすれば何とか、ってやつね」


 明石綾乃が笑いながら言う。


「ひどいなあ、僕の悪口言ってたの?」

「違うわよ。ねえ美妃」


 話を振られた柳川美妃はちょっと困った顔をした。


「そうね。小倉くんの好みのタイプ、の話」

「好みのタイプ?」

「ルックス、とか」


 ああ、眞名のことだな!

 拓海は瞬時にそう思った。


「僕の推しのこと?」

「そう、ひめちゃん可愛いなあって」


 先日の対バン、柳川さんと唐津先輩を推しのライブに連れて行った。柳川さんは眞名とチェキも撮っってくれたから、サークル内で僕の推しの噂をしていても何の不思議もない。しかし眞名は顔だけで推してる訳じゃない。確かに最初は彼女の可愛さに視線を奪われた。彼女の笑顔に魅せられて特典会に行った。だけど顔だけなら可愛いアイドルは他にもいっぱいいるわけで、眞名一筋なのは彼女の楽しさとか優しさとか誠実さとか、ルックス以外の部分にも惹かれてるところが大きい。いや、アイドルだって営業してる訳だから優しいとか誠実だとか、それが本当の姿かどうかなんて分からないじゃないか、という人もいる。それでも拓海は自分が受けた印象を信じていた。そしてふたりで暮らすことになった今、実際その通りだったと感じている。まあ、よく喋るのは特典会だけで普段はもう少し静かかな、と思っていたが、この予想だけは見事に外れた訳だけど。


「これこれ!」


 綾乃が拓海の前に何かを置いた。


「って、ひめのチェキじゃん!!」


 それは(みきさんへ)と書かれたチェキ。先日撮った姫路眞名と柳川美妃のツーショットだった。


「美妃に見せてもらってたの。可愛いじゃない」

「そりゃあ僕の推しですから!」

「小倉っちが胸張るところ?」

「ちょっと僕にも」


 そのチェキに手を伸ばし、まじまじと見入る唐津。そんな彼にも綾乃は尋ねる。


「ね、どっちも可愛いわよね」

「もう綾乃ったら!」


 困ったような美妃の声。


「でも彼女って顔が小さいし整ってるし、華奢で守ってあげたい感じなのよ。お話ししてても楽しいし。私も推しちゃいそう」

「いやいや柳川さんも負けてないよ」


 唐津はそう言うと目の前のインスタントコーヒーを一口飲んで。


「柳川さんも明石さんも文芸部のアイドルだからな。ふたりでアイドルグループ作ったら売れるんじゃないか。なあ小倉」


 唐津先輩は拓海にチェキを手渡しながら問いかける。

 確かに柳川さんも明石さんも綺麗な人だ。だけどアイドルになるには何かが違う気がした。前髪を左右に流したショートボブの明石さん、富士額の柳川さんはロングのウェーブ……


「これであれだな、前髪を眉の辺りで切り揃えたら完璧にアイドルだな」


 唐津の一言に拓海は唸った。

 さすが自称アイドル一筋20年! 「オギャアと言った瞬間からドルヲタだった」と公言する唐津先輩の鋭い指摘に拓海はカモミーユのメンバーの顔を思い浮かべる。確かにアイドルは前髪を眉毛辺りで切り揃えてる人が多い。殆どと言ってもいいくらい。そしてその前髪をスプレーで固めて動かなくしているらしい。


「さすが唐津先輩ですね。そうかもですね」

「前髪?」


 不思議そうな顔をしている柳川美妃に唐津が説明をする。部室に置いてあったアイドル雑誌も引っ張り出してアイドルの髪形について解説をする。


「やっぱ王道だよな、眉のところで切り揃えた前髪は。ぱるるちゃんもそうだし冬華様もそうだしオタロ坂のメンバーもほとんどそうだ。これ申し合わせてるのかな? ってくらいこのパターンが多いよな、なあ小倉」

「そうですね。なんでか分からないけど……」

「ファンが喜ぶからよ」


 話に割って入ったのは明石綾乃。


「男性ファンってチョロいからアイドル前髪にコロッっと転ぶのよ!」

「アイドル前髪?」

「あら知らないの? サイドの髪と分けた前髪を眉の辺りで切り揃えて、それをケープでしっかり固定するのをアイドル髪型て言うのよ。ほとんどのアイドルがそれでしょ?」


 やたら詳しい明石綾乃。


「その通りだな」


 さも当たり前、という顔のふたり。


「おふたりとも詳しいですね。って知らないの僕だけ?」

「大丈夫、私も知らなかったから」


 緩く微笑む美妃を見て拓海は少し安堵する。


「小倉くんも前髪のある髪型が好きなの?」

「えっと…… 好きかな」

「そうなんだ」


 さらりと分けた自分の前髪を弄りながら独り言のように呟いた美妃。

 唐津はそんな彼女をちらりと見る。


「だけど俺は柳川さんみたいなお姉さんっぽい髪型も好きだな。おとなの魅力って言うのかな。そうだ、今度ぱるるちゃんに頼んでみよう!」

「唐津先輩ぱるる熱がすごいですね」

「だって俺たち相思相愛だからな」


 自慢げな唐津。彼は一昨日もひとりでぱっとらぶの定期公演に出向いたそうで、そこでぱるると相思相愛になったと喜んでいた。いや、相思相愛どころか結婚するんだ! とまでぶち上げた。


「でもぱるるって子は誰かと繋がってるんでしょ?」

「俺とだよ、俺と!」

「「本当?」」


 綾乃と拓海の声が重なる。


「うん。多分、そうなる」

「多分って?」

「まあ見てなって」


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