俺とお前でダブルエースだ!
『しっかしまあ……まさか、お前と肩を並べて空を飛ぶ日が来るとはな』
烈火は通信パネルに映る金髪の男を見て、ニヤリと笑った。
『……フン。馴れ合うつもりはないぞ、烈火』
『違いねえ。
だが、背中を預けるのには、これ以上ないくらい手っ取り早い相手だ』
二人は、かつてリープランドの市街地で、そしてガラス化した砂漠で、互いの機体が砕け散るほどの死闘を繰り広げた。
殺し合った回数なら、誰よりも多い。
だからこそ――
相手の反射速度、格闘の癖、射撃のタイミング、そして絶対に諦めないという執念の強さを、骨の髄まで理解している。
事前の打ち合わせなど必要ない。
共同任務はこれが初めてだが、連携における不安などない。
『ところでよ、ゲイル』
『なんだ』
『さっき格納庫で「妻が窮地だ」とか抜かしてただろ。
前に兎歌から聞いたぜ。お前、うっかりプロポーズしちまったんだってな?』
烈火がからかうように尋ねると、通信パネル越しのゲイルの眉間がピクリと動いた。
『……っ、なぜそれを』
図星を突かれたのか、ゲイルは気まずそうに視線を逸らした。
プロメテウスの艦内で、女性陣のネットワークを甘く見てはいけない。
あの日の騒動は、すでに一部の知るところとなっていたのだ。
だが、少しの間を置いた後、ゲイルは真っ直ぐな眼差しをモニター越しの烈火に向けた。
『……確かに、始まりは俺の軽率な発言からの誤解だった。
婚姻届のような書類の提出や、形式的な手続きもまだしていない』
ゲイルの声に、一切の迷いはなかった。
『だが……俺があいつを守ると決めた。それだけで十分だ』
『はっ! 相変わらず理屈っぽくて強引な野郎だぜ。
まあ、菊花の奴も満更じゃなさそうだったし、生きて連れ帰ったら盛大に冷やかしてやるよ』
烈火の野性的な笑い声に、ゲイルは短く鼻を鳴らした。
だが、その冷徹な瞳の奥には、確かな熱情が燃えている。
((祖国に裏切られ、すべてを失った自分に、再び生きる意味と帰る場所を与えてくれた───!))
その身に万が一のことがあれば、ノヴァ・ドミニオンの基地ごと地図から消し飛ばす。
ゲイルの全身からは、そんな静かで苛烈な殺気が立ち上っていた。
『……前方より、熱源接近』
ゲイルが不意に声のトーンを落とし、戦闘時のそれへと切り替えた。
同時に、ブレイズのレーダーからも甲高いアラート音が鳴り響く。
赤黒い硫酸の雲の向こうから、無数の光点がこちらに向かって急速に接近してくる。
『ノヴァの無人迎撃ドローン、それに戦闘機部隊か。……数は三十。いや、四十だ』
基地の防衛網が、侵入者である二機を完全に捕捉したのだ。
編隊を組んだエイ型の戦闘機が雲を突き破り、ミサイルのハッチを一斉に展開する。
『数が多いな。弾幕を張られると面倒だ』
『だったら、撃たれる前に落とすまでだろ!』
烈火はブレイズのスロットルを全開に叩き込み、右手にマウントされた高出力E粒子ライフルを構えた。
ゲイルもまた、ダフネの両腕に装備されたシールドエッジを展開し、低く構える。
『足手まといになるなよ、烈火』
『俺のセリフだ、ゲイル!』
赤と紅白の流星が、迎え撃つノヴァの戦闘機群へと向かって、一直線に突撃していった。
描写するのすら馬鹿らしいほど、それは一方的な蹂躙だった。
圧倒的な物量と火力を持つノヴァ・ドミニオンの防衛部隊、総勢40機。
だが、赤と紅白の流星の前に、わずか数十秒でただの鉄屑へと変えられていた。
ブレイズが放つ高出力E粒子ライフルの極太の閃光が、雲ごと敵の編隊を消し飛ばす。
ダフネはシールドエッジを展開したまま音速の領域で乱舞し、すれ違いざまに無人ドローンを両断して次々と爆散させていく。
瞬く間に空の脅威を更地に戻した二機は、そのまま降下軌道に入り、基地の外周を取り囲む対空銃座の群れに火線の雨を降らせた。
未来都市のような白い装甲壁が砕け散り、黒煙が上がる。
防空システムを完全に粉砕したブレイズとダフネは、ノヴァの秘密基地の滑走路へと、大地を揺るがすほどの重い着地音を響かせた。
ズズン……ッ。
粉塵が晴れる中、二機は背中合わせのように立ち上がる。
通信パネル越しに、烈火とゲイルの視線が一瞬だけ交錯した。
言葉は必要ない。
生身であっても巨大な戦艦を落とせるほどの、常軌を逸した実力を持つ二人の『超人』。
その間に流れたコンマ数秒のアイコンタクトで、役割分担は完全に決定していた。
『外のデカブツは俺が引き受ける。お前は中に行け、ゲイル!』
『恩に着る、烈火!』
プシューッ、と排気音を鳴らし、ダフネ・ザ・フェニックスの胸部ハッチが勢いよく開く。
ゲイルはコックピットから身を躍らせ、十メートル以上の高さから生身で広場へと飛び降りた。
重力を無視したかのようにふわりと着地したゲイルの背後で、ブレイズが猛然と咆哮を上げる。
「オラァッ! まとめてかかってきやがれ、ノヴァのガラクタ共!」
基地の地下ゲートから湧き出してきたノヴァの量産機『ファランクス』や重装甲車両の群れ。
対して、烈火は一切の容赦なくE粒子ライフルを撃ち込んだ。
ドゥ───ッ。
青白い閃光が装甲を紙のように貫き、爆炎が連鎖する。
ブレイズは左腕のマルチプルユニットをバルカン形態に切り替え、広範囲に死の弾幕を張り巡らせながら、外周の防衛部隊のヘイトを完全に自身へと向けさせた。
その破壊の嵐を背に受けながら。
金髪の男は、ただ一筋の風となって基地のメインゲートへと突入した。
「侵入者だ! 撃て、撃てェッ!」
ゲートの奥では、通路を封鎖するようにノヴァの強化兵士たちが重機関銃を構えていた。
薬莢が雨のように降り注ぎ、無数の弾丸がゲイルの全身を狙う。
だが、彼の動きは人間の反射速度の限界を遥かに超えていた。
「遅すぎる」
ゲイルは弾道を見切り、残像を残すほどの速度で左右にステップを踏んで回避!
そして、ホルスターから愛用の大型拳銃を抜き放った。
走りながら、まったくブレのない姿勢で引き金を引く。
ダンッ! ダンッ! ダンッ!
乾いた銃声が三度響く。
機関銃の後ろにいた三人の兵士の眉間が、寸分の狂いもなく撃ち抜かれた。
血飛沫が舞い、巨体が崩れ落ちる。
「ヒィッ……! バケモノかよ……!」
パニックに陥った兵士たち。
アサルトライフルを構え、無差別に乱射!
だが、ゲイルは壁を蹴って天井近くまで跳躍し───
空中で身を捻りながら応射。
銃声が二つ。
さらに二人の頭部を粉砕すると、そのまま最も近くにいた兵士の肩口へと音もなく着地した。
「がっ……!?」
「邪魔だ」
冷徹な声と共に、ゲイルの両脚が兵士の首を万力のように挟み込み、そのまま体重をかけて捻り折る。
ゴキリという凄惨な音。
崩れ落ちる死体からアサルトライフルを奪い取ると、着地と同時に残りの兵士たちへ向けてフルオートで掃射した。
流れるような殺戮の舞曲。
一切の無駄がない、氷のように冷たく、そして圧倒的に美しい暴力。
シグマ帝国最強の男。
幾多の戦場を支配してきたトップエースの力は、機体を降りた生身であっても、何一つ変わらないのだ!
「待っていろ、菊花」
血だまりとなった通路を、ゲイルは靴底を汚すことすらなく歩み去る。
空になったアサルトライフルを無造作に放り捨て、再び自身の拳銃をリロード。
戦士は冷たい殺気を漂わせ、基地の深部へと足を踏み入れていった。
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基地の外周広場では、赤い悪魔と鋼鉄の巨人たちが激しい斬り合いを演じていた。
「チッ……こいつら、動きが人間離れしてやがる!」
烈火はブレイズの右腕をブレードに切り替え、迫り来る超重量級のコマンドスーツ『ファランクス』のシールドを斜めに叩き割った。
だが、怯んだ隙を突く間もなく、別のファランクスが死角から砲撃してくる。
荷電粒子砲の光!
それを、ブレイズはスラスターを吹かして、ギリギリで回避。
((統率の取れた動き……、明らかに普通の兵士のモンじゃねえ))
ノヴァ・ドミニオンの最重要拠点のひとつ。
プラズマリアクター搭載機が駐留するこの基地を守るため、
配備されているのは痛覚や恐怖心を麻痺させ、反射神経を極限まで引き上げられた『高水準の強化兵士』たちなのだ。
「でもな、俺の方が強ぇッ!」
ブレイズが猛然とステップを踏み込み、ファランクスの懐に潜り込んで装甲を撃ち抜こうとした───
その時だ。
「───ッ!」
基地の巨大な格納庫のゲートを吹き飛ばし、一機のコマンドスーツが飛び出してきた。
((灰色の軽装甲フレーム……こいつは!))
胸部に埋め込まれたコアが、まるで血のように赤く明滅している。
クロト・アスクの駆る、『カーバンクル』だ。
ズォォォォォッ……!!
その機体は、ただ現れただけではない。
胸の赤いコアから溢れ出した莫大なエネルギーが、機体全体を包み込み、陽炎のように揺らぐ『赤熱するオーラ』となって迸っていた。
「……あいつ、この前よりヤバい気を放ってやがるな」
烈火のネクスターとしての第六感が、ビリビリと警鐘を鳴らす。
互いの通信回線は繋がっていない。
コックピットの中でクロトが何を思い、何を叫んでいるのか、烈火に知る由もない。
だが、カーバンクルから放たれる濃密で狂気的な『殺意』だけは、装甲越しでも痛いほどに伝わってきた。
ヒュオ───ッ!
カーバンクルが大地を蹴り砕き、両腕のガンブレードを構えてブレイズへと肉薄する。
ブレイズも、即座にE粒子ブレードを交差させ、迎え撃つ。
二つの刃が激突し、凄まじい火花とプラズマの衝撃波が舞い散った。
「重てえ……ッ! だが、退くわけにはいかねえんだよ!」
ブレイズとカーバンクルは鍔迫り合いのまま、ギリギリと互いの装甲を削り合う。
その膠着状態を切り裂くように、今度は上空の雲を割って舞い降りる影。
姿を現したのは───
エリシオンの高速輸送艦『ヘルメス』だ!
『烈火さん! 遅れてすみません、今、援護します!』
ヘルメスからの通信と共に、上空のハッチから、黒い影が投下された。
馬ほどの大きさの『コマンドロボ』だ。
ストンッ。
ロボは着地と同時に四足で駆け出し、ゲイルの後を追うように基地へと入っていった。
そして、ロボットに続くようにして、一機のコマンドスーツがリパルサーリフトを吹かして滑空してきた。
シホ・フォンテーヌの駆る『イノセント』だ。
右腕に粒子バルカン、左腕にシールドエッジを備え、背部の大型粒子タンクでエネルギー消費をカバーする、シホ専用の精鋭仕様である。
『シホちゃん、私も上から撃つから、無理しないでね~』
通信回線から、おっとりとした声が聞こえてくる。
栗毛の豊かな巨乳を揺らしながら、ヘルメスの操舵席で火器管制を握っている少女。
ノエル・コットンだ。
巧みな操作により、ヘルメスの機銃とリニアキャノンが火を噴き、ブレイズを取り囲もうとしていたファランクスたちを牽制する。
「シホ! ノエル! 助かったぜ!」
烈火は歓声を上げる。
その隣、地上に降り立ったシホ機は、すぐさま右腕の粒子バルカンをカーバンクルに向けて掃射した。




