雪原の戦い、新機体グランダーの脅威!
『よろしい。今回の作戦目的は、偵察だ』
レゴンは手元のコンソールを操作し、モニターにノルヴァルド周辺の地形図を表示させた。
『情報部からの報告によれば、この極寒の地でノヴァ・ドミニオンの部隊が目撃されたらしい。
恐らく、猛吹雪の環境を利用して、我々の目を盗み前哨基地……あるいは新兵器の実験施設でも作ろうとしているのだろう』
「なるほど。で、俺たちがその雪山をコソコソ這い回って、写真を撮ってこいってわけか」
烈火が鼻で笑うと、レゴンは深い溜息をついた。
『本来なら、隠密部隊を派遣するところだ。
……だが、ノヴァの連中が相手となると、ただの偵察で終わるはずがないからな』
レゴンの視線が、モニター越しの烈火を鋭く射抜く。
『どうせ敵を見つけ次第、お前は命令を無視して突撃するのだろう?
だとしたら、最初から我が部隊の最強ペアである、お前たち二人に行ってもらった方が、結果的に被害が少ないと判断した』
「……違いない」
図星を突かれた烈火は、肩をすくめて苦笑いを浮かべる。
『もうっ! 烈火ったら、またそんなこと言って!』
通信越しに、兎歌が頬をぷくっと膨らませて怒った顔を見せた。
『艦長さんも困ってるじゃない! 今回は「偵察」なんだから、勝手な行動はダメだからね!
ちゃんと、わたしの言うこと聞いてよね!?』
「わかってる、わかってるよ。
俺だって、無駄な戦闘は好きじゃねぇ」
烈火はひらひらと手を振りながら、適当に相槌を打つ。
そのいい加減な態度に、兎歌はさらに眉を釣り上げた。
『絶対わかってない!
……烈火が暴走したら、わたし、もう夕ご飯のハンバーグ作ってあげないからね!』
「おいおい、それとこれとは話が別だろうが」
『別じゃありません!』
モニター越しに繰り広げられる痴話喧嘩じみたやり取り。
それを見て、レゴンは頭痛を堪えるように、こめかみを揉んだ。
『……やれやれ。頼むぞ、二人とも。
くれぐれも、単独行動だけは控えるように。
……ノルヴァルドの雪は、人の命を容易く奪うからな』
レゴンの忠告が重く響く。
烈火は薄く笑みを浮かべ、首元のマフラーを撫でた。
「安心しろ。死ぬ気はねぇよ」
その直後、オペレーターのヨウコの声が響いた
『プロメテウスよりブレイズ、リベルタ。
カタパルト射出準備完了。
これより作戦空域へ投下します』
「了解。烈火・シュナイダー。ブレイズ・ザ・ビースト! 出るぞ!」
『兎歌・ハーニッシュ。リベルタ・ザ・ターミガン。行くよぉ!』
ドゥ───ッ!!
轟音とともに、プロメテウスのカタパルトから二機の機体が射出された。
極寒の空域へ飛び出した瞬間───
猛烈な横風と真っ白な吹雪が、機体の視界を覆い尽くす。
ブレイズは背部のブースターを吹かし、リベルタは白亜の翼を広げ、荒れ狂う雪の海を滑るように降下していった。
バチッ、バチチ……。
『……こちらホークアイ。2人とも、聞こえるか?』
吹雪のせいでノイズ混じりの通信が、コックピットに響く。
プロメテウスから別働隊として索敵に出ている、マティアスの声だ。
「ああ、聞こえてんぜ。そっちの状況はどうだ?」
『ノヴァの大型輸送空母が停泊していた痕跡を発見した。
……だが、もぬけの殻だ。すでに移動した後らしい』
マティアスの冷静な報告に続き、今度はギゼラが通信パネルに映った。
少し苛立ったような声が割り込んでくる。
『こっちは最悪だよ! 上空から広域索敵をかけてんだけど、このクソみたいな吹雪のせいで、地表が全然見えないねぇ。
レーダーも雪と磁気嵐に反射して、ノイズだらけだよ』
「上空から見えねぇ、か……」
烈火はモニターの計器に目を落とした。
『烈火、ちょっと待って』
通信回線に、兎歌の真剣な声が響く。
リベルタのコックピット内では、複数のホログラムモニターが展開され、目まぐるしく交差していた。
旧東武連邦の古い地形データ、現在の環境データ、情報───
桜色の目が分析する。
兎歌の指先が、空中に浮かぶキーボードを叩くように素早く動く。
『マティアスさんの見つけた空母の痕跡位置と、ギゼラさんの上空からの索敵データを照らし合わせると……ここだね。
上空から、完全に視界が遮られる場所がある』
兎歌から送られてきたデータが、ブレイズのメインモニターに表示される。
そこには、雪山と雪山の間に深く刻まれた、巨大なクレバスのような地形が赤くハイライトされていた。
『渓谷地帯……ううん、「氷の谷」。もしノヴァが前哨基地を隠すなら、ここしか考えられない』
「なるほどな。流石はうちの優秀なオペレーター兼パイロット様だ」
『もうっ、おだてても何も出ないよ!』
照れたように笑う兎歌。
だが、次の瞬間、その声が鋭い緊張に張り詰めた。
『───ッ!? 烈火、気を付けて!』
ピピピピピッ!!
リベルタからの警告と同時に、ブレイズのレーダーがけたたましいアラートを鳴らす。
「敵反応……下からか!」
烈火は咄嗟に機体を捻らせた。
「兎歌、防壁頼む!」
『うん、シールド展開!』
兎歌の叫びとともに、リベルタの翼から高密度のE粒子シールドが広がった。
シールドは、ブレイズの前方へ割り込むように展開される。
直後、吹雪の底から、極太の粒子ビームが飛来!
真っ白な雪原を割るようにして、真下から凄まじい勢いで突き上げてきた。
ズガァァァァァンッ!!
「チッ……!」
シールドの表面でビームが弾ける。
強烈な衝撃波と閃光が、猛吹雪を一瞬にして吹き飛ばした。
烈火は歯を食いしばりながら、機体のバランスを立て直す。
「挨拶代わりにしては、ド派手な花火じゃねぇか」
ゴォオオオオオ───
もうもうと立ち込めていた雪煙が、強風に煽られて晴れていく。
視界が開けた先、雪原に陣取っていたのは、青い機体の群れだった。
先頭に立つのは、見覚えのあるケンタウロス型の機体。
アマツキで撃破したはずの、青いリリエル───『リリエル・ブルー』だ。
その背後には、見慣れない軽装甲のコマンドスーツがズラリと並んでいる。
『……データ照合完了!』
通信越しに、兎歌の緊迫した声が響く。
『諜報部隊から目撃証言があった機体と一致!
ノヴァの新型、地上戦特化型の量産機『グランダー』だよ! 数は12!』
「12機か。お出迎えにしちゃ、随分と手厚いじゃねぇか」
烈火はニヤリと笑い、操縦桿を握り直す。
グランダーの足元には、大型のホバーユニットが装備されていた。
深い雪に足を取られることなく、滑るように散開していく。
ギュオォォォンッ!
包囲陣形を組んだ十二機のグランダーが、一斉にレールガンを構えた。
砲身に、青白い放電が走る。
「来るぞ! 兎歌、散開だ!」
『了解!』
烈火の指示と同時。
無数の砲弾が、音速を超えて襲いかかってきた。
ズドドドドドンッ!!
二機が直前までいた空間を、レールガンの弾幕が抉り取る。
凄まじい衝撃で、氷の谷に無数のクレーターが穿たれた。
「ちぃッ!」
烈火はブースターを全開にし、空中で身を捻って弾幕を躱す。
リベルタもまた、白亜の翼を翻して軽やかに宙を舞い、攻撃を回避していた。
『反撃するよ!』
兎歌の凛とした声。
リベルタのE粒子キャノンが火を吹く。
直撃だ。
一条の光の帯が吹雪を切り裂き、グランダーの一機を消し飛ばした。
ドガァァンッ!
爆炎が上がり、敵機が雪原に沈む。
「ナイスだ、兎歌! 俺も行くぜ!」
烈火も受け取ったフェーズドライフルを構え、トリガーを引く。
またしても直撃!
青白い弾丸が放たれ、さらに一機を中破させた。
飛び交うビームと実弾。
真っ白な雪原が、瞬く間に爆炎と閃光で染め上げられていく。
だが、その激しい銃撃戦の最中。
烈火に宿る、獣じみた直感が、鋭い警鐘を鳴らした。
((……来る!))
猛烈な殺気。
弾幕を縫うようにして、一機の機体が突っ込んでくる。
「よくもノコノコと現れたな、赤い悪魔ァッ!!」
それは、憎悪に満ちた少女の声。
雪煙を突き破り、リリエル・ブルーが猛スピードで肉薄してきた。
「この気配……!」
リリエルは、雪上とは思えないほどの加速力で、ブレイズの懐へと潜り込んでくる。
ケンタウロス型の下半身を、重ホバークラフト仕様に換装しているのだ!
その手に握られたガンブレードが、黄金の輝きを放ちながら振り上げられた。
「させるか!」
対するブレイズも、フェーズドライフルのバヨネットを展開。
烈火は迫り来るガンブレードの軌道を読み切り、鋭く切り払った。
ガキィィィンッ!!
激しい金属音。
黄金の火花が雪の中に散る。
「生きてたかよ、あの時の青色!」
『セラピナ様の仇、ここで取らせてもらうッ!!』
通信越しに響く蒼火の絶叫。
リリエル・ブルーは重ホバーの推力を活かし、強引な体当たりから連続で斬撃を繰り出してくる。
「くっ……!」
烈火はブレイズのホバーユニットを巧みに操り、雪の上を滑りながら、その猛攻を受け流す。
そして、返す刀で切り結ぶ!
二つの機体が、雪原に円を描くように、激しい近接戦を繰り広げていた。
一方、その背後。
リベルタ・ザ・ターミガンは、残る十機のグランダー部隊と交戦していた。
『くっ……動きが速い……!』
兎歌は唇を噛み締め、操縦桿を握る。
グランダーたちは、猛吹雪の中でも一切の迷いなく雪上を疾走している。
ホバーによる機動力に加え、氷の谷の複雑な地形を熟知しているような、統制の取れた動き。
十機が包囲陣形を崩さず、レールガンの弾幕を休むことなく浴びせてくる。




