ブレイズの新たな力、ベリアル・コア!
「それに、希望がないわけやないで。……むしろ、でっかい金脈を見つけたんや」
菊花はニヤリと笑い、タブレットに別の映像を映し出した。
そこには、プロメテウス隊が制圧し、エリシオンの最前線拠点『アマツキ』として改装された、あの小惑星基地の姿があった。
「宇宙や」
「宇宙……?」
「せや。ノヴァがあんだけアホみたいに高性能な機体や要塞を量産できとったのは、地上やなくて、宇宙に無尽蔵の資源があったからや。
ウチらがアマツキをぶっ取ったことで、ノヴァの宇宙資源の採掘ルートの一部を、こっちがそのまま頂戴したんやで」
菊花は誇らしげに胸を張った。
「希少金属も、プラズマリアクターのコアに使う特殊な素材も、アマツキから本国へガンガン送られとる。
……ウチらが命懸けで宇宙へ上がって、もぎ取った勝利の成果や」
「なるほど……そういうことか」
マティアスは納得したように目を細め、ギゼラもパッと顔を輝かせた。
「ハハッ! なんだ、アタシらが宇宙で暴れたおかげで、自分たちの新しい翼の材料を手に入れたってわけか。
そいつは傑作だね!」
「せや。ウチらの整備班も、徹夜続きで死にそうやけどな。
……でも、お前らがノヴァの狂気を止めてくれるなら、どんな無理でも通したるわ。
せやから、絶対生きて帰ってこいよ」
菊花は、力強く二人に微笑みかけた。
政治家が守り抜いた誇り。現場の兵士たちが繋いだ命。そして、宇宙で勝ち取った未来の資源。
それらすべてが、今、この地下格納庫で、新しい機体という『剣』に鍛え上げられようとしていた。
~~~
一方、その頃。
菊花がギゼラたちと合流していたドックから少し離れた、シミュレーター・ルーム。
薄暗い部屋の中に並ぶ、巨大な卵型のコックピット・ボール。
その中では、烈火とシャオが仮想空間の戦場にダイブし、己の神経を限界まで研ぎ澄ましていた。
『オラァッ!!』
仮想の空を切り裂く、烈火の雄叫び。
ガガガガァンッ!!
電子音と疑似的な衝撃が、ポッド内を激しく揺らす。
仮想視界の向こう側に広がるのは、荒涼とした岩場のフィールド。
そこで激突しているのは、紅蓮の装甲を纏った『ブレイズ』と、漆黒の狼『ルナ』だ。
もちろん、どちらも改修データ繁栄済みである!
『へっ、遅ぇぞ烈火!』
通信パネルから響くのは、シャオの声。
次の瞬間、ルナの黒影が、ブレイズの視界から一瞬でブレて消えた!
『チッ……!』
烈火が舌打ちした瞬間、ブレイズの真横から、鉤爪を振りかぶったルナが強襲を仕掛ける!
その速度は、以前の模擬戦とは次元が違った。
最適化されたシステムと粒子供給経路の改善により、機体の反応速度がパイロットの思考に直結している。
なにより、シャオ自身の『超人』としての反射神経が、ルナのポテンシャルを極限まで引き出していた。
ガキンッ!!
ブレイズが咄嗟に展開したE粒子シールドに、ルナの鉤爪が激突する。
火花が散り、強烈な負荷が烈火の腕にフィードバックされた。
『重てぇ……ッ! だが、これで終わりじゃねえよな!』
烈火はシールドで弾き返すと同時に、右腕のマルチプルユニットを瞬時にブレード形態へ切り替えた。
衝撃を利用し、カウンターの横薙ぎを放つ!
青白い軌跡を描くE粒子の刃が、ルナの胴体を真っ二つにしようと迫る。
『甘いねっ!』
だが、シャオは不敵に笑った。
ルナは空中で姿勢を捻り───
ブレードの刃先を紙一重で回避!
そのままブレイズの装甲を蹴りつけ、反動を利用して上空へと跳躍する。
『もらったぁッ!』
上段からの強烈な踵落とし。
ブレイズは両腕を交差させて防御姿勢をとる。
ズドォォンッ!!
激しい衝突音と共に、仮想空間の大地がクレーター状に陥没した。
二機のコマンドスーツは、互いの莫大な運動エネルギーを相殺しきれず、激しい衝撃で弾き飛ばされる。
ザザザザッ……!
土煙を上げながら、ルナとブレイズは数十メートル離れた距離で、同時に着地!
『ふぅ……』
『ははっ……』
互いに荒い息を吐きながら、モニター越しに睨み合う。
機体のステータス画面には、最適化されたエネルギーの循環と、かつてない高出力の数値が踊っていた。
『……やるじゃねぇか、シャオ。
今お前の反射神経なら、本当にリミッター解除に耐えられるかもしれねぇな』
『ハハッ、あったりめーだろ。アタシを超人サマだぞ?』
通信越しに、シャオの不敵な笑い声が響く。
だが、烈火も負けじと口角を上げた。
『だったら、こっちも遠慮なく行かせてもらうぜ。……来いッ!』
烈火の思考に呼応し、シミュレーター上のブレイズが右手を突き出す。
空間が歪み、仮想のデータが瞬時に構築される。
ブレイズの手に握られたのは、新たに実装される兵装───『フェーズドライフル』。
リベルタから移植された、大太刀をベースにした超火力兵装だ。
長大な銃身の下部には、コンバットナイフと同じ半透明のブレードが鋭く突き出している。
『へっ、でっかいオモチャ出しやがって。……ファング、やっちまえ!』
シャオの叫びと共に、ルナの背中から黒い影が分離した。
狼型の自律コマンドロボ、『ファングパック』だ。
シンクロコアでシャオの思考と直結した鉄の獣が、ブレイズの死角を突くように宙を舞い、鋭い牙を剥いて飛びかかる。
だが───
『遅ぇよ』
烈火は冷静にフェーズドライフルの銃口を跳ね上げた。
照準のタイムラグはゼロ。
シュゴォォンッ!!
高圧縮されたE粒子弾が、ブレードの力場技術で極限まで束ねられ、閃光となって撃ち出される。
直撃だ。
ファングパックは回避行動をとる間もなく、空中で光の奔流に飲み込まれる。
一撃で仮想空間のデータとなって爆散した。
『ファングが……! クソッ!』
舌打ちするシャオ。
だが、ファングを失って身軽になったルナは、その爆炎を突き抜けて一気にブレイズの懐へと潜り込んでいた。
『もらったぁッ!』
両腕のマルチプルユニットから、高密度のE粒子ブレードを展開。
十字に切り裂くような、必殺の双牙の連撃。
『食らうかよ!!』
烈火はフェーズドライフルを下段に構えた。
銃身下部の半透明ブレードで、ルナの猛攻を受け止める。
火花が散り、コックピット内に激しい金属音が鳴り響く。
力と力が拮抗し、一瞬の静寂。
『……重てぇ。けど、まだまだだ!』
烈火はブレイズのスラスターを全力で噴射。
力任せにルナを弾き飛ばして、後方へ大きく間合いを取る。
すかさず、フェーズドライフルを構え直した。
『逃がすかよッ!』
ルナが着地するより早く、追撃に出るシャオ。
岩場を蹴り、壁を走り、予測不能の三次元機動でブレイズへと迫る!
シュゴォォン! ズドォォン!
烈火が放つフェーズドライフルの射撃。
だが、ルナはその光の線を紙一重で躱し続ける。
ルナが身を翻した直後、背後の巨大な岩山に粒子弾が直撃!
凄まじい爆発と共に、岩山は跡形もなく消し飛んだ。
かすっただけでも致命傷の超火力。
しかし、当たらなければ意味がない。
『そんなトロい攻撃、当たるかよ……!』
シャオはスロットルを力強く握り込む。
『見せてやる。……これが、アタシの本当の力だ!』
ピピ───ッ
システム音が鳴り、コックピットのコンソールに警告の赤い光が明滅する。
シャオはためらうことなく、その禁断のスイッチを押し込んだ。
『オーバーリミット!!』
───ブォォォォンッ!!
その瞬間、青白い炎が吹き出した。
ルナの各部から、排熱光としてE粒子があふれ出したのだ!
そして次の瞬間───
真っ黒な排煙と共に、ルナのシルエットが完全に空間から消失した。
『なっ……!?』
烈火の視界から、ルナが消えた。
いや、早すぎるのだ。
殺人的な加速。
ブレイズのメインカメラでさえ、ルナの動きを捉えきれない。
『ここだぁッ!』
頭上。
シャオの声が響いた瞬間、隕石のように急降下してきたルナが、ブレイズの眼前へと肉薄していた。
常人ならGで内臓が破裂するほどの、物理法則を無視した急制動。
それを超人の肉体だけで耐え抜き、最高速度のままブレードを振り下ろす。
『うおおおおぉぉッ!!』
本能だけで、フェーズドライフルを盾にする烈火。
ギャァァァンッ!!
閃光と轟音。
仮想空間の戦場に、超人同士の意地が激突する、すさまじい剣戟の嵐が吹き荒れた。
ガガガガガァンッ!!
シミュレーター空間に、激しい金属音と火花が乱れ飛ぶ。
ブレイズのフェーズドライフルと、ルナの双牙が幾度となく激突し、互いの装甲を削り合う。
『ははっ! どうした烈火! 動きが鈍いぜ!』
『うるせぇ! お前が速すぎるだけだ!』
極限の機動戦の中、烈火とシャオは通信越しに軽口を叩き合っていた。
だが、その声色には確かな高揚感が混じっている。
互いに命を削るような限界の速度域。
常人なら一瞬で意識を失うGの嵐の中で、超人である二人だけが、この異常な闘争を楽しんでいた。
『おらぁっ!』
ルナはリミッター解除の殺人的な加速を活かし、ブレイズの死角へ回り込もうと鋭く踏み込む。
対する烈火も、本能的にスラスターを吹かす。
そして、フェーズドライフルを盾にして、強引に迎撃の体勢をとった。
その時だった。
『……ん?』
烈火はふと、目の前のコンソールパネルの一部に違和感を覚えた。
激しく明滅するステータス画面の隅に、いくつか『空白』の項目が存在しているのだ。
『なんだこれ……バグか?』
『烈火? どうかしたのか?』
『いや、なんか変なんだ……』
烈火は操縦桿から片手を離し、傍らに置いていた分厚い紙の資料───菊花から押し付けられた仕様書を、パラパラと片手でめくった。
「ん〜……これじゃねぇ、このページも違うか……」
乱暴にページをめくっていくと、機体システムの深部を解説した項目に、見慣れない文字列が記されていた。
『……【ベリアル・コア:有効/無効】?』
『なんだそりゃ。新機能かよ』
烈火が訝しげに呟いた直後。
ピーッ!
電子音と共に、メインモニターの端に通信パネルが強制的に割り込んできた。
『おら、バカップルの片割れ。シミュレーション中に余所見すな』
画面の向こうに現れたのは、




