タンドリア防衛戦
場面は一転し、シグマ帝国と中東の小国家タンドリアの国境付近の戦場へと移る。
砂塵が舞い上がり、乾いた大地に砲撃の轟音が響き渡っていた。
空は黄褐色に濁り、遠くで燃え上がる炎が地平線を赤く染めている。
ドォーン……ドォーン……。
激しい戦闘が続き、シグマ帝国の量産型コマンドスーツ『タイタン』の部隊が、重砲とガトリング砲を惜しみなく撃ち込み、タンドリア軍の旧型コマンドスーツ『ボルン』を圧倒していた。
タイタンは無骨で重厚な機体だ。
土色の頑強な装甲に覆われ、肩に搭載された重砲が連続して火を噴く。
腕のガトリングガンが回転し、弾丸の嵐を撒き散らす。
一方、タンドリア群のボルンは時代遅れの設計で、灰色のモノコックフレームに、さび付いたマシンガンを抱えている。
タイタンと比較すれば、火力も耐久力も劣るボルンは劣勢だった。
灰色の巨体は重火力の前に次々と撃たれ、砂漠の大地に倒れていく。
『クソ、硬すぎる……!』
『ダメだ、押し込まれる!』
『う、うわぁあああ!!』
ズドォオン!!
また1機、ボルンが散った。
タイタン1機を撃破する間に、ボルンは3機破壊されている。
爆発の閃光が戦場を照らし、金属の破片が飛び散っていた。
その上空、雲間を縫うように飛行する機影。
ギゼラ・シュトルムの愛機『ウェイバー・ザ・スカイホエール』だ。
その下にぶら下がるリリエルのコックピットの中で、兎歌・ハーニッシュは戦況を静かに見守っていた。
リリエルの桜色の機体が風に揺れ、ウサギのような頭部が微かに動く。
視界には、タイタンとボルンの戦闘がリアルタイムで映し出されている。
兎歌はリリエルの眼を通じて、目の前の戦場をじっと見つめる。
桜色の瞳には、優しさと決意が混在していた。
「タイタンの火力すごいね……ボルンじゃ歯が立たないよ」
彼女の声がコックピットに小さく響く。
リリエルの各部に搭載されたセンサー群が戦場を解析し、敵の位置や動きを詳細に表示する。
兎歌はコンソールを操作しながら、状況を冷静に分析する。
『このままじゃタンドリア側が全滅しちゃう。でも……』
『まだだよ、兎歌。アタシらは今、無関係な国の人間なんだ』
『うん……』
タンドリアはエリシオンの加盟国ではない。
ただの集落ならまだしも、特定の国に肩入れするのは、さすがにリスクが大きい。
『今ごろ、加盟に向けた交渉が行われているはず……。あぁもう、イライラするねぇ! さっさと突撃すれば話は済むってのにさァ!』
『ギゼラさん……』
キュオオォーン……。
ウェイバーのリアクターが低く唸り、リリエルを抱えて戦場の上空を旋回する。
兎歌は深呼吸し、リリエルの武装を点検する。
両手の粒子サブマシンガン、前足の攻撃機能、肩のブレード、オールグリーン───
出撃の準備は整っている。
「烈火なら、ここで突っ込むんだろうな。でもわたしは、烈火みたいにはなれないや」
兎歌はそう呟き、戦場を見下ろす。
その間にも、また一機、ボルンが爆散。
倒れ込む巨体に、小型コマンドスーツの歩兵が一人巻き込まれて死んだ。
砂塵と砲煙の中、シグマ帝国のタイタンが次々と進撃を続ける。
少女の心には、幼なじみのように強くなりたいという思いと、戦場での冷静な判断が交錯していた。
と、その時
兎歌の耳に、突然ギゼラから通信が割り込んできた。
少しノイズ混じりの声が響き、兎歌の緊張を解すように明るく響く。
『兎歌、朗報だ! タンドリアの連中、エリシオンに加わるってさ!』
『ホント!?』
通信の向こうで、ギゼラが豪快に笑う声が聞こえる。
ウェイバーのパイロットである彼女は、紫のパイロットスーツに身を包み、首をゴキゴキと鳴らす。
『そういうワケだから、今から援軍に向かうよ。準備しといてくれな!』
『ギゼラさん……! 了解、いつでも行けるよ!』
兎歌が即座に返答し、コンソールを操作する。
視界の隅にレーダー画面が映り、タイタン一個中隊が進軍しているのが分かる。
「すぅ……はぁ……」
兎歌は深呼吸し、リリエルの出撃準備を整える。
「タンドリアが加盟してるなら……遠慮はいらないね」
兎歌は呟き、合図を送った。
『よっしゃ、行ってきな!!』
ギゼラが力強く叫ぶと、ウェイバーの爪が開いた。
ウェイバーの下でリリエルが切り離され、兎歌は一瞬の浮遊感を味わう。
次の瞬間、反重力エンジン……リパルサーリフトが作動し、桜色の機体が音もなく戦場へと降下していく。
シュオォオオン……。
砂塵の中を滑るように着地したリリエルは、優雅な姿で立ち上がった。
眼前には、シグマ帝国の量産型コマンドスーツ『タイタン』の部隊が、重砲とガトリング砲を鳴らし続けていた。
兎歌はリリエルの通信システムを起動し、毅然とした声で警告を発する。
『シグマ帝国の部隊へ次ぐ。ここはエリシオンの領土となりました。進軍を中止して、すぐに撤退してください。さもないと、エリシオンの名の下に武力行使を始めます』
電子変換された声が戦場に響き渡るが、タイタンの部隊は動きを止めない。
むしろ、重砲の照準がリリエルに向けられ、ガトリングガンの回転音が一層高まる。
兎歌は唇を引き締め、リリエルの両手の粒子サブマシンガンを構えた。
「警告はしたよ……仕方ないね」
その時、上空から轟音が近づいてくる。
ウェイバーがうなりを上げ、急降下してきたのだ!
ウェイバーの紫の巨体は、重武装の爆撃機さながらの威圧感を放ち、一直線に降下してくる。
『ようやく動けるってもんさ。さぁ、消し飛びなぁ!!』
ドゴォオオオンッ!!!
荷電粒子キャノンが唸りを上げた。
太い光の柱がタイタン二機を消し飛ばし、砂塵を切り裂く。
『おい、兎歌! 派手にやっちゃえってよ!』
ギゼラの声が通信から飛び出し、兎歌は小さく笑う。
『了解だよ、ギゼラさん。一緒にコイツらを止めるよ!』
リリエルの前足が地面を軽く蹴り、機体が機敏に動き出す。
上空ではウェイバーが援護射撃を開始し、戦場に新たな火花が散った。
兎歌は幼なじみの顔を思い浮かべながら、心の中で呟く。
(烈火、わたしだって負けないよ。守るために、戦うから)
シグマ帝国のタイタン部隊とエリシオンの反撃が、砂漠の戦場で激しくぶつかり合う!
戦いが始まった。
砂塵が舞う戦場で、リリエルの桜色の機体が四足で駆け回る。
兎歌の巧みな操作のもと、機体はまるで風のように軽やかに動き、両手の粒子サブマシンガンが連続して火を噴く。
『う、うわぁあッ!?』
ダララララッ!!
閃光がタイタン2機を捉え、装甲を貫いた。
瞬間、爆発が砂漠に響き渡った。
炎と煙が立ち上り、シグマ帝国の量産型コマンドスーツは次々と倒れていく。
リリエルは正面戦闘を得意とする機体ではない。
しかし、その機動性と兎歌の先読み技術が、タイタン部隊を圧倒していた。
兎歌はコックピット内で投影されたパネルを睨み、リリエルの集めたデータを瞬時に読み取る。
敵の動きを予測し、リリエルを巧みに操ってタイタンから逃げ回りつつ、確実に数を減らしていく。
その攻撃に、シグマ帝国の兵士たちの通信が混乱に満ちていた。
『何だあの機体!? 動きが速すぎるぞ!』
『2番機、応答しろ! くそっ、撃破された!』
『隊長に報告だ、敵は予想以上に───』
通信が途切れ、次のタイタンがリリエルのサブマシンガンに撃ち抜かれる。
ドォオン!
爆炎が桜色の機体を赤く照らした。
兎歌は冷静に息を整え、リパルサーリフトで跳躍しつつ、次の標的を定めた。
「正面からぶつかったらダメだよ。動き回って、隙を突くんだから」
兎歌の呟きがコックピットに響く。
上空では、ギゼラのウェイバーがE粒子キャノンを放ち、タイタン部隊の意識を引き付ける。
『またあの攻撃だ!』
『とにかく散開しろ! 被害を抑えるんだ!』
『ぐわぁあああ!』
砲撃が戦場をさらに混乱させ、リリエルの機動性が活きる状況を作り出していた。
だがその時、戦場の奥から新たな影が現れる。
砂塵を切り裂いて進むのは、シグマ帝国の高性能コマンドスーツ『ジャガノート』!
タイタンよりも軽量なフレームで設計され、機動性に優れるその機体は、ガトリングガンと重砲を装備している。
コックピットには女隊長が座り、ヘルメットの舌で牙を剥く。
彼女は残虐な性格で知られ、射撃の腕前は部隊内でも随一だ。
冷酷な笑みを浮かべ、ジャガノートのコンソールを操作しながらつぶやく。
「ふん、エリシオンの連中、調子に乗ってるようね。まとめて叩き潰してやるわ」
ジャガノートが砂漠を疾走し、リリエルに向かってガトリングガンを乱射!
弾丸の嵐が兎歌の機体を追い詰め、重砲が轟音とともに発射される。
ズガガガガッ、ズドォオン!!
兎歌は即座にリパルサーリフトで回避し、砂塵の中でリリエルを旋回させる。
「新しい敵……! 動きが速い、気をつけないと」
兎歌の声に緊張が混じる。
ジャガノートの機動性はタイタンとは段違いで、女隊長の正確な射撃がリリエルを執拗に追う。
戦場に新たな緊張が走り、兎歌は全神経を集中させて対抗策を練り始めた。
砂漠の風が二機の戦いを包み込む中、戦闘はさらに激しさを増していく。
戦場に響く叫び声と砲撃音。
その中で、タンドリア軍のコマンドスーツ『ボルン』たちが動き出した。
砂塵の中から現れたジャガノートを見て、兵士たちの通信が一気に熱を帯びる。
『隊長機だ! あれを仕留めれば勝てるぞ!』
『撃墜しろ! 全弾ぶち込め!』
ボルンたちが一斉にマシンガンを放ち、弾丸がジャガノートに向かって殺到する。
しかし、女隊長の操る高性能機はその軽量なフレームを活かし、驚異的な機動性で攻撃をかわしていく。
マシンガンの弾幕は砂を巻き上げるだけで、ジャガノートにはかすりもしない。
『何だと!?』
『ハッ、甘いんだよ!』
コマンドスーツはパイロットの脳で動かしている。
そのため、軽量な機体ではパイロットの技量が大きく反映される。
侵攻の部隊長を任されるレベルのパイロットであれば、弾幕を躱す程度、造作もないことだ。
『食らっときな!』
逆に、女隊長が冷酷な笑みを浮かべ、重砲を構える。
一発の轟音とともにボルンの一機が大破した。
続けてガトリングガンが唸りを上げ、もう一機を粉砕する。
ズドォオン!!
爆発の衝撃波が戦場を揺らし、タンドリア兵たちの叫びが絶望に変わる。
『くそっ、ボルンじゃ歯が立たねぇ!』
『あきらめるな! ここで退いたら、故郷は……!』
上空では、ギゼラのウェイバーが荷電粒子キャノンを放つ。
ドゴォオオッ!!
強烈な光がジャガノートを狙うが、女隊長は機敏に機体を旋回させ、砲撃を回避!
そして一気にリリエルとの間合いを詰めてきた。
「何よ、あの兎みたいな機体。逃げ回ってるだけじゃない」
女隊長の嘲る声がコックピットに響く。
ジャガノートのガトリングガンが再び火を噴き、リリエルを追い詰める!
しかし───
兎歌の読みが一枚上手だ。
タンドリア。
大陸南にある砂漠の国であり、小さくとも王の元で一歩ずつ発展していった国である。
民族紛争、資源問題、技術発展の遅れ、シグマ帝国の侵攻……
国が抱える問題は山積みでありながら、どうにか国として存続していた。




