エルフィンよ強くなれ! プラズマリアクター搭載!
漆黒の宇宙空間。
無数の星々が瞬く静寂の中、巨大な岩の塊がゆっくりと自転していた。
エリシオンの最前線拠点、小惑星基地『アマツキ』だ。
ゴツゴツとした無骨な岩肌には、人工的な装甲板や無数のアンテナが突き出している。
遠目にはただのデブリに見えるその小惑星に、視点を近づけていく。
岩の裂け目から漏れる、温かな人工の光。
分厚い隔壁を抜け、さらに奥深くへと進むと、そこには活気に満ちた空間が広がっていた。
アマツキ内部の大食堂。
遠征任務に就く兵士やメカニックたちが、あちこちのテーブルで賑やかに声を上げている。
過酷な宇宙空間にありながら、ここは確かな命の熱気で満ちていた。
その食堂の片隅。
賑わう周囲から少し離れたテーブルで、三つの影が身を寄せ合っていた。
真ん中にちょこんと座っているのは、純白の長い髪を持つ小柄な少女、リエンだ。
その両脇を陣取るように、赤毛の烈火と桜色の髪の兎歌が座っている。
テーブルの上に置かれているのは、四角い容器に入った白い物体。 お湯で戻した、冷凍キューブのおかゆである。
宇宙食特有の味気ない見た目だが、立ち上る湯気からは微かに鶏出汁の香りが漂っていた。
「はい、あーん。熱いから気をつけてね」
兎歌はスプーンでおかゆをすくい、ふーふーと息を吹きかけて冷ます。 そのまま、そっとリエンの口元へと運んだ。
リエンは少しだけ目を瞬かせ、小さな口を開く。 はむり、とスプーンをくわえ、ゆっくりと咀嚼を始めた。
「ん……」
「どう? 美味しい?」
兎歌は我が子を見るような、愛情たっぷりの眼差しで尋ねる。 リエンはこくりと頷き、ぽつりと呟いた。
「……あたたかい」
その一言に、兎歌の顔がパァッと明るくなる。
「よかったぁ! もっといっぱい食べて、元気にならないとね!」
烈火は頬杖をつきながら、その様子を呆れたように眺めていた。
とはいえ、烈火の口元も自然と緩んでいる。
「おいおい兎歌。お前、完全に過保護な母親になってるぞ」
「だって、リエンちゃん細すぎるんだもん。ちゃんと食べさせないと心配でしょ」
兎歌は口を尖らせて反論し、再びスプーンでおかゆをすくう。
烈火は苦笑して、リエンの頭を無造作に撫でた。
「ま、たしかにガリガリだからな。しっかり食って肉つけろよ。ほら、次は俺が食わせてやる」
烈火も別のスプーンを手に取り、おかゆをすくってリエンに差し出す。
「ほら、あーん」
「……れっか、ざつ」
「んだと!? せっかく食わせてやろうってのに!」
顔をしかめる烈火。
文句を言いながらも、リエンは烈火の差し出したスプーンを素直に口へ含んだ。
無表情だったリエンの顔に、ごくわずかだが、柔らかな色が宿っている。
かつてノヴァの実験体として、恐怖と苦痛だけを与えられてきた少女。
兵器の部品として扱われていたリエンにとって、この温かな食事の時間は、何よりも得難いものだった。
リエンがもぐもぐと口を動かすたび、歳の割にふくよかな胸が微かに揺れる。
隣に座る兎歌もまた、服を押し上げるほどの見事な双丘を持っていた。
二人の無防備な姿に、烈火の男としての視線がほんの少しだけ奪われる。
だが、それ以上に湧き上がってきたのは、腹の底から熱く込み上げる、強い『庇護欲』。
((この温かい時間を、絶対に奪わせはしねぇ))
烈火は力強く決意する。
傷だらけになりながらスラムを共に生き抜いた、最愛の女である兎歌。
地獄のような実験施設から助け出し、ようやく人間の心を取り戻しつつあるリエン。
この二人の笑顔を守るためなら、どんな敵だろうと焼き尽くしてやる。
烈火は小さく息を吐き、自身のトレイに視線を落とした。
「さて、俺たちも食うとするか」
「うんっ! いっただっきまーす!」
烈火の目の前には、山積みにされた肉の塊があった。
宇宙食用の冷凍キューブを解凍し、鉄板で焼き上げた特大ステーキである。
それが、トレイの上に五食分も積み重なっている!
超人である烈火の身体は、常人の数倍のカロリーを常に要求するのだ。
烈火はフォークで分厚い肉を突き刺し、豪快に噛みちぎった。
「あぐっ、あぐっ、あぐっ」
「ふふっ、美味しそう」
一方の兎歌のトレイも、負けず劣らずの惨状だった。
ハンバーグ、エビフライ、唐揚げ、そして山盛りのピラフ。
それらが一つのプレートに限界まで盛り付けられた、特盛ミックスランチである。
兎歌もスラムでの極限の飢餓を経験しているため、食べられる時に限界まで食べる癖がついているのだ。
「あ、烈火。そのお肉、一口ちょうだい」
「ん? ああ、ほらよ」
烈火が切り分けた肉を差し出そうとすると、兎歌はいたずらっぽく笑った。
「そうじゃなくて。あーん、して?」
「……お前なぁ、周りに人がいるんだぞ」
「いいからいいから! ほら、あーん!」
大きく口を開けて待機する兎歌。
烈火は周囲の整備士たちがニヤニヤとこちらを見ているのに気づき、顔をしかめた。
だが、兎歌の期待に満ちた視線には逆らえない。
諦めて肉を口へ運んでやる。
「んふふー、美味しいっ!」
満面の笑みを浮かべる兎歌。
すると、兎歌は自身のフォークに大きなエビフライを突き刺した。
「はいっ、お返し! 烈火も、あーん!」
「俺は自分で食えるっての……んぐっ」
有無を言わさず、口にエビフライをねじ込まれる。
烈火はむせそうになりながらも、サクサクの衣を咀嚼した。
そんな騒がしくも微笑ましい二人を、リエンは不思議そうな、けれどどこか安心しきった瞳で見つめていた。
和やかな食事の時間が続く。
だが───
その平穏は、唐突に破られた。
ピピ───ッ。
テーブルに置いていた情報端末が、無機質な電子音を鳴らす。
「……通知? 誰からだ?」
烈火は手を伸ばし、画面に表示されたメッセージを確認した。
「どうしたの、烈火?」
兎歌が顔を寄せてくる。
烈火は眉をひそめ、画面の文字を読み上げた。
「格納庫からの呼び出しだ。……リエンにな」
その言葉に、リエンの肩がビクッと跳ねる。
「わたし、に……?」
「ああ。メカニックの菊花から。
エルフィンの調整が終わったから、一度確認に来いってさ」
軍人は忙しい。
特に、戦線を任されるトップエースともなれば、悠長に食休みをしている暇はないのだ。
烈火は残りのステーキを瞬く間に胃袋へ放り込み、兎歌も特盛のランチを綺麗に平らげた。
三人はトレイを重ねて、配膳カウンターへと向かう。
「おばちゃん、ごちそうさん! 今日も美味かったぜ!」
「ごちそうさまでしたっ!」
烈火と兎歌が元気よく声を張る。
リエンも二人の真似をして、小さく頭を下げた。
孤児院のころ、ヴァイスマンに徹底的に叩き込まれた礼儀だ。
どんなに急いでいようと、命の糧を作ってくれた相手への感謝は忘れない。
食堂のおばちゃんが笑顔で手を振り返してくれるのを見てから、三人は格納庫へと続く通路を歩き出した。
とっとっとっ……
しかし、小柄なリエンの歩幅では、急ぎ足の烈火たちにどうしても遅れてしまう。
烈火は少し歩いたところで足を止め、ふいにかがみ込んだ。
「おっと」
「わっ……?」
ヒョイ。
烈火はリエンの軽い体を持ち上げ、自分の首をまたがせるようにして高い位置へ乗せた。
肩車だ。
「この方が早えからな。落ちないように、しっかり掴まってろよ」
「……うん」
リエンは戸惑いながらも、烈火の頭に小さな両手を添える。
烈火の広い肩の安定感と、そこから伝わる確かな体温。
リエンの顔には、自然と嬉しそうな色が浮かんでいた。
「ふふっ」
その様子を隣で見上げながら、兎歌も楽しげに笑う。
「ふたりとも、すっかり仲良しだね。わたしも肩車、してもらおっかなー?」
「バカ言え。お前を乗せたら重くて首が折れる」
「もーっ! 乙女に向かって重いって言わない!」
軽口を叩き合いながら、エレベーターを乗り継ぐ。
やがて分厚い扉の向こうに、広大な地下格納庫の空間が広がった。
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ゴゴォーン……グオォーン……
「よーし、ケーブル離せー!」
「2番、3番、電源よし!」
「なんだか知らんが とにかくヨシ!」
オイルと金属の入り混じった匂いが漂う格納庫。
その中で、ひと際巨大なシルエットが、整備用のアームに固定されている。
水色の装甲と、十二本ものサブアームを内蔵したマトリクスユニットを持つ異形の機体。
『エルフィン・ザ・アネモネアームド』
現在、エルフィンの胸部装甲は大きく開かれ、太いケーブルが何本も接続されて改修作業を受けている。
その奥で、脈打つように赤く発光している心臓部。
それはかつて、烈火の『ブレイズ』に搭載されていた、プラズマリアクターだった。
ブレイズが新型のコアへ換装されたことに伴い、このエルフィンへと移植されたのだ。
「おお、来たな。待っとったで!」
足場の上から、聞き慣れたコテコテの関西弁が降ってきた。
橙色のおだんごヘアにゴーグルを乗せたメカニック班長。
菊花・メックロード。
ツナギの胸元を大胆に開けた菊花は、リフトを操作して、烈火たちの目の前まで降りてくる。
「おう、キッカ。調子はどうだ?」
「バッチリや! エルフィンの出力調整も、ええ感じに仕上がっとるで」
菊花は腰に手を当てて、ニカッと笑った。
ノヴァの基地に拉致され、酷い拷問を受けかけたあの日の傷跡は、もう見当たらない。
ゲイルに救出されたことで、過去の恐怖を乗り越え、本来の快活な笑顔を取り戻しているのだ。
「リエンも、だいぶ顔色ええやんか。
ちゃんと飯食ってきたか?」
「……うん。おかゆ、あたたかかった」
烈火の肩の上からリエンが頷くと、菊花は満足げに目を細めた。
リエンもまた、エリシオンに来たばかりの頃の怯えはすっかり消え去っている。
傷ついた者たちが、互いの温もりに触れて、確かな生命力を取り戻していく。
烈火は二人の元気な姿を見て、胸の奥が温かくなるのを感じていた。
「ほな、さっそく最終チェックや。リエン、着替えてエルフィンに乗ってくれ」
「……わかった」
菊花の指示に、リエンは烈火の肩からするりと降りる。
すると、その場で迷いなく着ていた服の裾を掴み───
あっさりと脱ぎ始めた。




