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アルタイルの罠! ノヴァ部隊がプロメテウスを襲う!

「さて。時間は終わり。……ここから先は、敵同士だ」


 その声には、先ほどまでの穏やかさはなく、ノヴァの兵士としての冷たさが戻っていた。

 だが。


「……一つだけ、教えてやる」

「?」


 烈火が眉をひそめる。

 蒼火は、扉の外に広がる雪原を見つめながら、ぽつりと呟いた。


「ここの部隊……アタシが率いてたグランダー部隊は、ただの『おとり』だ。

 お前らの目を、この雪山に釘付けにするためのな」


「なんだと……!?」


 烈火と兎歌の顔色が変わる。


「じゃあ、本隊は……!」

「ああ。今頃、ノヴァの強襲本隊が、お前らの母艦……『プロメテウス』だっけ? を急襲してるはずだ」


 その言葉に、烈火は歯を食いしばった。

 プロメテウスには、レゴン艦長や他の仲間たちがいる。

 完全に虚を突かれた形だ。


「……なんで、それを教えた」


 烈火が鋭く問うと、蒼火は肩をすくめた。


「軍法会議ものだろうけどな。

 ……さっきの、変な友情の代金だ。

 今すぐ急げば、間に合うかもしれない。

 ……アタシは、止めないでおいてやる」


 蒼火はそう言って、壁に寄りかかり、目を伏せた。

 超人としての肉体は回復しつつある。銃もある。

 その気になれば、機能停止したと嘘をついたリリエル・ブルーを再起動させ、背後から二人を撃つこともできた。


 だが、オーバードーズの反動で体が重いという言い訳を自分に言い聞かせながら。

 今はどうしても、この二人を殺す気になれなかった。


「……恩に着る」


 烈火は短く頷くと、兎歌と顔を見合わせた。

 言葉はいらない。

 二人は同時に身を翻し、外に停めてあるリベルタと、雪から掘り起こしたブレイズへと走り出す。


 すれ違いざま。

 烈火は振り返ることなく、右手を軽く上げた。

 蒼火もまた、目を閉じたまま、背中越しに小さく右手を上げる。


 それは、二人の野良犬が交わした、最初で最後の静かな別れの挨拶だった。


 ~~~


 一方、その頃。

 雪山から数十キロ離れたノルヴァルドの平原。

 そこでは、エリシオンの誇る戦闘空母『プロメテウス』が、絶望的な窮地に立たされていた。


『敵部隊、さらに接近! 地上に敵反応……グランダー、一個大隊規模!

 空域には多数の無人戦闘機……っ、防空網、突破されます!』


 プロメテウスのブリッジ。

 オペレーターのヨウコが、モニターを埋め尽くす赤い光点を見つめながら、悲痛な声を張り上げた。


「くっ、完全に包囲されていますね!」


 参謀のカルコスが、コンソールを叩いて歯を食いしばる。

 ノヴァ・ドミニオンの動きは、あまりにも手際が良すぎた。

 吹雪の雪山で敵の偽装基地を捜索している隙を突き、完全にプロメテウスを孤立させる形で強襲をかけてきたのだ。


『ヨウコさん、敵の増援です! 熱源反応、さらに増加!』


 サブモニターを担当していたクルーが叫ぶ。


『これは……っ! 白い機体……【ファランクス】です! 数、三十機以上!』


「なんだと……!?」


 その報告に、レゴン艦長ですら表情を険しくした。

 かつて南の島で、機体を半壊させてまで烈火が倒した、あの恐るべき白亜の怪物。

 世界中で旧式の軍隊を圧倒し、ノヴァの優勢を決定づけている最強の量産機。


「ファランクスが、一個大隊規模で投入されたというのですか!?」


「対空砲火、弾幕を張れ! マティアスとギゼラは、ファランクスの接近を阻止しろ!

 これ以上、艦に近づかせるな!」


 レゴンの怒号がブリッジに響き渡る。


 艦外では、すでに激しい戦闘が始まっていた。

 プロメテウスの甲板から、無数の対空ミサイルとバルカン砲が火を吹く。

 空を覆うノヴァの無人戦闘機が次々と撃ち落とされる。

 だが、その奥から、天使のように白い機体の群れが、音もなく滑空してきた。


 ズガァァァァァンッ!!


 遠方からの超長距離狙撃。

 ストラウスの放った高威力のスナイパーライフルが、先頭を飛んでいたファランクスの胸部を見事に撃ち抜き、爆散させる。


『一機撃墜! だが、数が多すぎるぞ!』


 通信越しに、ストラウスの焦燥に駆られた声が響く。


 多勢に無勢。

 三十機近いファランクスが、一斉に粒子砲を構えた。

 雨あられと降り注ぐ極太の光の束が、プロメテウスのE粒子コートに直撃。


 ドゴォォォォォンッ!!


 凄まじい衝撃に、全長数百メートルの巨艦が大きく揺れた。

 ブリッジの照明が明滅し、クルーたちが悲鳴を上げて床に転がる。


「シールド出力、低下! 第三、第五区画に被弾! 装甲が持ちません!」


 飛び交う機銃の掃射。

 地上から撃ち上げられる、グランダー部隊のレールガンの雨。

 プロメテウスの周囲は、完全にノヴァの火力によって制圧されようとしていた。


「艦長! このままでは、艦が沈みます!」


 カルコスの叫びに、レゴンは拳を強く握り締めた。

 烈火と兎歌という、部隊の最大の矛と盾が不在の今。

 この圧倒的な物量を前に、プロメテウスは確実に死の淵へと追いつめられていた。


『まだまだぁ!!』


 ドゴォォォンッ!!


 プロメテウスを包囲する絶望的な弾幕の中。

 上空から急降下してきた巨大な影が、極太のE粒子キャノンを放った。


『舐めるんじゃないよッ!!』


 ギゼラが操る『ウェイバー・ザ・スカイホエール』の一撃だ!

 その規格外の熱量は、強固な防御を誇るファランクスの大型シールドを、真正面から貫通!

 白い巨体を一瞬で爆散させた!!


 そのまま、ウェイバーは背部のコンテナを展開。

 無数のミサイルが、雪原を滑走するグランダーの群れへと降り注ぐ。


 ズガガガガッ!

 雪煙が上がり、数機のグランダーが吹き飛んだ。

 だが───


「チッ……ちょこまかと!」


 ギゼラは舌打ちをする。

 グランダー部隊はホバー機構を駆使し、猛吹雪の中でも素早く散開して直撃を避けていた。

 すぐさま体勢を立て直し、プロメテウスへのレールガンの集中砲火を再開する。


『艦長! このままじゃジリ貧だよ!』


 ギゼラの叫びに、プロメテウスのブリッジから通信が響いた。


『わかっている! ギゼラ、例の新装備を送る! 受け取れ!』


 レゴンの声と同時に、プロメテウスのカタパルトから巨大な塊が射出された。

 それは、機体の全長に匹敵するほどの大型武装ユニット!。


『待ってたよ!』


 ウェイバーは空中で姿勢を制御し、飛来する武装ユニットへと背中を向ける。

 ガチャンッ!


 重厚な金属音とともに、巨大なコンテナがウェイバーの背部にドッキングした。

 ただでさえ大柄なウェイバーが、一回り以上も巨大に膨れ上がる。


 ガガガガガガッ!!


 合体の隙を突き、地上から無数のレールガンがウェイバーへ殺到した。


『無駄さね!』


 ギゼラが操縦桿を引くと、合体したユニットから複数のガードドローンが射出された。

 ドローンが瞬時にE粒子シールドを形成し、降り注ぐ砲弾をことごとく弾き返す。


「さぁ、アタシの新しい力の見せ所だ。消えなッ!」


 ウェイバーのユニット左右から、巨大な荷電粒子ランチャーが展開される。

 直後、二条の極太の光の奔流が放たれた。


 ズドォォォォォォンッ!!


 凄まじい反動に空気が震える。

 狙われたのは、地上からプロメテウスを砲撃していたファランクスの一機だ。


 だが、ファランクスは即座に巨大なシールドを構え、強引にその熱線を防ぎにかかった。

 バチバチと舞いちる激しい火花。


 光の奔流が、周囲の雪を瞬時に蒸発させる。

 ファランクスの足が雪面を削りながら後退するが、シールドは完全には破れない。


『硬いねぇ! だが、見えてるのは前

だけじゃないよ!』


 ギゼラが不敵に笑った、その瞬間。

 ビームを防ぐのに全力を注いでいたファランクスの死角───右側面から、鋭い発砲音が響き渡った。


 ズドンッ!!


 強烈な速度で放たれた実弾、リニアキャノンの砲弾。

 それが、シールドの防護範囲外であるファランクスの脇腹を正確に撃ち抜いたのだ。


『っ……!?』


 ノヴァのパイロットが驚愕する間もなく、装甲を貫かれたファランクスは内部から大爆発を起こし、爆散!

 火柱を上げて沈黙した。


『やったね、マティアス!』


 ギゼラが通信機越しに声をかける。


『ああ。死角からの攻撃なら、いかに重装甲でも脆いものだ』


 雪原の岩陰から姿を現したのは、犬型の黒い自律ロボット───コマンドロボ。

 マティアスの『ストラウス』は宇宙での大規模アップデートにより、複数のコマンドロボを同時操作する『猟犬使い』仕様へと進化していた。


 彼が密かに地上へ展開させておいたコマンドロボたちが、敵の死角から的確な支援砲撃を行っていたのだ。


 その一方で。

 プロメテウスのブリッジは、けたたましいアラートの音と怒号に包まれていた。


「左舷に被弾! 粒子コート出力、残り四十パーセント!」

「迎撃ミサイル、第三コンテナ空になりました!」


 悲鳴のような報告を上げるヨウコ。

 モニターには、ウェイバーの爆撃とストラウスの狙撃によって次々と撃破されていく敵影が映し出されている。

 ギゼラとマティアス。

 二人のエースの圧倒的な技量のおかげで、プロメテウスはかろうじて持ちこたえていた。


「だが、このままではジリ貧だ……!」


 レゴン艦長は、歯を食いしばりながらコンソールを叩いた。

 一個大隊規模のグランダーに加え、同じだけのファランクス。


 敵の数は、あまりにも多すぎる。

 二機がどれだけ奮戦しようと、無数の砲弾の雨を完全に防ぐことは不可能だ。


 ズゴォォォォンッ!!


 再び、プロメテウスの巨体が激しく揺れた。


「くっ……! カルコス! ノルヴァルドの前哨基地からの援軍はまだか!?」

「通信は繋がっています! ……ですが、向こうもそれどころではないようです!」


 参謀のカルコスが、焦燥に駆られた声で答えた。

 サブモニターに映し出されたノルヴァルド基地の指揮官は、真っ青な顔で怒鳴り散らしている。


『無理です! 出撃できません! ゲートの前に……あいつらが!』


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