第20話 まさかの繋がり?
大変お待たせしました。第2章です。
是非お気楽にお楽しみください。
「ええ~っ! まさか、ぱるるが?」
「でも、そうらしいよ」
拓海の何気ない一言に大きな声を上げ、眞名のジャムを塗る手が止まった。
あまりに大げさな反応に拓海の方も驚いた。他所のグループの繋がりの噂なんていくらでもあると思うのだが――
そのまま考え込む眞名を見て拓海は少し躍起になった。
「いやちょっと聞いただけの話だから、何かの勘違いかも知れないし」
「そんなことって……」
「いやまあ単なる噂話だから」
「う~~っ」
「やっぱり眞名ちゃんと食べる朝は美味しいな」
「……」
ちゃん付けで呼ばれても指摘せず、眞名は黙って身動きもせず考え込む。
「今日の朝食は完璧だよね」
「え?」
「特にこの目玉焼きも美味しそうだな!」
「ですよねっ!!」
目玉焼きとバナナジュース、トーストには軽く塗られたマーガリン。
別段何ということはないメニューを褒められて俄然と笑顔を取り戻した眞名。実はこの数日と言うもの朝の料理は失敗の連続だったのだ。それが手放しで褒められて眞名の機嫌はあっさり戻ったようだ。
まずはこの数日の、小倉家の壮絶な朝食をめぐるドラマをご紹介しよう――
火曜日。
眞名が用意した朝食。
トーストと牛乳、丸ごとのバナナに全く異変はなかったのだが、野菜サラダには何か黒っぽい炒め物が添えられていた。
「スクランブルエッグのウェルダンです」
寝起きの拓海に眞名は申し訳なさそうな顔をする。
「ごめんなさい。ちょっと黒いので食べなくてもいいですよ。今日は朝から英語の単語テストがあるんですが、そのせいでこんなのになりました。全ては単語テストのせいです! この世から単語テストがなくなればこのスクランブルエッグはもっとふわふわで美味しそうな色をしていた筈なんです…… ってごめんなさい。私が悪いですね」
眞名の前にはもっと黒い何かが置かれていた。それを見た拓海は笑顔でスクランブルエッグを頬張りながら提案した。
「眞名ちゃんの学校は厳しそうだから、明日から朝食は僕が作ろうか」
「だめです! これは可愛い妹の役目です。私が読んでいるマンガによると妹とはお兄ちゃんの胃袋をガッチリ掴んで沼らせる生き物だと描いてあります。それに眞名ちゃんではありません。眞名です。お兄ちゃんは間違えたので私の言うことを聞いて、明日私にもう一度チャンスを与えなければいけません!」
水曜日。
そんなこと言われても、と拓海は眞名より早めに起きた……
…… はずだったが、眞名はすでに起きていてスクランブルエッグを作っていた。
「お兄ちゃんが強硬手段に出ることくらい賢い妹にはお見通しです。ほら見てください。今日は上手に出来たでしょ! 眞名はぽんこつだけどやればできる子なんです!」
揃って食卓に着くとふたりは真っ最初にスクランブルエッグに手を付けた。
「どうですか?」
「うん、味しい! すごいな眞名ちゃんは」
「眞名です」
もはや定番の会話を和やかに交わしながら拓海は黄色いジュースを手に取った。
「今日はバナナジュースです。丸ごとのバナナってなんかこう料理した雰囲気ないですよね。だから牛乳と砂糖を加えてミキサーにかけました。私はできる妹ですから!」
バナナジュースを口につけたとたんに微妙な表情になった拓海に向って自慢げに無い胸を張ると、眞名は自分もバナナジュースに口をつける。しかしその顔色はすぐに青くなった。
「えっ? しょっぱいですね…… ああっ~~!!」
砂糖と塩を間違えたであろうことは拓海にも眞名にもすぐに分かった。
木曜日
昨日眞名に先読みをされて先に起きられた拓海は、今日はもっと早く起きた。実は昨日、朝食は自分が作るか交代で作ることを提案したのだが眞名にあっさり却下されていた。
「今日もお兄ちゃんの胃袋をガッチリ掴むことに失敗した眞名にあと一回チャンスを与えててください。だめですか?」
上目遣いの反則的可愛さで訴える眞名に拓海の脳細胞がフル回転する。
(ダメと言っても今日より早く起きてくるだけだろうな。だったらここは認めておこう。そうして眞名より早起きして作っちゃおう……)
そう考えた拓海は笑顔で応えた。
「分かったよ」
しかし翌朝。
「おはようございます、お兄ちゃん! やたら早いですね! でも朝食の準備はもう終わりましたよ。抜け駆けはいけませんね」
眞名の方が一枚上手だった。
トースト、野菜サラダとスクランブルエッグ、バナナジュース。どれも何の異常もなく、そして美味しかった。
「お兄ちゃんの考えてることなんて手に取るようにお見通しです。妹のカンを舐めないでくださいね!」
だけども眞名のトーストは真っ黒だった。
「あ、この黒い物体ですか? 私カリカリが好きなのでもうちょっとって思ってるうちに気が付いたら…… 実は今日の早朝テストは歴史なんです。今、戦国時代なので面白いんです。私の推しは浅井長政なので本能寺の変でとってもスカッとするんです。ただそのあと光秀が討たれるのが悔しくて、毛利がもっと頑張ってさえいればと思うと歯痒くて、気が付いたらパンがこんな姿に…… パンには本当に申し訳ないことをしました」
黒い何かをスプーンでこそぎ落としながら眞名は苦笑する。
「で、お兄ちゃん、明日は何時に起きる気ですか?」
この妹と勝負をしても勝ち目はない。しかしだからと言って……
「だったら私から提案があります。朝は一緒に作りませんか。トーストはお兄ちゃんにお願いします。他は私が担当します。ね、いいアイディアでしょ?」
人差し指を立ててドヤ顔の眞名。
「トーストなんて誰が作っても……」
「悪かったですね! その誰が作っても簡単にできるトーストを失敗したのは私ですよ?」
一瞬言葉に詰まった拓海。
眞名は小さく息を吐いて穏やかに言葉を紡ぐ。
「どっちがどの担当とか、ホントはどうでもいいんです。ただ私はお兄ちゃんと一緒にお話しする時間をいっぱい作りたいだけなんです。私ね、一緒に暮らしてよくわかりました。朝のこの時間はとっても大切な時間なんだと。だって夜は私のレッスンがあったりお兄ちゃんだって部活やコンパや友達と用事があったりとなかなか一緒にご飯が食べれなかったじゃないですか。あ、女子大との合コンって何ですか?」
「いやあれは学科の友達にどうしてもって頼まれたからで……」
「分かってますよ。お兄ちゃんは優しいですから断れませんよね。でも私は優しくありません。私はひとりで寂しかったです。だからお兄ちゃんの役目はトーストです」
不敵な笑みを浮かべながらそう言われると、もう拓海に勝ち目はなかった。
かくして金曜日の朝。
「おはようございます、お兄ちゃん!」
エプロン姿の眞名が白い歯をのぞかせる。
拓海も釣られて笑顔で応えるとふたりでキッチンに立った。
「今日は目玉焼きにしようと思います。どうでしょうか?」
「目玉焼き大好きだよ」
「よかったです」
拓海は4つ切りの食パンをトースターに入れるとあとは手持ち無沙汰、しかし決して退屈ではなかった。なぜなら眞名のお喋りシャワーが止まらないからだ。
「味付けは塩コショウでいいですか? 私は塩コショウ派なんですが醤油もソースもマヨネーズもありますよ」
「じゃあ眞名ちゃんと同じで」
「やっぱりお兄ちゃんは優しいですね。ちなみに眞名です。いつになったら呼び捨てで呼んでくれるんでしょう? あ、今日の定期公演来てくれますよね。ホントならライブの帰りに待ち合わせてどこかで一緒にご飯を食べて帰るってのがとっても嬉しいんですけど私はアイドルなのでそれはできません。悲しいです。せっかくの金曜の夜なのにごめんなさい。その代わり昨晩シチューを作っておきました。奮発してビーフシチューです。赤札50%引きの安いお肉ですが列記とした国産です。私の料理は不安かもしれませんが市販のルウを使ってるのでお味も安心安全です」
拓海は冷蔵庫に入っているシチュー鍋を覗き込むと思い出したように。
「そう言えば今日の定期公演で重大発表があるんだよね。ヲタク仲間では何だろうってその話題で持ち切りだよ」
「それはお兄ちゃんにも秘密です。ホントはもう喉まで出かかってるんですが今の眞名は妹の眞名なのでカモミのことは知らない設定なんです」
「あ、そうだったね。ごめんごめん」
「でもそうやって話題になってお客さんが増えてくれるのはすごく嬉しいです。今日の定期は普段よりお客さん多めだってプロデュサーさんが言ってましたし。でも今使ってる会場は結構広いのでまだまだなんですけどね。あ、ちなみにみんなどう言う予想をしてるんですか?」
「そうだなぁ、だれかが卒業するのかもとか、武道館ワンマンの告知とか」
「うふふっ。どうでしょうね」
眞名は白磁に目玉焼きを装いながら。
「しかし武道館とは盛りましたね。それ本気で言ってないでしょ? カモミの普段の動員を見ていたらそんなのお世辞でも出てこないと思いますけどね。けど案外そうだったりして」
テーブルに朝食を並べるとふたり向かい合って手を合わせる。
食卓にはガラスの一輪挿し。白とピンクのマーガレットが一輪ずつ咲いている。壁には小さな絵が飾られて、女の子がいるとこんところも違うんだなぁ、と拓海は感慨に耽る。
「とてもいい朝ですね。こんな幸せがいつまでも続けばいいなって思いませんか? 私はとっても思います。これで朝の数学の小テストがなければホントにホントにいいんですけどね。お兄ちゃんは賢いし理系だから数学なんていとも簡単に解けちゃうんでしょうけど私たち文系は数式苦手な人の吹き溜まりなんです。ニュートンは微分積分を発見した偉い人だと先生は言いますが、私に言わせれば余計なことをしてくれたもんだと思います。もちろん冗談ですけどね。あ、いつもはマーガリンですけどバターじゃなくてもいいですか? 私も一応アイドルなのでカロリー考えるとマーガリンばっかりなんですけど」
言葉では気を使いつつ拓海のトーストに有無を言わさずマーガリンを塗って手渡す眞名。
「目玉焼きはご要望通り軽く塩コショウだけですよ。足りなかったら言ってくださいね」
拓海は眞名からトーストを受け取るとジャムを塗りながらおもむろに。
「そう言えば「ぱっとらぶ」って知ってる?
「勿論知ってますよ。よく対バン被りますしツーマンライブもしたことありますし」
「そこの「ぱるる」って子が繋がってるって話を聞いたんだけど」
「ええ~っ! まさか、ぱるるが?」
実は第2章書くのに難航しましたが、2章終わりまでは書いてアップを始めました。
この小説は2章が終章となる見込みです。ぜひともお気軽にお楽しみいただけると嬉しいです。




