機体改修、新たなる力!
((……こういうとこ、烈火が見たら大喜びしそうだけどな))
胸元を晒しながら、シャオはスラム育ちの幼なじみの顔を思い浮かべ、ふっと笑った。
戦場は殺し合いの場だ。
だが同時に、烈火にとっては、日常に過ぎない。
戦場でも、いつものようにおっぱいを見るんだろう。
「いやぁ……シャオさん、化け物っすね。全然、動きが見えなかった」
「ああ。オレらの連携、完璧だったはずなんすけどね」
ぐったりと砂の上に寝転がった男たちが、苦笑いしながら口々に感想をこぼす。
「アンタらの動きは悪くなかった。定石通りで、間違っちゃいない」
シャオは腰に手を当てて、彼らを見下ろした。
「ただ、アタシみたいな規格外の相手に、定石通りに挑んだのが間違いだな。
戦場にルールブックはないんだから、もっとズル賢く立ち回らないと、死ぬぜ?」
「ハハッ、違いねぇ」
「次は、後ろから石でも投げさせてもらいますわ」
シャオの言葉に、男たちが声を上げて笑う。
シャオもつられて、快活な笑い声を南国の空に響かせた。
「シャオさーん! お疲れ様です!」
そこへ、訓練場脇のテントから、水色の制服を着た、少女兵士たちが駆け寄ってきた。
少女たちの手には、冷えたタオルとスポーツドリンクが握られている。
「おお、サンキュ。助かる」
シャオは笑顔でドリンクを受け取り、一気に喉に流し込んだ。
ゴキュッ、ゴキュッ、ゴキュッ。
冷たい液体が、火照った身体の隅々にまで染み渡っていく。
自分の身体は、強い。
そして、この規格外の肉体があれば、殺人的な加速を生み出すルナの『リミッター解除』にも、きっと耐えられる。
((待ってろよ、ノヴァの連中。……次は、アタシがアンタらを狩る番だ))
シャオは空になったペットボトルを握りつぶし、ギラリと目を光らせた。
復活した狼は、次なる戦場へ向けて、静かに牙を研ぎ始めていた。
………
……
…
訓練を終えた数時間後。
シャオは、エリシオン本国地下の秘密区域、その最奥にある巨大な格納庫へと呼び出されていた。
薄暗い通路を抜け、重厚なハッチをくぐると、そこにはすでに先客がいた。
「おう、シャオ。……随分とご機嫌じゃねえか」
格納庫の片隅で、壁に寄りかかっていた赤毛の青年が、ニヤリと笑って手を挙げた。
プロメテウス隊の切り込み隊長───烈火・シュナイダーだ。
その隣には、烈火に寄り添うようにして、桜色の髪を持つ少女───兎歌・ハーニッシュの姿があった。
「へっ、アタシが不機嫌だったことなんてあるかよ」
シャオは軽口を叩きながら、烈火の前まで歩み寄る。
二人は無言で拳を突き出し、ゴツン、と力強くぶつけ合った。
幼なじみ同士の、変わらない挨拶。
同時に、二人の口元に好戦的な笑みが浮かぶ。
と───
「……あれ? 兎歌、お前のそのスーツ……」
シャオはふと、兎歌が着ているパイロットスーツに目を留めた。
以前の厚手のものとは違い、異様に薄く、ボディライン───特にその豊かな『胸』の膨らみが、露骨に強調されている。
「あ、これ? えへへ……烈火が、こっちの方が動きやすくていいって言うから……」
兎歌は恥ずかしそうに頬を染め、もじもじと身をよじる。
その様子を見て、烈火は鼻の下を伸ばしながらサムズアップをした。
「だろ? 最高傑作だぜ。……触り心地も悪くねぇしな」
「バ、バカ烈火! ここはそういう場所じゃないでしょ!」
兎歌がポカポカと烈火の肩を叩く。
相変わらずのバカップルぶりに、シャオは呆れたように肩をすくめた。
「ったく、お前らなぁ……。相変わらずだな」
だが、そのやり取りが、どこか懐かしく、心地よかった。
「おーい、そこらへんにしとけや。バカップルども」
奥から響いてきたのは、聞き慣れた関西弁。
ツナギ姿の菊花が、タブレット端末を片手に歩み寄ってきた。
「おう、来たか。われらの班長!」
「待たせたな。……ほな、お披露目といこか」
菊花がタブレットの画面を操作すると───
カチャッ
スイッチ音と共に、広大な格納庫のメインライトが一斉に点灯した。
まばゆい光の中に浮かび上がったのは、二つの巨大なシルエット。
一つは、炎色の装甲を纏った、スマートかつマッシブな機体───『ブレイズ・ザ・ビースト』。
もう一つは、鋭角的な漆黒の装甲を持つ、狼のようなシルエットの機体───『ルナ・ザ・ウルフファング』。
「……おおっ」
シャオの口から、感嘆の息が漏れる。
「あんたらの機体、ここまでの実戦データをもとに、根本から見直して改修すんねん。
アップデートの時が来たってこっちゃ」
菊花は、自慢げに胸を張った。
「ブレイズとルナだけやない。向こうのドックでは、『ストラウス』も改修の真っ最中や。
ヘリオスで大破した『ウェイバー』も、回収したデータとパーツが届き次第、すぐに再建に入るで」
「すげぇな……。菊花、寝る暇あったのかよ」
烈火が感心したように言うと、菊花はフンと鼻を鳴らした。
「ウチを誰やと思とんねん。
……ノヴァの狂った連中に勝つには、機体もパイロットも、限界を超えてもらわなアカン。
そのための、最高のチューニングを用意したるわ」
菊花の言葉に、格納庫の空気がピンと張り詰める。
それは、ただの機械の整備ではない。
来るべき決戦へ向けた、反撃の狼煙だった。
~~~
「……てなわけで、まずはシステムの根幹からや」
菊花はタブレットを操作し、背後の巨大モニターにブレイズとルナの設計図を投影した。
無数の配線と数値が、青白い光を放って浮かび上がる。
「ブレイズは、ここまでの実戦データを元に、アニムスキャナーとの同調システムを完全に最適化する。
無駄な信号の伝達を削って、あんたの闘争本能を、もっとダイレクトに機体へ反映させるようにすんねん。
……烈火、あんたの直感が、そのままブレイズの速度になるっちゅうこっちゃ」
「へっ、上等じゃねえか。これでまた、俺の動きにキレが増すな」
烈火は不敵な笑みを浮かべ、拳を手のひらに打ち付けた。
「で、こっちがルナや」
菊花はモニターの表示を切り替える。
漆黒の狼のシルエットが、より鋭利な形状へと変化していく。
「ルナの基本設計には、もともとブレイズの初期戦闘データが反映されとったんやけど……
さすがに情報が古すぎたからな。今回の改修で、最新のデータを上書きして、制御システムをゼロから組み直した」
「おおっ、なんか前より賢そうになってんな」
シャオがモニターを見上げながら、目を輝かせる。
「アホか、賢いんやない。獰猛になっとるんや」
菊花は呆れたようにツッコミを入れると、今度は武装の設計図を呼び出した。
「システムだけやない。武装面もガッツリ強化や。
機体内部の粒子供給経路を太くして、伝導効率を限界まで引き上げた。
これで、あんたらの機銃やブレード、マルチプルユニットの出力が、前とは比べモンにならんくらい跳ね上がるで」
「すげぇ……。菊花ちゃん、天才かよ!」
両手を組んで感嘆の声を上げるシャオ。
「フン、当たり前や。……それに、兎歌の機体……リベルタもタダやないで?」
菊花は兎歌に向かって、意味ありげにウインクをした。
「リベルタのコンテナに入っとった『折り畳み式大太刀』やけど、片方を『フェーズドライフル』に換装すんねん」
「えっ、ライフル?」
「せや。高圧縮の粒子弾を、ブレードの力場技術でさらに束ねて撃ち出す、超火力・超射程の狙撃兵装や。
近接の大太刀と、遠距離のフェーズドライフル。
これで、リベルタはどんな状況でも、ブレイズを完璧にサポートできるっちゅうわけや」
「おおーっ! かっこいい!」
兎歌は豊かな胸の前で拳を握り締め、嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねた。
その豊満な胸が、薄いパイロットスーツ越しに、大きく揺れる。
烈火はまたしても鼻の下を伸ばしていたが、シャオはそんな幼なじみの尻を軽く蹴り飛ばした。
「おいコラ、どこ見てんだ。菊花ちゃんの説明聞いてやれよ」
「い、痛ってぇな! 聞いてるっての!」
痛がる烈火を尻目に、菊花は最後に、シャオの顔を真っ直ぐに見据えた。
「……で、最後はあんたや、シャオ。
この前も言うたけど、ルナには『リミッター解除』の機能を追加する」
「……ああ。アタシが超人だって、証明するためのシステムだな」
シャオの瞳に、鋭い光が宿る。
殺人的な加速を生み出し、パイロットの骨を軋ませるほどの負荷を強いる、諸刃の剣。
だが、ノヴァの侵攻を止めるためには、それほどの力が必要なのだ。
「せや。……覚悟はええな?」
「当たり前だ。アタシを誰だと思ってんだよ」
シャオは不敵に笑うと、隣にいる烈火に向かって右手を差し出した。
「どうやら、アタシもようやく、お前らと同じ土俵に上がれそうだな」
「へっ、遅せぇよ。置いていくとこだったぜ」
烈火も笑い返し、シャオの手に、勢いよく自分の手を重ねる。
パァンッ!
格納庫に乾いたハイタッチの音が響き渡った。
「よっしゃ、やったらぁ!!」
「行くぞ、ノヴァのクソ野郎ども!」
復活したプロメテウス隊の若きエースたちが、新たな力を前に、雄叫びを上げた。
格納庫の空気は、彼らの闘志と熱気で、今にも発火しそうだった。
そんな様子を見つつ……
「はいはい、熱気はそれくらいにしとき。……ほら、これ読んどけや」
菊花は呆れたように言いながら、分厚い紙の束を取り出す。
そして、烈火、シャオ、兎歌の三人に、それぞれ押し付けた。
「なんだこれ? すげぇ重いんだけど」
「新しいシステムの仕様書と、操作マニュアルや。
……エリシオンの最高機密が詰まっとるからな、データやなくて、あえてアナログの紙媒体なんや。
全部頭ん中に叩き込んどけよ。
実戦で『使い方わかりませーん』とか言うたら、シバクで」
「ええっ!? これ全部覚えるの!?」
兎歌が悲鳴を上げ、シャオも顔を引きつらせた。
烈火に至っては、すでに資料の束を枕にして寝転がろうとしている。
「アホ烈火! 寝るなボケェ!!」
「ぐへぇ!?」
菊花のローキックが炸裂!
烈火は思わず腹を抱え、




