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猛吹雪の二人、烈火と蒼火

 グランダーたちは、猛吹雪の中でも一切の迷いなく雪上を疾走している。

 ホバーによる機動力に加え、氷の谷の複雑な地形を熟知しているような、統制の取れた動き。

 十機が包囲陣形を崩さず、レールガンの弾幕を休むことなく浴びせてくる。


 ガガガガガッ!!


 リベルタは翼から展開したE粒子シールドで、飛来する砲弾を的確に弾き落とす。

 だが、シールドの表面が波打ち、ジェネレーターの出力が削られていく。


『やられっぱなしじゃないんだから!』


 兎歌はリベルタの脚部を展開。

 そして、内蔵されたレールガンを一斉に放った。


 ダダダダダッ!!


 無数の徹甲弾が、雪原を駆けるグランダーの群れへ殺到!


 しかし。


『……えっ!?』


 グランダーの腕に、六角形の淡い光の壁が展開された。

 簡易型のE粒子シールド。

 リベルタの放ったレールガンの直撃を受けながらも、グランダーたちは姿勢を崩すことなく走り続けている。


『シールドまで持ってるの!? この数で……!』


 驚愕する兎歌。

 ノヴァの技術力は、量産機にまで強力な防壁を搭載するレベルに達していたのだ。


 その一瞬の隙を突き、一機のグランダーがシールドを抜ける。

 直後、リベルタの死角から接近してきた。


 右手に握られたプラズマジャベリンが、リベルタのコックピットを串刺しにすべく突き出される。


『もらったぁッ!!』

「……甘いよ!」


 だが、兎歌の目は冷静だった。

 リベルタの鳥のような脚部が、鋭く振り上げられる。


 ガシッ!


 巨大な鉤爪が、ジャベリンを握るグランダーの右腕を正確に捉え、万力のような力で握り潰した。


『なっ!?』


 装甲がひしゃげ、火花が噴き出す。

 驚愕する敵パイロット。

 だが、兎歌は構うことなく、さらに追撃を仕掛ける!


『そこっ!!』


 リベルタの機首にある機銃が、至近距離から火を吹いた。


 ドドドドドドッ!!


 凄まじい連射速度で叩き込まれた徹甲弾の雨が、グランダーの胴体を蜂の巣に変える。

 シールドを展開する間もなく、グランダーは内部から誘爆を起こし、雪原に爆散!



 ドガァァァンッ!!


 グランダーが爆散する凄まじい光と熱。

 その爆炎を切り裂くように、極太のプラズマビームが、雪原を一直線に薙ぎ払った。


 ブレイズからの流れ弾だ。


「ちぃっ!」


 だが、リリエル・ブルーは重ホバーの出力を限界まで引き上げ、雪煙を巻き上げながら飛ぶように回避する。


 そのまま、ガンブレードから光弾を連射して反撃!

 負けじとフェーズドライフルを撃ち返すブレイズ!


 二機は猛スピードで雪原を滑走しながら、激しい射撃戦を展開した。


 青白い光と黄金の光が交錯する。

 着弾するたびに巨大な氷柱が砕け散り、雪が激しく吹き飛ぶ。


 しかし、その激闘の最中。

 データを分析していた兎歌が、恐ろしい変化に気づいた。


『───待って!』


 兎歌の顔色が変わる。

 ホログラムモニターに表示された地形データと、現在の温度センサーの数値。


『烈火、止まって!! 足元の雪が……氷の谷の地盤が、プラズマの熱で溶け始めてる!!』


 兎歌の切羽詰まった声が、通信回線に響き渡る。

 二機の限界を超えた、プラズマリアクターの衝突エネルギー。


 そして、飛び交う高出力のビームの熱量が、氷の谷のバランスを完全に崩してしまっていたのだ。


「なにっ!?」


 烈火がハッとして足元を見た、その瞬間。


 メキメキメキッ……!!


 不気味な地鳴りとともに、ブレイズの足元に巨大な亀裂が走った。

 いや、ブレイズの足元だけではない。

 周囲数百メートルにわたる氷の地盤が、音を立てて崩壊を始めたのだ!


「くそっ、雪崩か!?」


 烈火は咄嗟に機体を後退させようとする。

 だが、オーバードーズに囚われた蒼火は、崩れゆく足場など意に介していなかった。


『逃がすかぁぁぁッ!!』


 リリエル・ブルーが、崩壊する氷の破片を蹴散らしながら、一直線に突撃してくる。

 その顔面を歪ませた蒼火の執念が、機体を通して伝わってくるようだった。


「この馬鹿野郎が!」


 烈火はフェーズドライフルを捨て、ブレイズの両腕を交差させて防御姿勢をとる。


 ドゴォォォォンッ!!


 凄まじい衝撃。

 シールド越しにブレイズの装甲が軋み、火花が散る。

 なんとか直撃は防いだものの、突進の凄まじい運動エネルギーまでは殺しきれない。


 ズザザザザッ!!


 ブレイズは雪を削りながら後退し……

 そして、ついに足場が完全に消失した。


『あ……』


 蒼火が我に返ったように呟いたときには、もう遅かった。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!


 轟音とともに、氷の谷の底が抜け落ちた。

 周囲の雪と氷が濁流となって雪崩を引き起こし、二つの機体を飲み込んでいく。


「烈火あぁあああッ!!!」


 兎歌の悲痛な絶叫が、コックピットに響き渡る。

 烈火の視界は、真っ白な雪と氷の塊に埋め尽くされる。


 そして、真っ暗な底なしのクレバスへと、真っ逆さまに堕ちていった。


 ………

 ……

 …


 ───それから、数時間が経過した。


 ヒュルルル……ヒュォオオ───……。

 狂ったような猛吹雪は、一向に収まる気配を見せない。


 真っ白に染まった空域を、二機の機体がギリギリの低空で飛行していた。

 兎歌の乗る『リベルタ・ザ・ターミガン』。

 そして、ギゼラが駆る『ウェイバー・ザ・スカイホエール』だ。


『……生体反応なし。

 ブレイズのシグナル、未だ検知できません』


 リベルタのコックピットに、電子音声が響く。

 ホログラムモニターに広がるのは、無数のノイズと、冷酷なまでに「Not Found」の文字だけ。

 兎歌は血の気の引いた顔で、震える指先をコンソールに走らせていた。


『お願い、烈火……返事してよ……。

 アニムスキャナーの微弱電波でもいい、何か……!』


 祈るような兎歌の声に、通信回線からギゼラの落ち着いた声が届く。


『焦るんじゃないよ、兎歌。索敵の範囲を広げすぎてる。

 レーダーの感度を下げて、直下の氷層に絞りな』


『でも……! 雪崩に巻き込まれてから、もう三時間も経ってるんだよ!

 もしコックピットの暖房が切れてたら……』


 兎歌の声が涙ぐむ。

 少女の脳裏には、極寒のクレバスの底で凍え死んでいく烈火の姿が、どうしようもなく浮かんでしまっていた。


『時々、流されたグランダーの反応があるけど……向こうも撃ってこないね』


 ギゼラは、ウェイバーのモニターに映る微弱な敵影を一瞥して言った。

 雪崩を生き延びた数機のグランダーが、這い上がるようにして雪原を彷徨っている。


 だが、彼らも索敵や攻撃を行う余裕はないらしい。

 指揮官である蒼火の機体が消失し、命令系統が完全に途絶えたからだ。


『お互い、この吹雪の中でドンパチやるのは自殺行為だって分かってるのさ。

 ノヴァの連中も、今は生き延びることで精一杯だろうよ』


『……そんなこと、今はどうでもいいです! 早く烈火を見つけないと!』


 兎歌は叫ぶように言った。

 その悲痛な声に、ギゼラは小さく息を吐く。


『兎歌。あんた、あの「赤い狂犬」が、雪に埋もれたくらいで死ぬタマだと思ってるのかい?』

『それは……』

『あたしたちが焦って二次遭難を起こしたら、元も子もないだろうが。

 それに……』


 ギゼラの声には、確かな信頼が込められていた。


『あいつは、絶対に死なない。スラムの泥水啜ってでも、這い上がってくるような男だ。

 あんたの元に帰るまでは、何があってもくたばりゃしないよ』


 その言葉に、兎歌はハッと息を呑んだ。

 そうだ。烈火は、どんな絶望的な状況でも、必ず生きて自分の元へ帰ってきてくれた。

 今回だって、きっと。


『……はい。すみません、ギゼラさん。わたし……』

『謝るんじゃないよ。さぁ、もう一度索敵網を再構築するよ。

 吹雪が弱まる一瞬の隙を突いて、シグナルを拾うんだ』


『了解……!』


 兎歌は目元を乱暴に拭い、再びコンソールに向き直る。

 窓の外では、白い悪魔のような吹雪が、すべてを覆い隠すように荒れ狂い続けていた。


 ~~~


 ───その頃。

 猛吹雪の下、厚い氷と雪に覆われた暗闇の底で。



 ……ギチッ……ギチギチギチッ……。


 錆びついた金属が軋むような、耳障りな音が響いている。

 蒼火は、全身を苛む鋭い鈍痛の中で、ゆっくりと重い瞼を押し上げた。


「……う、ぐ……」


 視界がぼやけている。

 鼻を突くのは、カビ臭い埃の匂いと、微かな煤の匂い。

 そして、先ほどまであれほど肌を刺していた極寒ではなく、どこか生ぬるい空気。


((……ここは……? アタシは、確か……赤いのを道連れに、雪崩に……))


 朦朧とする頭で記憶を探りながら、蒼火はゆっくりと上体を起こした。

 その瞬間。


「よぉ。お目覚めか、お姫様」


 不意に投げかけられた声に、蒼火の心臓が跳ね上がった。

 視線を向けると、薄暗い部屋の隅、赤く光る旧式の電気ヒーターの前で、赤毛の青年が胡座をかいていた。

 彼はひどく硬そうな干し肉を、無遠慮にガシガシと齧っている。


「……ッ!!」


 蒼火は瞬時に我に返り、獣が威嚇するように身を屈め、腰のホルスターに手を伸ばした。

 だが、そこにあるはずの拳銃がない。

 代わりに、少し離れた古びた棚の上に、自分の装備一式が無造作に置かれているのが見えた。


「探してるなら、あそこだ。ついでに言うと、お前の機体は完全に沈黙してる。

 俺のブレイズも、この吹雪で関節が凍り付いて、雪の下でおねんね中だ」


 烈火は干し肉を飲み込み、埃のかぶったモニターや計器類が並ぶ部屋を見回した。


「ここは、旧東武連邦が昔作った、気象観測用の無人施設……らしいぜ。

 役目を終えた後も、こうやって迷い込んだ遭難者用に、最低限の設備だけ残してあるんだとよ。

 ……ま、運が良かったな、お互い」


 事も無げに言う烈火。


 ギリ───ッ


 蒼火は、牙を剥くように唇を噛み締めた。

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