合体ブレイズ VS 機動要塞クラーケン!
『烈火! 上から、巨大な熱源反応が来るよ!』
兎歌の叫びがコックピットに響いた。
直後───
ゴォ……ッ!
猛吹雪の雲を割り、巨大な影がプロメテウスの頭上へと降下してくる。
「……またデカブツのお出ましか」
烈火はブレイズの動きを止め、上空を睨みつけた。
全長50メートル。
円盤型の分厚い装甲から、タコのように多数の武装アームが伸びる、異形の機動要塞。
ノヴァ・ドミニオンが量産し、世界各地で破壊の限りを尽くしている新兵器───
『クラーケン』だ。
ズズズン……ッ!
雪原に重々しく着陸したクラーケンの触手アームが、不気味に蠢く。
無数の機銃とミサイルポッドが展開され、アームの先端に備えられた荷電粒子砲が青白い光を帯びる。
そして、円盤の中央───巨大な「目」のような主砲のレールガンが、ブレイズとプロメテウスを真っ直ぐに捉えた。
「上等だ。……何匹束になってこようが、全部まとめてスクラップにしてやる!」
烈火は獰猛な笑みを浮かべ、大太刀を構え直した。
赤黒い炎を纏う赤い悪魔と、雪原に降り立った異形の要塞。
戦いは、最終局面へと突入しようとしていた。
ゴォオオオ───
機動要塞『クラーケン』は、無数の武装アームを展開。
一斉射撃の体勢に入る。
だが、烈火の動きは、さらに速い!
「先手必勝だ!」
烈火は構えた『フェーズドライフル』のトリガーを引く。
極太の青白い熱線が放たれ、クラーケンの正面装甲に直撃!!
ズガァァァンッ!
分厚い粒子偏光装甲が光を歪めて防ごうとするが、規格外の出力の前に装甲表面が焼け焦げ、火花が散る。
同時に、兎歌も合体ブレイズの脚部に備えられたレールガンを起動。
『させないッ!』
連続して放たれた実弾の雨が、クラーケンから発射されようとしていたミサイルの群れを空中で迎撃!
ミサイルは次々に誘爆!
『迎撃しろ! 対象を消し炭にしろ!』
クラーケンの内部から響くのは、焦燥に駆られたノヴァ兵の通信。
残ったアームの先端から、一斉に荷電粒子砲が放たれた。
青白い光の奔流が、十字砲火となって合体ブレイズを包み込もうとする。
「遅ぇよ」
烈火は鼻で笑い、スラスターを全開にして雪原を滑るように加速した。
赤黒い炎が残像を描き、ビームの雨を紙一重で回避しながら、クラーケンの懐へと一気に肉薄。
「オラァッ!」
フェーズドライフルの銃身下部に展開した巨大な粒子ブレードと、左腕から展開されるE粒子ブレード。
烈火は二刀流の構えから、すれ違いざまにコマのように機体を回転させた。
斬───ッ!!
赤い閃光が交差する。
クラーケンから伸びていた太い武装アームが、いとも容易く二本、根元から切り飛ばされた。
切断面から火花と冷却液が吹き出し、雪原にアームが重い音を立てて落ちる。
「……なぁ、兎歌」
『うん、烈火と同じこと考えてるよ』
飛び交う機銃の弾幕を『翼型粒子防壁』で弾きながら、二人はコックピットの中で小さく頷き合った。
二人の脳裏に浮かんでいるのは、かつて自分たちを追い詰めた、青い異形の機体───。
『エルフィン・ザ・アネモネアームド』。
現在、小惑星『アマツキ』に封印されている、リエンの搭乗機の姿だった。
「リエンのあのデタラメなアーム捌きに比べりゃあ、コイツは止まってるも同然だぜ」
『動きが単調すぎるよね。並列処理が全然追いついてないみたい』
エルフィンは、リエンというネクスターの異常な並列処理能力があって初めて成立していた、封印機体だ。
それを、通常のパイロットやAIで強引に動かそうとしているクラーケンのアームは、烈火たちから見れば、的が大きくて遅いだけの「案山子」に過ぎなかったのだ。
「悪いが、練習台にもならねぇな!」
烈火は合体ブレイズを再加速させ、クラーケンの死角へと回り込む。
『右舷から来ます! 主砲、振り向けっ───』
「遅いって言ってんだろ!」
クラーケンの巨大なレールガンが、砲身を向けようとした瞬間───
兎歌がレールガンで、その砲身の付け根を正確に撃ち抜いた。
ガキンッ!
鈍い音とともに、主砲の旋回機構が完全に沈黙する。
「トドメだァァッ!」
烈火は機体を跳躍させ、空中からクラーケンの円盤状の本体へ向けて、二刀流のブレードを十文字に振り下ろした。
ガリガリガリッ!!
装甲が裂け、内部の回路が爆発!
轟音が響き渡る。
クラーケンの円盤部分が大きく半壊し、黒煙を吹き上げながら雪原に沈み込んだ。
『エルフィン・ザ・アネモネアームド』と、この『クラーケン』。
二つの機体設計は、偶然にも、非常に酷似したコンセプトを持っていた。
だが、戦場における「脅威度」は天と地ほども離れている。
決定的な違いは、二つ。
一つ目は、単純なサイズの問題だ。
エルフィンと同じ「多腕による全方位攻撃」を行うために、クラーケンは機体サイズを50メートルという巨大な要塞クラスにまで肥大化させてしまっている。
大火力を積める代わりに、機動力は皆無のこの機体。
烈火のような超絶的な機動を誇るエースにとっては、ただの「的がデカいサンドバッグ」でしかなかった。
二つ目は、制御システムの違いである。
クラーケンの多数のアームは、高性能なAIによって制御されている。これにより、通常のパイロットでも「右を攻撃しろ」「左を防御しろ」といった大雑把な命令だけで、AIが自動でアームを動かして陣形を組んでくれるのだ。
だが、それはあくまで「パイロットが思った通りに動く」というだけに過ぎない。
リエンのようにな人間の限界を超えたネクスターの処理とは、根本的に精度が違うのだ。
リエンは、12本のアーム一つ一つに「数センチ単位の完璧な攻撃・防御の軌道」を常時命令し続けることができる。
だが、一般兵にそんなものはムリだ!
パイロットの思考が遅く、命令が大雑把であれば、AIが導き出す答えもまた、単調で遅いものになる。
ゆえに、烈火にとっては攻撃の予備動作が丸見えだった。
「……あばよ、鉄屑」
烈火はブレードを引き抜き、完全に沈黙したクラーケンから距離を取ろうとした。
だが。
腐っても、相手は大量の兵器と強固な装甲を誇る機動要塞だ。
『……っ!?』
兎歌が息を呑む。
リベルタのコンソールに、突如としてレッドアラートが乱舞した。
『烈火、離れて! クラーケンの内部反応が、急激に増大してる!』
「なんだと?」
グポォ───ン
半壊し、沈黙していたはずのクラーケンの巨大なカメラアイに、不気味な赤い光が再び灯った。
同時に、切り飛ばされずに残っていた数本の武装アームが、異常な速度でウネウネと蠢き始める。
まるで、死後硬直を解かれた蛇のようだ。
『道連れだァァッ!! 赤い悪魔ァッ!!』
スピーカーから、ノヴァ兵の狂乱した絶叫が響く。
ガシッ! ガガシッ!
「チッ!」
放たれたアームが、合体ブレイズの脚部と腰部に、強固に絡みついた。
アームの先端がアンカーのように変形し、ブレイズの装甲に深く食い込む。
『離してッ!』
兎歌は機銃でアームを撃ち払おうとした。
が、クラーケンは残り全てのアームを絡みつかせ、ブレイズを自らの巨体へと力任せに引き寄せようとする。
「こいつ……!」
『リアクターを暴走させてる! このままブレイズを捕まえて、自爆するつもりだよ!』
兎歌の悲鳴に近い声。
クラーケンの円盤部分から、メルトダウン寸前のプラズマリアクターの眩い光が漏れ出し始めていた。
機動要塞の自爆。
至近距離で巻き込まれれば、いかに合体ブレイズの防壁があろうと、無事では済まない。
「道連れにしてやる! ここで死ね、エリシオンの悪魔ァッ!」
クラーケンの内部では、ノヴァの指揮官が狂気に満ちた笑い声を上げる。
無数のアームがブレイズに食い込み、もはや脱出は不可能に思えた。
プラズマリアクターの光が臨界点に達しようとし、白い閃光が周囲を包み込もうとした───その瞬間だった。
ズガァァァァァァァンッ!!!
突如、横殴りの凄まじい砲撃の雨が、クラーケンの巨体を側面から無数に貫いた。
『なっ……!?』
指揮官の驚愕の声が途切れる。
クラーケンの分厚い装甲が、次々と紙のようにぶち抜かれ、内部から火柱が噴き上がった。
『やらせるかぁっ! 英雄を死なせるな!』
『撃て! 全弾撃ち尽くせェッ!』
通信回線から聞こえてきたのは、血を吐くようなエリシオン兵士たちの怒声だった。
放たれたのは、直掩任務から持ち直した『イノセント』部隊の、レールガンの一斉射撃。
そして───
『最大戦速! 主砲、てーッ!!』
レゴン艦長の勇ましい号令と共に、戦闘空母『プロメテウス』のE粒子キャノンが火を吹いたのだ。
ドゴォォォォォォォォンッ!!!
戦艦級の主砲の直撃。
いくら機動要塞といえど、全方位からの部隊の集中砲火と、戦艦の圧倒的な火力には耐えきれるはずもない。
バチバチバチッ!!
臨界に達しようとしていたクラーケンのリアクターが、砲撃の衝撃でシステムダウンを起こし、危険な輝きが急速に失われていく。
ブレイズを捕らえていたアームは、プロメテウスの砲撃の余波で次々と千切れ飛び、クラーケンの巨体は完全に力尽き、ドスンと雪原に沈黙した。
「……はっ、流石はうちの自慢の仲間たちだ」
烈火はコックピットの中で、ニヤリと笑みを深めた。
ノヴァの指揮官は、決定的なことを見落としていたのだ。
合体ブレイズの真の強さは、単なる火力や機動力ではない。
絶体絶命の窮地に陥った仲間を、的確な動きで護り抜くその姿。
そうして護られた仲間たちは、決して逃げることなく、今度は自分たちが盾となり、剣となってブレイズを助ける。
それこそが、エリシオンという軍隊の最大の武器、「絆」という力だった。
『ありがとな、みんな。助かったぜ』
烈火は悠々とブレイズを捻り、絡みついていた残りのアームを力任せに引きちぎる。
そして、赤黒い炎をゆっくりと収束させながら、歓声に沸くプロメテウスの方へと振り返った。
『……もう、心配ばっかりかけるんだから』
兎歌が安堵の溜息をつく声が聞こえる。
烈火は首に巻かれた不格好な手編みのマフラーを軽く撫で、操縦桿を引いた。
「さぁ、帰ろうぜ。美味いメシが待ってる」
吹雪が晴れ、雲の隙間から冷たい日差しが差し込む雪原。
赤い悪魔は、仲間たちの待つ母艦へと、堂々たる足取りで帰還していくのだった。




