宇宙海賊エリシオンのお通りじゃあ!
「よくやりましたね、リエンちゃん。
完璧な手際でしたよ」
『……えへへ』
褒められたリエンが、少しだけ照れたように笑う。
「これで、敵の哨戒ルートと定時連絡の暗号コードが手に入ります。
……プラムくん、解析のほうは?」
『任せてよ、ノエル姉! こんな旧式の暗号、五分で丸裸にしてやるからさ!』
通信パネル越しに、エピメテウスの若きメカニック班長、プラムの頼もしい声が響く。
これこそが、作戦の第一段階。
敵の哨戒機を無傷で鹵獲し、その通信システムを乗っ取る。
そうすれば、定時連絡を偽装しながら、敵のレーダー網をすり抜けてコロニーへと接近することが可能になるのだ。
エピメテウスの格納ドック。
エルフィンのハッチが開き、ワイヤーリフトに乗ったリエンがゆっくりと降りてきた。
床に降り立ったリエンを迎えたのは、烈火と、シホ。
シホは黒髪と大き目の胸を揺らし、チラチラと烈火を見ている。
「お疲れさま、リエン。完璧な捕獲だったぜ」
「……うんっ」
烈火の大きな手が、リエンの頭を優しく撫でる。
リエンは嬉しそうに目を細め、烈火の手にすり寄った。
そんな二人を見て、シホもホッと表情を和らげる。
「これで、第一段階はクリアですね。
プラムくんの解析が終わり次第、コロニーへ潜入します」
今回の作戦は、この三人が実行部隊となる。
潜入や工作のプロである特殊部隊員のシホをリーダー。
内部を知り尽くしたリエンが案内役。
そして、圧倒的な戦闘力を持つ烈火が、二人の護衛を務める形だ。
「よし。それじゃあ、改めて潜入ルートと目標の確認だ」
烈火が表情を引き締めると、シホは手元の情報端末を操作し、空中にコロニー内部の立体マップを投影した。
「目標は、コロニーのBブロック。……以前は重要施設だったようですが、現在は使われなくなっている区域です」
「使われてねえ? なんでだ?」
烈火が首を傾げる。
シホはマップの一角を指差しながら、静かに説明を始めた。
「この区域を管理していた研究員たちが、全員死んでしまったからです」
「死んだ? いつの間に……あ」
烈火の脳裏に、小惑星アマツキでの光景が蘇る。
宇宙での決戦の際、ノヴァの研究者たちは輸送艇で逃亡しようとした。
だが、リエンがそれを許さなかった。
エルフィンのサブアームで輸送艇を握り潰し、彼らを皆殺しにしたのだ。
「そうです。あのアマツキにいた研究員たちが、この区域の責任者でした」
シホは端末の画面を切り替える。
「彼らは、ここの機密やセキュリティの暗号を抱え込んだまま、まとめて命を落としました。
ノヴァといえども、最高レベルのロックを外部から解除するのは容易ではありません。
引継ぎ手続きが完全に滞り、実質的に放棄されている状態なんです」
「なるほどな。管理者不在の空き家ってわけか」
「はい。警備のドローンや巡回ルートも、当時のまま更新されていません」
シホの言葉に、リエンが小さく頷く。
「……うん。あの人たち、じぶんの部屋にだれもいれたがらなかったから。
セキュリティ、わたし、わかる」
当時の研究員たちは、自分たちの研究成果を独占するため、異常なほどのロックをかけていた。
だが、実験体としてこき使われていたリエンは、そのロックの解除手順を何度も見ているのだ。
「だから、そこを狙います。誰も近づかない、いわば死角です。
リエンちゃんの案内があれば、中枢サーバーまで一気に辿り着けます」
「よし。俺たちが道中を守る。リエン、頼んだぜ」
「……まかせて」
烈火の言葉に、リエンは強く頷き返した。
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偽装通信の解析が完了し、エピメテウスから一機のイノセントが発進した。
操縦するのは、年少巨乳の優等生、『ユナ・ヴォルタ』!
今回の作戦で、ユナは脱出時の待機要員と、通信によるサポートを担当する。
イノセントの両手には、偽装用の資材を積んだ大型の輸送コンテナが抱えられていた。
そのコンテナ内部の暗がりで、烈火、シホ、リエンの三人は、息を潜めて外の様子をうかがっている。
『コロニーが見えてきたよ。……うわぁ、相変わらず悪趣味なデザイン』
通信パネル越しに、ユナの呆れたような声が響く。
コンテナの隙間から覗く、ノヴァ・ドミニオンのスペースコロニー『C-9』。
それは、巨大なセンターユニットを中心に、いくつもの岩塊が円形に並べられた、異様な姿をしていた。
小惑星のデブリをそのまま持ってきたかのような岩塊群は、無数の太いスポークで中心部と縫い付けられ、巨大な車輪のように連なっている。
岩塊の内部をくり抜き、居住区画や研究施設として利用しているのだ。
コロニー全体がゆっくりと回転しており、その遠心力によって人工重力を発生させていた。
「あれが、リエンのいた場所か……」
烈火は眉をひそめ、巨大な岩塊を睨みつける。
隣でリエンが小さく震えるのが分かった。
烈火は無言で、リエンの小さな肩を抱き寄せる。
「ん……」
リエンは烈火の腕の温もりに触れ、少しだけ震えを収めた。
『目標の輸送船、捕捉。……作戦通り、いくよ』
ユナの声がワントーン下がる。
コロニーの入港ゲートへ向かって、ノヴァの民間輸送船がゆっくりと進んでいた。
ユナのイノセントは、デブリの影を利用して、その輸送船の死角へと忍び寄る。
『──今っ!』
イノセントがスラスターを全開にし、輸送船の横腹へと急接近。
逃げる間も与えず、巨大なE粒子マシンガンの銃口をブリッジへとピタリと突きつけた。
「ヒィッ!?」
輸送船のブリッジから、クルーたちの悲鳴が聞こえてくるようだ。
装甲の薄い民間船に、コマンドスーツの武装を防ぐ術はない。
『あーあー、聞こえてるね! こちら海賊! 死にたくなければハッチを開けろォ!!』
一瞬で制圧された輸送船は、おとなしくエアロックのハッチを開放した。
「よし、行くぞ!」
「了解!」
「……うん」
烈火はコンテナの扉を蹴り開け、真空の宇宙空間へ飛び出す。
シホとリエンも、宇宙用の推進バックパックを吹かして後に続いた。
三人はエアロックから輸送船の内部へ侵入。
ブリッジへ続くハッチをこじ開けると、怯えきったノヴァのクルーたちが両手を上げていた。
「た、助けてくれ! 俺たちはただの運び屋で──」
ドンッ!
「ぐあっ……」
クルーの命乞いは、烈火の強烈な拳によって強制終了させられた。
抵抗する間もなく、クルーたちは次々と床に崩れ落ち、まとめて気絶する。
「ふぅ。とりあえず、足は確保したな」
烈火は拳を軽く振りながら、気絶したクルーたちを部屋の隅へ転がした。
「鮮やかな手際ですね、烈火さん」
感心したように頷くシホ。
言いつつ、素早く操縦席へと座る。
「システム・ハック完了。……これより、この船でC-9の搬入口へ入港します」
カチャカチャ、ッターン!
シホの指がコンソールを叩き、輸送船の進路がコロニーの内部へと向けられる。
そして、立ち上がると、船内を見回した。
「うーん……」
気絶したクルーたちを見下ろしながら、シホは素早く彼らの顔立ちや体格を見定めていく。
「……彼女にしましょう」
シホは、自分と一番背格好の似ている女クルーを指差した。
無造作に彼女を引き寄せると、手早く作業着とIDカードを剥ぎ取っていく。
その間、烈火とリエンは船内の貨物室を物色していた。
「おい、リエン。これなら二人入れそうだぞ」
烈火が見つけたのは、通信機器の部品が入っていた、巨大な金属製の箱。
中身の緩衝材や部品を床に放り出し、代わりに二人で身を潜める。
大柄な烈火と小柄なリエンが密着すれば、なんとか収まるサイズだ。
「よし、シホ。こっちは準備できたぜ」
「こちらも終わりました」
箱の中から烈火が声をかけると、シホがひょっこりと顔を出した。
奪った作業着に着替えたシホだが、元の持ち主より胸のサイズが二回りほど大きかったらしい。
作業着の胸元ははち切れんばかりに張り詰め、ファスナーが悲鳴を上げている。
どう見ても、不自然なほど巨乳な作業員だ。
「……お前、それ無理がないか? 胸がつっかえてるぞ」
「大丈夫です、作業員っぽく見えれば。……それに」
シホは顔を赤らめながらも、烈火に向かって艶っぽくウィンクをした。
「……本国では、そろそろ『一夫多妻法』が通りそうなんですって。戦力確保の観点から」
「は……?」
「もし法案が通ったら、私も……烈火さんのところに……」
もじもじと身をよじるシホ。
そのたび、破格のボリュームが作業着を押し上げる。
思わず息を呑む烈火。
言葉に詰まった、その時。
ガコンッ!
鈍い衝撃とともに、輸送船の動きが止まった。
コロニーの入港ゲートへ到着したのだ。
「……っ! と、到着したみたいですね。じゃあ、行きますよ!」
シホは慌てて真面目な顔を取り繕い、烈火たちの入った箱を載せたホバーカートのハンドルを握った。
箱の中の烈火は、色々とツッコミたい気持ちを押し殺し、リエンと共に息を潜める。
プシュゥゥゥ……。
エアロックのハッチが開き、コロニー内部の人工的な空気が流れ込んできた。
「身分証の提示を」
ゲートで待ち構えていたノヴァの武装警備兵が、退屈そうに声をかけてくる。
シホは帽子を深く被り直し、奪ったIDカードを端末にかざした。
「通信機器の交換部品です。Dブロックの管理区画へ」
「……ん? お前、随分と……」
警備兵の視線が、シホのはち切れそうな胸元に釘付けになる。
シホは愛想笑いを浮かべながら、カートを少し前に押し出した。
「なにか、問題でも?」
「い、いや……通ってよし」
警備兵は鼻の下を伸ばしたまま、ゲートの通過を許可した。
シホは内心で冷や汗をかきながらも、堂々とした足取りでコロニーの深部へと歩き出した。




