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タッグマッチ! 烈火&リエン VS クロト&蒼火!

 クロトは、烈火だけを見ていた。

 そこに、蒼火との連携はない。

 あるのは、赤い悪魔を殺すための執着だけだった。


 ~~~


 少し離れた宙域。


 リエンのエルフィンと、蒼火のリリエル・ブルーが激突していた。


 水色の巨体が、十二本のサブアームを扇のように広げる。

 アーム先端から放たれる粒子弾が、蒼いケンタウロス型の機体を包み込んだ。


「……そこ」


 リエンの小さな声と同時に、サブアームの数本が角度を変える。

 逃げ道を塞ぐように、光の線が宇宙空間へ置かれていく。


 リリエル・ブルーの前脚が跳ねた。


『邪魔だッ!』


 蒼火は、真正面から弾幕を避けた。

 四脚を畳むように急制動し、直後に機体を横へ滑らせる。

 粒子弾が蒼い装甲をかすめた瞬間、二丁のガンブレードが火を噴いた。


 エルフィンの粒子偏光装甲に、粒子弾が連続で叩きつけられる。


 ドカン、ドカン、ドカン!!


「……っ」


 リエンは眉を寄せ、サブアームを引き戻した。


 エルフィンは強い。

 並列処理能力も、火力も、防御力も高い。


 だが、近接戦闘は得意ではない。


 巨大な下半身であるマトリクスユニットは、十二本のサブアームを運用するための中枢であり、火力の塊だ。

 だが、その重量ゆえ、懐へ入られると動きが重くなる。


 蒼火はそこを狙っていた。


 リリエル・ブルーが粒子弾の隙間を縫い、一気に距離を詰める。

 伸びたガンブレードの刃が、迎撃に回ったサブアームの一本を根元から斬り飛ばした。


「……近い」


『逃がすかよ!』


 蒼火の声は荒い。

 けれど、その機動は鋭かった。


 リリエル・ブルーは、エルフィンだけを見ている。

 クロトの援護に回る気配はない。

 蒼火にとって、この戦いは目の前の水色の機体を落とし、自分の帰る場所を守るためのものだった。


「れっか」


 リエンは短く通信を入れる。


『こっちも手が離せねぇ! 無理すんな、リエン!』


「……うん。でも、だいじょうぶ」


 エルフィンの残ったサブアームが、花弁のように開く。

 リエンはリリエル・ブルーの進路へ、さらに弾幕を重ねた。


 だが、蒼い機体は止まらない。


 リリエル・ブルーの表面を覆うE粒子コートが、薄い光を帯びる。

 粒子弾のいくつかを弾き、いくつかを装甲で受け、蒼火はなおも前へ出た。


 エルフィンは後退する。

 距離を取りたいリエン。

 距離を潰したい蒼火。


 こちらもまた、完全な個別戦闘になっていた。


 ~~~


 その背後で、エピメテウスも戦っていた。


『左舷砲台、照準合わせ! 無人ファランクスの第二波が来るよ!』


 ロゼッタ艦長の声が艦内通信に響く。


 黒い船体の側面から、E粒子キャノンが連続で火を噴いた。

 青白い光条が宇宙空間を貫き、接近していた無人ファランクスの一群をまとめて吹き飛ばす。


 だが、敵は止まらない。


 破片を盾にするように、別の無人機が進路を変える。

 重装甲の白い機体が、無機質な動きでエピメテウスへ砲口を向けた。


『シホちゃん、右上です!』


「見えています!」


 シホのイノセントが、エピメテウスの艦腹すれすれを飛ぶ。

 量産型ストラウスの狙撃支援を受けながら、シホは無人ファランクスの関節部へライフルを撃ち込んだ。


 白い巨体がわずかに姿勢を崩す。


「ノエルさん、今です!」


『任せてくださいね』


 ノエルの機体がミサイルを放つ。

 爆炎が広がり、無人ファランクスの装甲がひしゃげた。


『まだ動いてる! あたしが行く!』


 ユナのイノセントが、爆煙の中へ飛び込む。

 E粒子ブレードが閃き、無人ファランクスの背部粒子タンクを斬り裂いた。


 直後、白い機体は内側から爆発!

 細かな破片となって散った。


『一機撃破! どう、感謝してよね!』


「助かりました、ユナちゃん。次、来ます!」


 シホは短く息を吸い、コックピットのモニターへ目を走らせる。


 正面には無人機の群れ。

 左右にはエピメテウスの艦砲射撃。

 そして遠くの宙域では、赤、水色、灰色、蒼の高エネルギー反応が、人間の理解できる速度を超えて交錯している。


 烈火とリエンの戦いが見えた。


 ブレイズは、カーバンクルの飽和射撃に押し込まれている。

 エルフィンは、リリエル・ブルーに懐へ入られかけている。


 助けに行きたい。


 けれど、行けない。


 シホたちの周囲にも、無人ファランクスと無人機の群れが迫っている。

 ここを抜かれれば、エピメテウスが撃たれる。

 艦が落ちれば、烈火たちの帰る場所がなくなる。


『……なんて速度なの。あんなの、目で追うだけでも大変です』


 ノエルの柔らかな声にも、緊張が混じっていた。


『あたしたちが割り込んだら、足手まといになるだけじゃん……!』


 ユナの声には、悔しさが滲んでいる。


 シホは操縦桿を握り直した。


 コックピットの中で、指先が少し震えている。

 それでも、照準は外さない。


「……私たちにできるのは、ここを守ることだけです」


 シホはそう言って、迫る無人機へ照準を合わせた。


 悔しい。

 怖い。

 それでも、今は見るしかできない。


 烈火とリエンが、あの規格外の戦場で生き残ることを信じながら。


「次弾、撃ちます!」


 三機のイノセントが、エピメテウスの前面へ展開する。


 その向こうで、ブレイズの赤い炎が、カーバンクルの灰色の弾幕に飲み込まれかけていた。


 ~~~


 クロトと蒼火は、戦闘前に同じ結論へ達していた。


 連携では勝てない。


 エリシオンの連中は、互いを守る。

 互いの癖を知り、機体の死角を埋め、危険な瞬間には迷わず自分の身を晒す。


 それは、ノヴァのエース同士にはない強さだった。


 だからこそ、二人は最初から連携を捨てた。

 敵を分断し、それぞれの性能差で押し切る。


 カーバンクルは、アイリスの処理能力を乗せた火器管制でブレイズを削る。

 リリエル・ブルーは、蒼火の反応速度と高機動でエルフィンの懐へ潜り込む。


 こちらには、アニムスキャナーの開発者、フレギア・ノヴァがいる。

 機体制御の理論も、精神波の扱いも、ノヴァの方が上のはずだった。


 事実、序盤はそれで押せていた。


 だが。


「リエン、右だ!」


『……うん』


 烈火の声が飛ぶ。

 リエンは迷わず、エルフィンのサブアームを一本だけ右へ振った。


 その砲口が向いた先にいたのは、蒼火ではない。

 ブレイズの側面へ回り込みかけていた、カーバンクルの拡散粒子砲だった。


 ズドンッ!


 水色の粒子弾が、カーバンクルの射線を横から叩いた。

 直撃ではない。

 だが、砲身の先に集まりかけていた粒子の流れが乱れ、灰色の弾幕に一瞬だけ穴が空く。


「助かった!」


 烈火はその穴へ、ブレイズをねじ込んだ。


 クロトの目が鋭く細まる。


「……こちらを見ていないはずだろう」


 エルフィンは、リリエル・ブルーに追われている。

 サブアームも減っている。

 それでも、リエンは戦場全体を見ていた。


 カーバンクルへ集中するのではない。

 烈火が危ない瞬間だけ、一本だけ、最小限の砲撃を差し込む。


 それだけで、カーバンクルの計算はわずかに狂った。


『よそ見してんじゃねぇぞ!』


 蒼火のリリエル・ブルーが、エルフィンの懐へさらに踏み込む。

 ガンブレードの刃が伸び、水色の装甲へ迫った。


「リエン!」


 今度は烈火が動いた。


 ブレイズはカーバンクルへ突っ込む寸前で、左腕の粒子バルカンを横へ向ける。

 照準は雑だ。

 威力も、リリエル・ブルーの装甲を抜くほどではない。


 それでも十分だった。


 青白い粒子弾の列が、蒼火の進路を斜めに横切る。

 リリエル・ブルーは直撃を避けるため、ほんのわずかに前脚の踏み込みをずらした。


 その一瞬で、エルフィンは後退する。


『……ありがとう、れっか』


「礼は後だ! そいつを近づけるな!」


『……わかった』


 リエンの声は短い。

 だが、そこに怯えはなかった。


 エルフィンのサブアームが、残った本数で再配置される。

 蒼火を倒すためではない。

 蒼火が一番嫌がる角度へ、次の弾を置くためだ。


 リリエル・ブルーが踏み込む。

 サブアームが撃つ。

 蒼火が避ける。

 その避けた先へ、ブレイズの粒子バルカンが走る。


『チッ……!』


 蒼火が舌打ちする。

 攻め込めない。


 ほんの数秒前まで、エルフィンの懐へ入れていた。

 あと一歩で、あの重い下半身を斬り裂けた。


 だが、ブレイズの粒子バルカンが差し込まれるだけで、その一歩が遠い。


 一方、カーバンクルも同じだった。


 クロトはアイリスの処理能力を使い、ブレイズの進路を読んでいた。

 烈火が前へ出る瞬間。

 シールドを傾ける瞬間。

 大太刀を抜く瞬間。


 そこへ弾を置けば、必ず削れるはずだった。


 だが、エルフィンのサブアームが、その射線をわずかに乱す。

 粒子砲の収束をずらされる。

 レールガンの照準線へ、細い粒子弾を置かれる。


 撃てる。

 当たる。

 だが、決定打にならない。


「忌々しい……!」


 クロトの声が、通信に漏れた。


 烈火が笑う。


「ようやく見えてきたぜ」


 ブレイズの足裏スラスターが、赤黒く燃える。

 それまで押し込まれていた赤い機体が、初めて前へ出た。


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