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緊急事態、本国への総攻撃!

「忌々しい……!」


 クロトの声が、通信に漏れた。


 烈火が笑う。


「ようやく見えてきたぜ」


 ブレイズの足裏スラスターが、赤黒く燃える。

 それまで押し込まれていた赤い機体が、初めて前へ出た。


 カーバンクルの拡散粒子砲が火を噴く。


 烈火は避けない。

 左腕のシールドで受け、肩の装甲を削られながらも突っ込む。


『れっか、上』


「任せた!」


 リエンのサブアームが、カーバンクルの頭上へ粒子弾を撃ち込む。

 クロトは反射的に機体を沈めた。


 その沈んだ先へ、ブレイズがいた。


「オラァッ!!」


 ブレイズの肩が、カーバンクルの胸部装甲へ叩き込まれる。

 格闘攻撃というより、質量そのものをぶつける突進だった。


 ドゴォォォンッ!!


 灰色の機体が、大きく吹き飛んだ。

 背部のサブアームが何本も軋み、デブリの群れへ叩きつけられる。


「ぐっ……!」


 クロトの呻きが漏れる。


 同じ瞬間。

 蒼火のリリエル・ブルーも、初めて大きく体勢を崩していた。


 エルフィンの粒子弾が、リリエル・ブルーの前脚を狙った。

 蒼火は当然、それを避ける。


 だが、その回避先には、ブレイズの粒子バルカンが残した弾道があった。

 蒼火は舌打ちし、機体をさらに捻る。


 その無理な姿勢を、リエンは見逃さなかった。


「……そこ」


 残ったサブアームのうち三本が、同時に火を噴く。

 水色の粒子弾が、リリエル・ブルーの右肩へ集中した。


 バキィッ!!


 蒼い装甲が砕ける。

 右肩の基部がひしゃげ、粒子の火花が宇宙空間へ散った。


『ッ、くそ……!』


 蒼火はすぐに機体を立て直す。

 だが、先ほどまでのようには踏み込めない。


 カーバンクルは吹き飛ばされ、リリエル・ブルーは右肩を砕かれた。


 分断し、性能差で押し切る。

 そのはずだった作戦が、烈火とリエンの小さなカバーリングによって、少しずつ崩れ始めていた。


「……忌々しいッ!!」


 クロトがコックピットの中で絶叫する。

 自分の復讐を邪魔する赤い機体。

 かつて恋人を奪った赤い悪魔が、今は別の誰かと支え合い、こちらの読みを外してくる。

 その事実が、クロトの狂気をさらに加速させた。


「殺す……! 貴様だけは、私がこの手で殺すッ!!」


 カーバンクルの胸部コアが、危険なまでに赤黒く明滅する。

 同時に、コックピット内も赤い光で満たされた。


 ~~~


 その凄まじい死闘を、シホ、ノエル、ユナの三人は、それぞれのコックピットから見るしかなかった。


 目の前には、なおも無人ファランクスがいる。

 エピメテウスの艦砲射撃が宇宙を裂き、三姉妹のイノセントも、艦へ迫る無人機を必死に撃ち落としていた。


 それでも、視線は何度も遠くの戦場へ引き寄せられる。


 レーダー画面には、常軌を逸した速度で飛び回る四つの光点と、飛び交う無数のエネルギー波が映し出されていた。


「……なんて動きなの。

 これが、プラズマリアクター搭載機同士の戦い……」


 ごくりと唾を飲み込むユナ。

 三人も、過酷な特訓を経て大きく成長した。

 無人機の群れを相手に、ただ守られるだけの存在ではなくなっている。


 だが、あの戦場に飛び込めばどうなるかは、痛いほど理解できた。

 一瞬で照準を置かれ、盾になることすらできずに宇宙の塵になる。


「くっ……ここを抜かせるわけには……!」


 シホは機体を翻し、迫るファランクスの弾道をかわす。

 機体を反転させ、粒子ライフルを三連射。

 艦腹へ回り込もうとしていた一機を撃ち抜いた。


『シホ、右です!』


 ノエルの警告と同時に、支援弾が飛ぶ。

 シホは小さく息を呑み、機体を傾けた。すぐそばを、無人機の粒子弾がかすめていく。


『ありがとう、ノエルさん!』


『あたしらは、あたしらの仕事をするしかないってことか……!』


 ユナは悔しげに歯を食いしばりながら、ミサイルを放つ。

 爆光が連なり、エピメテウスへ迫る無人ファランクスの群れが崩れた。


 加勢したい。

 けれど、加勢できない。


 圧倒的な性能差。

 自分たちは、烈火とリエンの戦いに干渉できない。


 その歯痒さを抱えながらも、三人にできるのは、艦を守り抜き、二人の無事を祈ることだけ───。


 だが、その時。

 ノイズまみれの通信が、エピメテウスの回線へ割り込んだ。


『ザザザ──エピメテウス! ザザ、聞こえるか!』


 戦闘空母プロメテウス、レゴン艦長の声だ。


『緊急事態だ! エリシオン本国が、ノヴァの強襲部隊による大規模な攻撃を受けている!

 プロメテウスはこれより大気圏へ降下し、救援に向かう!』


「本国が攻撃を!?」


「そんな……アズールがいるのに!?」


 ノエルとユナの声が重なる。

 シホはハッと息を呑み、カメラアイに映る灰色の機体と、蒼い機体を睨みつけた。


「……罠、だったんですね」


 ウイルスでエピメテウスの足を止め、烈火たちを宇宙の辺境に釘付けにする。

 そして、本国の守りが薄くなった瞬間を狙って、大軍で攻撃を仕掛ける。


 クロトと蒼火の二機は、烈火たちをこの宙域に留まらせるための時間稼ぎ。

 そう理解した瞬間、三人の背筋に冷たいものが走った。


 すべては、ノヴァの完璧な殺戮のシナリオだった。


 ~~~


 一方、宇宙空間の戦場。


 烈火のブレイズと、リエンのエルフィンは、互いのカバーリングによって敵を押し返しつつあった。

 だが、その余裕も長くは続かない。


「……ッォォオオォォォッ!!」


 クロトの狂気に満ちた絶叫が、通信回線を通さずとも、アニムスキャナーの精神波として宇宙空間に響き渡る。


 ズォォォォ───ッ!!


 突如、カーバンクルの胸から、どす黒い炎のような排熱が噴き出した。

 デブリに叩きつけられたはずの機体が、物理法則を無視するかのような加速で跳ね起きる。

 カーバンクルを取り巻く空間が歪み、悪魔が顕現したかのような、禍々しいプレッシャーが放たれた。


「……来やがったな。ヤツの『覚醒』だ」


 烈火はコックピットの中で、ぎりっと奥歯を噛み締める。

 以前にも一度、地上で相対した、復讐の狂気による機体の限界突破。


 だが、今回のそれは、以前とは明らかに異質だった。

 カーバンクルの中から、クロトの殺意とは違う、もう一つの精神波が悲鳴を上げて漏れ出している。


『……あぁっ……やめて……こわいよぉ……っ!』


「───ッ」


 エルフィンのコックピット。

 リエンは両手で頭を抱えた。


 カーバンクルの後部座席で強制的に恐怖を増幅させられているアイリス。

 その絶望を、ネクスターの共感能力が、ダイレクトに拾い上げてしまったのだ。


「……その子」


 リエンの瞳孔が、大きく見開かれる。

 まるで、かつて冷たい実験台の上で怯えていた、自分自身を見ているかのように。


 ───痛い。

 鋭い針が突き刺さる感覚。骨の髄まで響く激痛。

 痛い、痛い。冷たい手術台。凍えるような寒さ。

 痛い。怖い。


 何も感じない。もう怖くない。

 尊厳を犯されている。少しずつ死んでいく。

 薬の味。脳を焼く電撃。

 痛み。無機質な嘲笑。


『あああァァァッ……!!』


 カーバンクルの中から漏れ出すアイリスの絶望が、リエンの脳髄に直接流れ込んでくる。

 それは、かつてリエン自身が味わった地獄の記憶を、フラッシュバックさせるには十分すぎる毒だった。


「あ、あァ……」


 エルフィンのコックピットの中で、リエンのバイタルサインが急激に乱れ始める。

 呼吸が浅くなり、心拍数が危険な領域まで跳ね上がる。


 このままでは、精神が完全に飲み込まれる。

 ショックで意識を失うか、再び感情を失った部品へと戻ってしまう。


 リエンの意識が暗い泥濘へと沈みかけた、その時だった。


『──しっかりしろ、相棒』


「え……?」


 突如、リエンの精神を、暖かく、力強い熱が包み込んだ。

 まるで、誰かの大きくて分厚い腕に、背中からぎゅっと抱きしめられているような感覚。


 それは、エルフィンの胸の中で脈打つ、かつてのブレイズのプラズマリアクターに宿った意思だった。


『過去の幻影に囚われるな。お前はもう、独りじゃねえだろ』


 赤い気配は、リエンの精神へ入り込むアイリスの悲鳴を、その熱で弾き飛ばすように守ってくれた。


「……うん。わたし、ひとりじゃない」


 リエンの震えが止まり、瞳に再び強い光が宿る。

 恐怖はまだある。

 だが、それを上回る仲間の温もりが、少女を現実に引き留めていた。


 ~~~


 一方、戦場の中心。


 烈火のブレイズは、覚醒したカーバンクルによって、完全に防戦一方へと追い込まれていた。


 ズガガガギィィッ!!


「クソッ、なんて出力だ……!」


 カーバンクルの二丁のガンブレードが、常軌を逸した速度とパワーで振り下ろされる。

 烈火はシールドと大太刀で必死に防ぐが、その一撃一撃がブレイズの装甲を軋ませ、深刻なダメージを蓄積させていく。


 トップエース同士の戦いにおいて、覚醒による機体スペックの底上げは、戦局を完全にひっくり返すほどの決定的な差を生む。

 クロトの狂気と、アイリスの恐怖。

 二つの精神波を無理やり燃料にしたカーバンクルの動きは、もはや人間が反応できる限界を超えていた。


「この野郎ッ!」


 烈火もブレイズの出力をぎりぎりまで引き上げる。

 スラスターから赤い炎を噴き出し、どうにか致命傷だけは躱し続けた。


 だが、足りない。


 カーバンクルの斬撃を受けるたびに、シールドの表面が削られる。

 回避したはずの粒子弾が、肩や膝の装甲をかすめる。

 真正面から受けた一撃ではない。けれど、その細かな被弾が、確実にブレイズの動きを鈍らせていく。


「死ね! 死ねェッ! 赤い悪魔ァッ!!」


 クロトの絶叫と共に、カーバンクルのバックパックから拡散粒子砲が至近距離で放たれる。


「チィッ!」


 烈火は強引に機体を捻り、シールドで直撃を逸らした。

 だが、防ぎきれなかった粒子弾が、ブレイズの左肩の装甲を吹き飛ばす。


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