ブレイズの新たなる力、『ベリアル・コア』の真価
「ボクは───究極の人類。そうだろう?」
アルタイル・ノヴァは、ノヴァ総帥フレギアが遺伝子工学の粋を集めて創り出した「究極の人造人間」である。
その超演算能力は、エリシオンの作戦参謀ギンと完全に同等───
あるいは、処理速度においては『凌駕』しているかもしれない。
だが、彼には決定的に欠けているものがあった。
それは、「100年という時間をかけた、泥臭い失敗の経験」だ。
ギンは、数万回にも及ぶシミュレーションの中で、何度も何度も人間の感情という「不合理なエラー」に直面し。
その度に計算を
失敗し、
絶望し、
そして、修正と更新を繰り返してきた。
人間がどれほど愚かで、どれほど簡単に恐怖に流され、そして───
どれほど強く誰かを『信じる』力を持っているか。
それを、ギンは100年の孤独の中で、嫌というほど学んでいた。
アルタイルは、その「失敗の歴史」を知らない。
だからこそ、セレーナの、たった数分間の演説が、
完璧に計算されたプロパガンダを、打ち崩していく光景が、
彼には、ノイズにしか見えなかったのだ。
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「……チッ。温室育ちのお人形サンにしちゃあ、なかなか良い演説じゃねぇか」
混乱と戸惑いが広がる、群衆の最後尾。
ガロ・ルージャンは、低く舌打ちをした。
群衆の熱は急速に冷めつつある。
暴徒化してゲートを突破する勢いは、完全に削がれてしまっていた。
「ま、最高傑作だかなんだか知らねぇが、アルタイルの坊ちゃんは計算が甘いな。
人間の心ってのは、方程式通りには動かねぇんだよ。経験不足だぜ」
だが、ガロの顔に焦りはない。
むしろ、獲物を狩り終えた獣のような、満足げな笑みを浮かべていた。
「だがまぁ、俺の仕事は十二分に果たした。
いくら誤解が解けようが、群衆が退いてから急いで出撃したところで、到底間に合わねぇ。
……時間は、たっぷりと稼がせてもらったぜ」
ガロはフードを深く被り直す。
そして、立ち尽くす群衆の影に紛れ、ひっそりとその場から姿を消した。
自らの愛機『シームルグ』が待つ、秘密の降下ポイントへと向かうために。
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『私たちは、決してあなたたちを見捨てません。……どうか、信じて───』
セレーナの祈るような演説は、ノルヴァルドの空を越え、猛吹雪の雪山をも越えて、ある機体のコックピットにまで届いていた。
『……電波、復帰したね』
「ああ。流石は代表様だ。いい声してやがる」
分厚い氷の壁を突き破り、雪崩の底から生還した赤と白の機体。
蒼火を避難小屋に残し、ブレイズとリベルタは再起動。
そして、すぐさま合体した。
その規格外の出力による、強引な力業で、底なしのクレバスから一気に空へと脱出してきたのだ!
上空へ飛び出したことで猛吹雪の磁気嵐から抜け出し、途絶していた通信がようやく復帰した。
そして、それと同時に、プロメテウスからの悲痛なSOS信号と、膨大な敵のレーダー反応がコンソールを埋め尽くす。
「待たせたな、みんな。……随分とド派手にやられてるじゃねぇか」
ホログラムモニターに映る、黒煙を上げるプロメテウスの姿。
烈火は操縦桿を握り締め、コキキッと拳の関節を鳴らした。
『いくよ、烈火! コクレアシステム、出力全開!』
「ああ、ぶっ飛ばすぜ!」
兎歌の力強い声に呼応し、合体ブレイズの背部からプラズマの翼が猛烈な勢いで吹き出した。
赤い悪魔と白亜の翼が、絶対防壁と破壊の光を纏いながら、仲間を救うため、氷の空を音速で駆け抜けていく!
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ズガァァァァンッ!!
「ぐあっ……!」
『四番機、シールド消失! 後退しろ!』
プロメテウス周辺の空域は、完全に地獄と化していた。
直掩として奮戦していた精鋭のエリートパイロットたちが操る『イノセント』部隊も、圧倒的な数の暴力に押されていた。
次々と被弾し、装甲を削られ、追い詰められていく。
どんなに彼らの技量が高かろうと、プラズマリアクター搭載機でないイノセントには、稼働時間と防御力に明確な限界があったのだ。
『くそっ……狙撃が間に合わん!』
マティアスも、苦渋の声を漏らす。
地上に展開したコマンドロボから支援を続けるが、とても足りないのだ。
本来、マティアスやギゼラの戦力評価は一個大隊相当。
仮にこの数の敵を相手に戦い続けたとしても、時間をかければ2機で全滅させるだけの実力は持っている。
((だが、それは「自身が回避に専念でき、守るべき拠点がない場合」に限られる……))
プロメテウスという巨大な的を守りながら、四方八方からの攻撃をすべて捌き切る。
それは、いかなるエースにとっても不可能に近い芸当だ。
それでも、100を超える大軍勢を相手に、一桁の機体で母艦を守り、しのいでいられるのは、人間の上限に近い技量があるから。
とはいえ、このままでは───
バシィィィンッ!
「しまっ……!」
ファランクスの荷電粒子砲が、イノセントの一機のシールドを破り、左腕を根元から吹き飛ばした。
バランスを崩したその機体へ向けて、上空を旋回していた無数のノヴァの無人戦闘機群が、トドメとばかりに一斉に機首を下げる。
「うわぁあああっ!」
パイロットが死を覚悟し、目を閉じた、その瞬間───
ギュオォォォォォォンッ!!
極太の熱線が二筋、猛烈な速度で空間を切り裂いた。
リベルタ・ザ・ターミガンの背部から放たれた『E粒子キャノン』の拡散砲撃だ!
ズドォォォォォォォォォォンッ!!!
空を覆い尽くさんばかりに殺到していた、無人戦闘機の群れ。
それが、たった二発の砲撃で、文字通り「まとめて蒸発」した。
凄まじい爆発の連鎖が空を真っ赤に染め上げ、衝撃波が雪煙を吹き飛ばす。
「な、なんだ……!?」
腕を失ったイノセントのパイロットが、呆然と空を見上げた。
燃え盛る爆炎と煙を、鋭い刃のように真っ二つに切り裂いて、それは「降臨」した。
『遅れて悪かったな。……ここから先は、一歩も通さねぇぜ』
プロメテウスの真正面、敵の全火力が集中する最も危険な特等席。
そこに立っていたのは、赤と白の装甲が融合した姿───合体ブレイズ。
その背中からは、未知の拡張機能『ベリアル・コア』がもたらす、悪魔の翼のような赤黒い炎が、凄まじい勢いで吹き荒れている。
『烈火! 兎歌!』
「うおおおおっ! 赤い狂犬が帰ってきたぞ!」
『勝った! これで勝てるぞ!』
プロメテウスのブリッジから、そして各機の通信回線から、割れんばかりの歓声が巻き起こった。
絶望の淵に立たされていた兵士たちの顔に、希望の光が点る。
最強の矛と、絶対の盾。
エリシオンが誇る無敵の英雄が、ついに戦場へと帰還したのだ。
「ふぅー……ッ」
赤黒い炎を纏った合体ブレイズが、雪原に降り立つ。
その瞬間、戦場の空気が一変した。
『さぁ、反撃の狼煙だ! 兎歌!』
『うんっ! コクレアシステム、出力全開!』
烈火の野性的な咆哮と、兎歌の凛とした声が重なる。
合体による粒子の循環───コクレアシステムが、ブレイズの内部で唸りを上げ、プラズマリアクターの出力を異常な領域へと引き上げていく。
「まずは、あの鬱陶しいハエどもからだ!」
烈火が右手に握ったのは、新たなる超火力兵装『フェーズドライフル』。
銃口が青白く発光した直後、放たれた熱線が雪原を一直線に舐めた。
ズォオオオオッ!!
『なっ……!? シールドごと……!?』
グランダー部隊が咄嗟に展開したE粒子シールド。
だが、フェーズドライフルの規格外の貫通力の前には、紙切れ同然だった。
シールドを容易く破り、装甲を貫き、背後の雪山ごと三機のグランダーを一瞬で消し飛ばす。
「次はデカブツだ!」
『了解! 粒子キャノン、発射OK!!』
間髪入れず、烈火は背部の『E粒子キャノン』の射角を上方へと向けた。
目標は、プロメテウスに砲口を向けていたファランクスの群れ。
ドゴォォォォォォォォンッ!!!
圧縮された粒子の極太の束が、ファランクスの分厚い装甲を紙のように融解させる。
断末魔を上げる間もなく、二機のファランクスが火球と化して雪原に散った。
『迎撃しろ! 赤い機体に火力を集中させろ!』
指揮官の怒号とともに、残存するファランクスとグランダーが、一斉にブレイズへと砲火を浴びせる。
レールガンの雨と、荷電粒子砲の熱線が、合体ブレイズの全身を包み込んだ。
『烈火!』
『無駄だッ!』
兎歌が叫ぶと同時、合体ブレイズの背部からプラズマの翼が大きく展開。
さらに、赤黒い炎が機体をドーム状に覆い尽くす。
ベリアル・コアの出力を利用した、超高密度の『翼型粒子防壁』だ。
ガガガガガガガガッ!!
ズガァァァァァンッ!!
無数の砲弾とビームが防壁に直撃!
だが、赤黒い炎は揺らぐことすらない。
全ての攻撃が、まるで幻影のように防壁の表面で弾かれ、あるいは吸収され、無力化されていく。
『な、なんだあの防壁は……!』
『我々の火力が、まったく通じないだと!?』
ノヴァの兵士たちが、カメラアイ越しに、絶望の声を上げる。
「す、すげぇ……!」
「あんな無茶苦茶な出力、どうやって制御してるんだ……!?」
一方のプロメテウスのブリッジ。
そこでも、カルコスやヨウコをはじめとするクルーたちが、モニターに映る無双劇に呆然と息を呑んでいた。
一個師団を相手に、たった一機で戦局を完全に支配している。
それはもはや「戦闘」ではなく、「蹂躙」だった。
『これで終わりだァッ!!』
烈火は叫び、突撃した。
合体ブレイズが雪原を蹴り、燃える流星となって、ファランクスの陣形中央へと突貫した。
大太刀が抜かれ、赤い斬線が虚空に閃くたびに、白い巨体が次々とダルマにされて爆散していく。
勝利は、目前かと思われた。
だが───。
『烈火! 上から、巨大な熱源反応が来るよ!』
兎歌の叫びがコックピットに響いた。
直後───




