表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

215/240

新たなる力、ストラウスとウェイバー編

「アホ烈火! 寝るなボケェ!!」

「ぐへぇ!?」


 菊花のローキックが炸裂!

 烈火は思わず腹を抱え、うずくまる。


「やれやれ……とにかく、きっちり使い方覚えときよ。シミュレータにも反映したるから、習熟を怠らんといてな」

「りょうか〜い」

「りょうかい」

「りょ、了解!」


 三人は思い思いに敬礼で応える。

 先行き不安な気もするが、彼らは戦場のプロだ。

 出撃までには使いこなしてくれるだろう。


 〜〜〜


 菊花は三人を置いて、足早に隣の区画へと向かった。

 広い通路を抜けた先には、さらに巨大な整備ドックが広がっている。

 そこでは、ちょうど二人の人物が到着したところだった。


「おっ、菊花班長。元気そうじゃないか」


 紫色の飛行服を着た、金髪の陽気な女───ギゼラ・シュトルム。

 そしてその後ろには、色あせた銀髪と顎髭が特徴の、静かな紳士───マティアス・クロイツァー。

 頼れる2人の姿があった。


「ギゼラ! マティアスのおっちゃん!」


 菊花はパッと顔を輝かせ、二人の元へ駆け寄った。

 彼らの頭上では、巨大なガントリークレーンが唸りを上げ、焼け焦げた巨大な金属の塊を吊り上げているところだった。


 それは、ヘリオスの直撃からギゼラを守り抜き、大破した『ウェイバー・ザ・スカイホエール』の心臓部───

 大型プラズマリアクターである。


「……よかった。アンタらも、無事やったんやな」


 菊花は、ギゼラの顔を見るなり、安堵からか目元を潤ませた。

 レザイトを滅ぼされた過去を持つ菊花にとって、仲間を失う恐怖は人一倍強い。


「ハハッ、泣くなよ。

 アタシが悪運強いのは、知ってんだろ?」


 ガシッ。


 ギゼラは豪快に笑い、菊花の華奢な手を、力強く握りしめた。


「それに、アタシが生き残れたのは、あんたが整備してくれたウェイバーのおかげさ。

 あいつが、最後の最後まで、アタシを熱線から守ってくれたんだ」


 ギゼラは、クレーンに吊るされたリアクターを見上げ、愛おしそうに目を細める。


「……そっか。ウェイバーも、よう頑張ったんやな」


 菊花も涙を拭い、鼻をすする。


「せやけど、いつまでも泣いとる場合やない。

 ウェイバーは、必ずウチの手で、前よりもっと強うして蘇らせたるからな」

「頼もしいねぇ。……で、アタシの新しい翼は、どんなバケモンに仕上げてくれんだい?」


 ギゼラの口元に、好戦的な笑みが浮かぶ。

 死地から生還したギゼラの瞳には、一切の迷いや恐怖はない。

 あるのは、再び大空を駆け抜け、戦い抜くという、純粋な闘志だけだった。


「フフッ、期待しといてええで」


 菊花はゴーグルを額に押し上げ、誇らしげに豊かな胸を張る。


「ウェイバーは、単なる修理やない。再建と大改修を同時にやったる。

 言うても、あの機体はもともと可変機構のテスト用やからな。

 今の時代やと、三分の一くらいは試作版の古いパーツのままやったんや」


 菊花はタブレットを操作し、ウェイバーのホログラム設計図を宙に投影した。

 赤くハイライトされた部分が、大破した箇所と旧式のパーツを示している。


「せやから、今回の改修で……当時の古いパーツは全部、現行版の仕様に変えるで。

 で、三分の一は本国で予備として保管されとった、新品のパーツを組み込む。

 ……残りの三分の一は、ウチらが新造する最新鋭の専用パーツに丸ごと入れ替えるで!」


「ひゅーっ、そいつは景気がいいねぇ!

 まるっきり別物に生まれ変わるってわけか」


 ギゼラは嬉しそうに口笛を吹いた。


「せや。システムも根本から見直して、プラズマリアクターの出力と安定性を両立させる。

 これで、変形中のエネルギーロスも減るし、最高速度は音速を遥かに超えるはずや。

 ……もちろん、武装もガッツリ刷新するで」


 菊花は画面をスワイプし、ウェイバーの背部に搭載される巨大なユニットの設計図を大写しにした。


「特に、この背部の武装コンテナ。こいつを大型化して、完全な『決戦仕様』にすんねん。

 今まで以上にアホみたいな数のミサイルを積めるのはもちろんやけど……

 空きスペースに、自律型のガードドローンも多数積み込む予定や」


「ガードドローン……? そいつはアタシの趣味じゃないね。自分で撃った方が早いだろ」


 ギゼラが眉をひそめると、菊花はニヤリと笑った。


「アホやな。ドローン言うても、ただのオモチャちゃうで。

 あんたが飛行形態でドッグファイトしとる最中な。

 死角から迫るミサイルやら敵機やらを、勝手に迎撃してくれる、頼もしい相棒や。

 ……ノヴァの異常な物量とやり合うには、あんた一人で全部カバーするのは無理やろ?」


「……なるほどね」


 ギゼラは納得したように頷き、豪快な笑い声を上げた。


「アタシが前だけ見てぶっ放すために、背中を守らせるってわけか。

 それなら悪くない。……いや、最高だね!」


 死線を超え、さらに研ぎ澄まされたギゼラの操縦技術と、決戦仕様に生まれ変わるウェイバー。

 その二つが合わさった時、どんな空戦が繰り広げられるのか。

 想像するだけで血が沸き立つようだ。


「……景気のいい話をしているな」


 ギゼラの笑い声に、静かに口を挟んだのは、マティアスだ。

 色あせた銀髪の初老の男は、腕を組みながら、改修予定のホログラムを見上げている。


「おっちゃんも他人事やないで」


 菊花はタブレットを操作し、今度はマティアスの愛機『ストラウス・ザ・ホークアイ』の設計図を呼び出した。

 無骨で堅実な狙撃用コマンドスーツの姿が、宙に浮かび上がる。


「ウェイバーだけやない。ストラウスもこれを機に、大掛かりな改修を行う予定や」


 菊花は、真剣な表情で設計図の各部を指し示した。


「元々、あんたらのプロメテウス隊の四機は、戦局に合わせてその都度、改修を行ってきたやろ?

 烈火のブレイズには合体機構、おっちゃんのストラウスには光学迷彩、兎歌には新機体……ってな具合に、順次新しいシステムを追加してきたんや」


「ああ。おかげで生き延びられた」

「せや。けど、その弊害でな……。

 今のあんたらの機体は、部位ごとに最新のパーツと、ロールアウト当時の古いパーツが、ツギハギで混在しとる状態なんや」


 菊花は頭をかきながら、苦笑いした。


「システム同士の相性やら、エネルギー伝導のロスやら、メカニックから見たら冷や汗モンやで。

 せやから今回は、四機まとめて古いパーツをひっぺがして、最新の専用パーツに完全換装する。

 ツギハギのフランケンシュタインから、純血のバケモンに生まれ変わらせるんや」


「……なるほど。それはありがたいが、私のストラウスは具体的にどう変わる?」


 マティアスは静かに尋ねた。

 狙撃手にとって、機体の微細な変化は命取りになりかねない。

 使い慣れた感覚が変わることを、彼は何よりも恐れていた。


「安心しぃ、おっちゃんの『眼』と『指先』の感覚は、絶対に変えへん。

 変わるのは、主に索敵能力と、背中の装備や」


 菊花は画面を拡大し、ストラウスの背部を映し出した。


「おっちゃんのストラウス、地上戦ではコマンドロボが索敵や囮に大活躍しとったけど……

 宇宙空間やと、スラスターがないせいで、使い物にならんかったやろ?

 せやから、あの旧型のバックパックは丸ごと交換や」


「……代わりに何を積む?」


「宇宙空間での立体的な機動と索敵に対応した、『宇宙仕様のコマンドロボ』を搭載するで。

 スラスターと姿勢制御バーニアを増設して、デブリ帯でもおっちゃんの手足みたいに動かせるようにすんねん。

 さらに、本体の通信機能と複合センサーユニットも、ノヴァのジャミングに対抗できる最新型に換装する」


 菊花は、自信満々に胸を張った。


「ダフネで培ったシンクロコアの技術も応用して、おっちゃんが一つの脳みそで、複数のロボを同時に操作できる……完全な『猟犬使い』仕様や。

 これで、宇宙でも地上でも、絶対的な死角から敵を撃ち抜けるようになるで」


「……猟犬使い、か。悪くない」


 マティアスは短く呟き、顎髭を撫でた。

 その静かな瞳の奥に、狙撃手としての鋭い光が宿る。


 戦局は、これまで以上に過酷な宇宙空間や、ノヴァの用意した異常な戦場へと移りつつある。

 だが、この新しい『眼』と『猟犬』があれば。

 どんな暗闇に潜む敵だろうと、確実に仕留めてみせる。

 しかし───


「……しかし、これだけの大規模な改修となると、どれほどの資金と資材が必要になるのか」


 マティアスは、設計図から視線を外し、深くため息をつくように言った。

 その眼には、エリシオンの現状がよく見えていた。


「この国は今、かつてないほど疲弊しているはずだ」

「……ッ」


 マティアスの言葉に、陽気だったギゼラはピタリと動きを止め、怪訝そうな顔をした。

 地下のシェルターで目覚めたばかりのギゼラは、外の情勢を詳しく知らされていなかったのだ。


「疲弊って……どういうことだい、おっさん?」


「ノヴァ・ドミニオンのプロパガンダだよ」


 マティアスは苦々しい声で答えた。


「フレギア・ノヴァは、自ら地上に落とした兵器『ヘリオス』による惨劇を、すべて我々エリシオンのせいだと世界に喧伝している。

 シグマ帝国の崩壊も、ガラス化した大地も、我々が非道な大量破壊兵器を使った結果だと……」


「なんだと!? あのクソ野郎ども、ふざけやがって……!」


 ガンッ!!


 ギゼラは激昂し、近くのパイプを殴りつけた。

 あの時、ゲイルが命を削ってまで守ろうとしたのに。

 その事実すら捻じ曲げられ、エリシオンは今、世界中から非難を浴び、孤立を深めているのだ。


「連日の激戦による物資の消耗に加えて、同盟国からの支援も打ち切られつつある。

 ……今のエリシオンに、これほどの最新鋭機を何機も新造・改修する予算が、どこにあるというんだ?」


 マティアスは、静かに菊花へ視線を向けた。

 ベテランの彼だからこそ、軍の兵站と政治の冷酷な現実を知っている。

 夢のような機体改修の裏に、どれほどの無理があるのかを。


 だが、菊花は小さく首を横に振った。


「おっちゃんの言う通りや。

 国庫はすっからかんやし、世界中から後ろ指差されとる」


 菊花はゴーグルをずり上げ、真剣な瞳で二人を見つめ返した。


「けどな、セレーナ代表をはじめとする政治家たちが、血反吐吐きながら交渉して、ギリギリの予算と資材を確保しとるんや。

 現場の兵士たちかて、ボロボロになりながら前線を維持してくれとる」


「……」

「それに、希望がないわけやないで。……むしろ、でっかい金脈を見つけたんや」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ